時効とは・・・
◇消滅時効
消滅時効とは、権利があるにもかかわらず行使せず、一定期間放置しておくと、その権利が消滅することをいいます。
時効の援用とは、債権者が権利を請求したときに、時効が成立している場合に、債務者が消滅時効で自分に対する債権が消滅したと意思表示することにより、債務者がその債務を免れることをいいます。
時効消滅の効果は、時効期間のはじめの起算日に遡って生じる遡及効があります。
◇取得時効
取得時効とは、真実の権利者でない人が、一定期間権利を行使する状態を継続した場合、その人に権利を取得させることを認め、その反射的効果として真実の権利者の権利を失わせることをいいます。
所有権については、10年または20年間物を占有すると取得時効が完成します。
自分の物と思って10年間または自分の物と思うことに過失がある場合は20年間、その物を占有していた人に所有権を取得させることにしています。
取得時効も時効の援用は必要で、その効果も遡及します。
◇除斥期間
除斥期間とは、取消権などの形成権の期間制限、不法行為による損害賠償請求権に関する20年などのことをいいます。
除斥期間は、消滅時効と違って、中断はせず、援用も必要ありません。
除斥期間の起算点は、権利の発生時から起算されます。
権利の消滅の効果は、遡及しません。
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改正後の民法での消滅時効は・・・
令和2年4月1日施行の民法改正では、①消滅時効の時効期間、②起算点、③時効障害事由が変更されました。
①②消滅時効の時効期間は、原則として「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年」または「権利を行使することができる時から10年」のいずれか早い方とされました。
わかりやすくいうと、例えば、契約書に弁済期などの権利行使できる時期が記載されているような場合には、時効期間は5年となります。
これは債権者が権利行使できることと、その時期を知っていることが明らかなので、短い時効期間の5年となるわけです。
ですので、契約書などを交わし、弁済期を決めているような場合には、消滅時効の時効期間はすべて5年になるということです。
また、この改正によって商法による消滅時効の規定「商取引から生じた債権の消滅時効期間を原則5年とする」が廃止され、民法の規定に統一されました。
③時効障害事由とは、改正前は時効の「中断」と時効の「停止」と呼ばれていました。
改正後は「中断」を「更新」、「停止」を「完成猶予」と呼ぶようになりました。
ちなみに更新とは、時効の更新事由があった時点から新たに時効が進行を始めるという制度です。
完成猶予とは、時効の完成猶予事由があった場合に、その事由が終了するまで時効が完成しないという制度です。
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時効の更新とは・・・
◇時効の更新
時効の更新とは、時効が近づいている債権の消滅を防ぐために設けられている制度をいいます。
時効期間の進行中に、時効の内容である権利の消滅または権利の取得と相容れない事実が発生した場合に、それまでの時効期間の進行を否定するものです。
時効の更新には、請求、差押・仮差押・仮処分、債務の承認があります。
請求には、訴訟の提起、支払督促、和解および調停の申立、破産手続等の参加があります。
時効を更新させるには、大きく分けて、訴訟をする方法と、債務者に債権を承認してもらう方法があります。
債務の承認として、残高確認書、一部弁済、手形の差し入れ、債務確認書の作成、弁済猶予の申出などになります。
◇催告
訴訟の提起のような中断手続きをとらないで、とりあえず権利の存在を相手方に通知しておくことを催告といいます。
催告は、正式な中断手続きではなく、完全な更新の効果を生じません。
催告は、6ヶ月以内に訴えの提起などの更新手続きを取らない限り、更新の効力を生じません。
また、催告の繰り返しによる時効更新も認められていません。
催告の効果的な方法は、時効完成前に、正式な更新手続きをとることが困難なときに、とりあえず催告して時効期間を延ばすという方法です。
通常は内容証明郵便で行います。
◇裁判上の催告
裁判上の訴えをする場合、それが却下・取下されたとしても、それは裁判上の催告とされます。
裁判上の催告をすると、訴訟の終了後6ヶ月以内に他の時効更新の措置をとれば時効更新の効力が生ずると解されています。
◇手形・小切手債権の時効更新
手形・小切手の消滅時効の更新事由は、必ず振出人およびすべての裏書人に対して行い、さらに原因債権についても時効を更新しておかなければなりません。
①催告の場合は、振出人とすべての裏書人へ請求し、催告後6ヶ月以内に手形訴訟を起こすか、差押、仮差押、仮処分の申立を行う必要があります。
②債務承認の場合は、手形に債務承認をすることを書いた紙を付箋にしてつけ、支払呈示の確認をしておくことが必要です。
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時効の完成猶予とは・・・
時効の完成猶予とは、時効の更新とは異なり、時効完成の際にその事情があれば、時効の完成が猶予されるというものです。
それまでの時間の経過を否定されるものではなく、完成猶予の事由がなくなれば、引き続き時効期間が進行します。
時効の完成猶予事由は下記になります。
①未成年者または成年被後見人の有する債権について、時効完成時に法定代理人がいない場合、行為能力者となった時または法定代理人が選任された時から6ヶ月は時効の完成が猶予されます。
②未成年者または成年被後見人が法定代理人に対して有する債権は、行為能力者となったり、新たな法定代理人が選任されてから6ヶ月を経過するまで時効は完成しません。
③夫婦間の債権は、婚姻が解消してから6ヶ月しなければ時効は完成しません。
④相続財産の中の債権は、相続人確定まで、あるいは、相続財産管理人が選任されるまで時効は完成しません。
⑤天災、事変の場合には、その障害がなくなった時から2週間するまで時効の完成は延期されます。
⑥債務者が特別清算をしたときに、特別清算開始の効力を受ける協定債権は、特別清算開始の取消しの登記または特別清算終結の登記の日から2ヶ月を経過するまで、時効は完成しません。
時効の援用とは・・・
◇時効完成後の債務の承認
民法では、時効利益は時効完成後に放棄することができます。
しかし、時効完成後の債務の承認は時効利益の放棄ではありません。
時効利益の放棄とは、民法で、債務者が時効の完成を知っていることが必要だからです。
では、時効の完成を知らない場合に、債務の承認をしてしまうとどうなるのでしょうか?
判例では、「債務者が、消滅時効完成後債権者に対し債務の承認をした場合には、時効の完成を知らなかったときでも、信義則に照らし、その後の時効の援用をすることは許されない」としています。
要するに、時効の援用をしていなければ、時効期間が到来していても、債務を承認してしまえば、時効は中断するということです。
これを時効援用権の喪失といいます。
◇時効についての注意
①公正証書を作っても時効期間は変わりません。
②請求書の発送を繰り返しても時効期間は変わりません。
③破産手続参加、再生手続参加、または更正手続参加の場合の時効中断の効力は、届出債権が確定したときまで続きます。
④分割払債権は、個々の分割債権ごとに通常の消滅時効が成立します。