債務名義とは・・・
売買契約の買主が代金を支払わなかった場合、売主は買主の所有する物などを勝手に取り上げて代金と相殺することはできません。
このような行為を自力救済といい、これは原則として禁止されています。
権利というものは国家が認めたものなので、国家権力により実現するほかありません。
国家権力による権利の実現を強制執行といいます。
強制執行が許されるためには、強制執行を許す国家の文書が必要になります。
この文書を債務名義といいます。
債務名義で一般的なものは、裁判所の判決です。
裁判所に訴えを提起して判決をもらい、その後に買主が所有している不動産や債権、動産などの財産に対して強制執行を行うことになります。
判決を取得するための手続きである民事訴訟について定めた法律が民事訴訟法であり、強制執行について定めた法律が民事執行法です。
判決を取得して強制執行をする手続きの間に、債務者の財産状態が悪化して、強制執行すべき財産が失われ、判決が意味のないものになることがあります。
そのような場合に備えて、判決を取得する前に、一時的に相手の財産の処分などを禁止することが認められています。
これを仮差押といい、民事保全法がその手続きを定めています。
債務名義とは、強制執行によって実現されることが予定されている、私法上の給付請求権の存在、範囲、当事者を記載した公の文書です。
債務名義を得るためには、訴訟を提起して判決をもらうという方法で行われています。
訴訟は時間がかかり、それに要する労力と費用は膨大なものになるため、訴訟によらず簡易、迅速に債務名義を得る手段として、仮執行宣言付支払督促、執行認諾約款付公正証書、仮執行宣言付小額訴訟判決、即決和解調書が利用されることがあります。
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訴訟とは・・・
◇訴訟とは
訴訟とは、原告と被告が対立して判決という裁判を求めるものです。
なぜ判決を求めるかといえば、判決がないと原告は強制執行ができないためです。
◇訴訟の費用
①訴訟を提起するときは、訴訟の目的の価額に応じて、一定の手数料を収入印紙で裁判所に納めます。
訴訟の目的物の価額 | 手数料額 |
①100万円までの部分 | 10万円ごとに1,000円 |
②100万円を超え500万円までの部分 | 20万円ごとに1,000円 |
③500万円を超え1,000万円までの部分 | 50万円ごとに2,000円 |
④1,000万円を超え10億円までの部分 | 100万円ごとに3,000円 |
⑤10億円を超え50億円までの部分 | 500万円ごとに1万円 |
⑥50億円を越える部分 | 1,000万円ごとに1万円 |
*具体的な印紙額
訴額10万円 | 1,000円 |
訴額100万円 | 1万円 |
訴額500万円 | 3万円 |
訴額1,000万円 | 5万円 |
訴額10億円 | 302万円 |
訴額50億円 | 1,102万円 |
②郵券代
訴状等を相手方に送達するための郵券(切手)を訴状と一緒にあらかじめ裁判所に納めなければなりません。
◇裁判管轄
裁判所には簡易裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、高等裁判所、最高裁判所があります。
これらの裁判所のうち、どの裁判所が手続きを担当するかを管轄といいます。
管轄には、当事者の意思によって変更することができない専属管轄と、当事者の意思によって変更できる任意管轄があります。
第一審は簡易裁判所または地方裁判所ではじまります。
原告が訴えを提起する場合、このどちらかの裁判所に申し立てなければならないかは、原告が訴えようとする訴額によって決まります。
140万円を超えなければ簡易裁判所へ、140万円を超えれば地方裁判所へ提起しなければなりません。
訴えの提起をどの地域を管轄する簡易裁判所または地方裁判所にするかは、土地管轄で決まります。
原則として、被告の住所地を管轄する裁判所ですが、例外が広く認められています。
借主と連帯保証人を共同被告として貸金返還請求訴訟をを提起する場合は、そのうち一人に管轄のある裁判所であればよいとされています。
第一審に限っては、書面による合意により法定管轄と異なる事物管轄、土地管轄を定めることができます。
これを合意管轄といいます。
被告が訴訟に応ずれば、異なる管轄の裁判所で審理されます。
これを応訴管轄といいます。
140万円を超えない訴訟も、当事者の合意や、被告の応訴があれば地方裁判所で審理を受けることができるようになります。
◇訴訟の提起
訴訟は、訴状を裁判所に提出して提起します。
訴状には、求めるべき権利の内容を明らかにし、その訴訟物の要件事実を満たす主張が記載されていないと訴えは却下されます。
要件事実とは、原告の請求を理由付ける事実です。
訴状と一緒に、訴訟の内容によってあらかじめ必要な添付書類を提出しなければなりません。
◇訴訟の注意点
①訴訟代理人の許可申請
地方裁判所では、原則として弁護士でなければ訴訟の代理人になることはできませんが、簡易裁判所では親族、従業員など弁護士以外の人も裁判所の許可を得て代理人となることが認められます。
②訴状の被告への郵送
訴状、控訴状や判決書などの重要書類は、法定の方式に従って当事者などに通知されます。
これを送達といいます。
送達は原則として、書類を受け取るべき人に交付する方法で行われます。
これを交付送達といいます。
通常は、郵便局の特別送達によってなされています。
送達場所に本人も代理人も不在の場合など交付送達ができないときには、送達場所に書留郵便で発送すれば、書類の到達にかかわりなく、その発送時に送達したことにする方法が認められています。
これを付郵便送達といいます。
受取人の住所や就業先など送達場所が不明の場合には、公示送達によります。
裁判所書記官が送達する書類を保管して、受け取るべき者が取りに来ればいつでも交付する旨を裁判所の掲示板に掲示することによって行うものです。
原則として、当事者が裁判所書記官に対し、相手の住所などを調査した結果不明であったことの報告書を提出して、申立をします。
③証拠
・自白した事実は証明する必要はありません。
・原告の主張を明らかに争わない場合は自白したものとみなされます。
これを擬制自白といいます。
訴状の送達を受けたにもかかわらず被告が期日に欠席すると被告が敗訴するのは、擬制自白が成立するからです。
・公示送達の場合は、請求に必要な事実を証明する必要があります。
◇債務名義
訴訟を提起して判決が出た後に、控訴や上告によって争うことができなくなると、判決は確定し、この確定判決が債務名義となります。
第一審の判決が出ても、不服がある者は控訴できます。
控訴判決にもまだ不服がある者は、法律の定める理由があれば上告するすることができます。
判決は確定しないと強制執行できないので、人によっては確定しないように時間稼ぎのために上訴をして原告の権利の行使を遅らせようとすることがあります。
これを防ぐために、判決が確定しなくても強制執行ができる仮執行宣言を判決に付し、たとえ控訴または上告されても、強制執行を可能にしています。
仮執行宣言がついた判決も債務名義となります。
訴訟提起後、裁判所はいつでも和解を試みることができます。
その結果、裁判所において和解が成立し、これが裁判所の調書に記載されると、その和解調書は、確定判決と同じ効力を有し、債務名義となります。
ただし、和解調書には既判力はないとされています。
既判力とは、判決が確定するとそこで判断された訴訟物に関する事項に当事者も裁判所も拘束されることをいいます。
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支払督促とは・・・
◇支払督促とは
支払督促とは、債務者の住所地を管轄する簡易裁判所に申立を行いますが、債務者を裁判所に呼び出さずに、書面で審理し、証拠調べ無しに債務者に支払を命ずるものです。
この支払督促に仮執行宣言が付されたものを仮執行宣言付支払督促といいます。
仮執行宣言付支払督促は、約5週間で確定判決と同じ効力である強制執行できるという効力を有する債務名義になります。
支払督促は印紙額も訴訟の半分で済みます。
債務者の住所を管轄する簡易裁判所に申立をする必要があり、もし異議が出た場合は、債務者の住所地の簡易裁判所ないし地方裁判所が管轄になり、またもう一度最初から訴えを提起しなおさなければならなくなることなどから、二度手間になる可能性があります。
また、支払督促は、金銭の請求しかできず、物権の引揚げなどは訴訟によらざる得ません。
また、公示送達による送達を認めないので、債務者が行方不明の場合は通常訴訟によらなければなりません。
◇申立手続
債務者の住所地を管轄する簡易裁判所の書記官に対して申し立てます。
これは専属管轄です。
合意管轄は認められません。
管轄の異なる債務者に対し同じ場所に一緒に申し立てることはできません。
数人に対する支払督促の申立は、その数人が同一簡易裁判所に管轄があれば認められます。
手形小切手金請求であれば、支払地の簡易裁判所に申し立てる場合は、債務者の住所に関係なく数人に対する請求の併合が認められます。
申立を受けた書記官は、その申立が適法なものかどうかについて判断します。
その判断において、相手方の言い分は聞かず審理し、その請求に一応理由があると認められれば、支払督促という処分をします。
この支払督促は債務者に対して送達し、債権者に対しては支払督促を発した旨を通知します。
下記の場合には、申立は却下されます。
①管轄違いの場合
②「金銭その他の代替物または有価証券の一定の数量の給付目的とする請求」でない場合
③申立書の内容から請求権の不存在、履行期未到来の場合
④公序良俗・強行法規違反であることが明らかな場合
◇仮執行宣言
債権者は支払督促の送達の日の翌日から2週間を経過すると仮執行宣言の申立ができますが、その日から30日以内に仮執行宣言の申立をしないと、支払督促は効力を失います。
仮執行の宣言を付した支払督促に対し督促異議の申立がないときは、確定判決と同一の効力を有します。
債務者は、支払督促の確定後であっても、請求異議の訴えを提起して請求権の存在・内容を争うことができます。
◇支払督促の注意
①支払督促の送達は、債務者に対してのみ行われ、その送達が不能の場合、債権者が2か月以内に新たな送達場所の申出をしないときは、支払督促の申立を取り下げたものとみなされます。
②支払督促の申立を却下する処分に対しては、告知を受けた日から1週間以内に異議の申立ができ、この異議の申立の裁判に対しては不服の申立はできません。
③仮執行宣言の申立を却下する処分に対しては、告知を受けた日から1週間以内に異議の申立ができ、この異議の申立の裁判に対しては告知を受けた日から1週間以内に即時抗告することができます。
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