合併比率の不公正と合併無効事由・・・

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合併比率の不公正と合併無効事由・・・

東京高判平成2年1月31日(合併無効確認請求控訴事件)
資料版商事法務77号193頁

<事実の概要>

上場会社たるY社は、昭和62年4月30日、Y社が約85%の株式を所有する非上場会社である子会社A社との間で、Y社を存続会社、A社を消滅会社とする吸収合併
行い、合併比率を1対1とする本件合併契約を締結した。

当該契約では、A社は、同年3月末日における貸借対照表、財産目録等を基礎として一切の資産・負債等をY社に承継させ、同年4月1日から合併期日までの資産・負債の変動については別に計算書を作成してY社にその内容を明示することとされていた。

A社は、同年3月末日以降、2度にわたり、其の資本額を各2倍にする増資を行い、資産の評価替を行なった。

Y社の株主総会は、同年6月26日、本件合併契約を承認した。

Y社の株主Xは、①本件合併比率は、いずれの資産によっても著しく不当かつ不公正であるから、合併は無効である、②本件承認決議は特別利害関係人が議決権を行使したため著しく不当な決議がなされたものであり、決議取消事由を有すること等を主張し、本件合併の無効確認を求めた。

原審(東京地判平成元・8・24判時1331号136頁)はXの請求を棄却した。

Xは控訴した。

なお、本判決は、原審判決を多数引用しており、以下の判決理由における引用部分については原審判決の該当箇所を直接掲げる形で表記している。

<判決理由>控訴棄却。

「Xは、合併比率が著しく不当かつ不公正であることが合併無効事由に該当すると主張するが、合併比率が不当であるとしても、合併契約の承認決議に反対した株主は、会社に対し、株式買取請求権を行使できるのであるから、これに鑑みると、合併比率の不当または不公正ということ自体が合併無効事由になるものではないというべきである。

・・・仮に合併比率が著しく不公正な場合には、それが合併無効事由になるとのXの主張を前提にしても、・・・各合併当時会社の株式の価値及びそれに照応する合併比率は、・・・多くの事情を勘案して種々の方式によって算定されうるのであるから、厳密に客観的正確性をもって唯一の数値とは確定しえず、微妙な企業価値の測定として評される範囲を超えない限り、著しく不当とはいえない。」

株式価額は、A社については類似業種比準方式、資本還元方式など様々な方式で試算した上で実質純資産価額方式によることとし1株あたり2666円、またY社の株式の価値は取引所における株価の終値平均値である625円と算定された。

なお、株式価値の算定は、Y社の依頼により、外部の証券系シンクタンクが行なった。

これによれば合併比率はA社株式1株に対し、Y社の株式4株の割合となるが、その後、A社の本件増資が行なわれ、合併比率は1対1とされたことは、両合併当時会社の株式の価値を相当な方法によって算定し、1対1と定められたものと認めることができ、同合併比率が著しく不当であるということはできない。

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会社分割と債務履行の見込み・・・

名古屋地判平成16年10月29日(会社分割無効確認請求事件)
判時1881号122頁

<事実の概要>

X1銀行及びX2銀行は、映像ソフト卸売業を営むY1株式会社の株主兼債権者である。

Y1社は平成15年6月18日、Y2株式会社を設立し、映像ソフト卸売部門の営業全部を承継させる物的新設分割(以下「本件分割」という)を実行したが、X1銀行・X2銀行の貸金債務を含む金融債務はY1社に残るものとされた。

ところがY1社は、同年6月30日に民事再生手続を申立て、7月14日に開始決定され、翌平成16年1月30日には破産宣告がなされた。

X1銀行・X2銀行は、本件分割は「債務の履行の見込み」がないのになされたもので無効であると主張して、その無効確認を求めた。

<判決理由>請求認容。

「商法374条の2第1項3号には、分割会社が本店に備え置くべき書類として「各会社の負担すべき債務の履行の見込みのあること及びその理由を記載したる書面」が挙げられているが、同規定は、形式的にかかる書面の作成、備え置き義務を定めているにとどまらず、分割会社が負っていた債務を分割計画書の記載に従って新設会社が承継する場合においても、分割会社が同債務を負う場合においても、その履行の見込がない限り、会社分割を行なうことができないことを定めているものと解される。

そして、同規定の趣旨が会社債権者の保護にあることからすると、この債務履行の見込みは、分割計画書の作成時点、分割計画書の本店備え置き時点、分割計画書の承認のための株主総会の各時点だけ存すればよいのではなく、会社分割時においてこれが存することを要するものと解するのが相当である。

また、債務の履行の見込みは、各会社が負担する個々の債務につき、その弁済期における支払について存在することを要すると解される。」

本件では、分割日から12日後に再生申立がなされていること、申立理由の1つが、申立日を満期日とする手形の決済ができないことであること、申立に添付された平成15年6月25日のY1社の清算(予定)貸借対照表によれば、Y1社の資産合計が約1億3000万円であるのに対して負債合計は約33億8000万円であること、監督委員が提出した再生計画に対する意見書においても、Y1社が平成15年2月28日時点ですでに10億円余の債務超過であったことが明記されていること、その後再生手続が廃止され破産宣告に至っていること等の事情からすれば、「(Y1社の)債務の履行の見込みは分割計画書の作成時点、分割計画書の本店備え置き時点、分割計画書の承認のための株主総会、会社分割時のいずれの時点においても存在しなかったと認められるから、本件分割は無効事由が存する。」

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企業買収の基本合意書における協議禁止条項の効力・・・

最決平成16年8月30日(情報提供又は協議禁止仮処分認可決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件)
民集58巻6号1763頁、判時1872号28頁、判夕1166号131頁

<事実の概要>

X金融グループに属すX信託銀行は、平成6年5月21日、Y金融グループに属すY1株式会社(持株会社)、Y2信託銀行及びY3銀行(以下「Yら」という)との間で、Y2銀行の営業の一部等(以下「本件対象営業」という)をXグループに移転すること等からなる事業再編と両グループの業務提携(以下「本件協働事業化」という)に関して合意した(以下「本件基本合意」という)。

その際に交わされた基本合意書には、「各当事者は、直接又は間接を問わず、第三者に対し又は第三者との間で本基本合意書の目的に抵触しうる取引等にかかる情報提供・協議を行なわないものとする」という条項(以下「本件条項」という)が置かれていた。

X銀行とYらは、本件基本合意に基づき、同年7月末日までをめどとして本件協働事業化の詳細条件を定める基本契約の締結を目指して交渉をしていたが、その後、Yらは、グループの現在の窮状を乗り切るためには、本件基本合意を白紙撤回し、Y2銀行を含めた形でA金融グループと統合する以外にないとの経営判断をするに至り、同年7月14日、X銀行に対し、本件基本合意の解約を通告するとともに、A株式会社(Aグループの持株会社)に対し、Y2銀行の本件対象営業等の移転を含む経営統合の申入れを行い、この事実を公表した。

X銀行は、YらがAグループとの間で経営統合に関する協議を開始したことは本件条項所定のX銀行の独占交渉権を侵害するものであると主張して、本件基本合意に基づき、Yらが、X銀行以外の第三者との間で、本件基本合意の有効期間である平成18年3月末日までの間、Y2銀行の本件対象営業等の第三者への移転若しくは第三者による承継に係る取引、Y2銀行と第三者との間の合併若しくは会社分割に係る取引またはこれらに伴う業務提携に係る取引に関する情報提供または協議を行なうことの差止を求める仮処分命令の申立をした。

東京地裁(平成16・7・27)は、X銀行の申立を認容。

Yらが異議の申立をしたが、同年8月4日、同裁判所は本件仮処分決定を認可する旨の決定をした。

Yらが決定を不服として保全抗告をしたところ、東京高裁(平成16・8・11)は、現時点において、X銀行とYらとの間の信頼関係は既に破壊されており、両者が目指した最終的な合意の締結に向けた協議を誠実に継続することを期待することは既に不可能となったとして、原決定を取消し、仮処分命令の申立を却下した。

これに対し、X銀行が許可抗告をした。

<判決理由>抗告棄却。

本件条項に基づく不作為義務は、最終的な合意を成立させるための手段であるから、「今後、X銀行とYらが交渉を重ねても、社会通念上、上記の最終的な合意が成立する可能性が存しないと判断されるに至った場合には、本件条項に基づく債務も消滅するものと解される。」

「現段階では、X銀行とYらとの間で、本件基本合意に基づく本件協働事業化に関する最終的な合意が成立する可能性は相当低い」が、しかし、「本件の経緯全般に照らせば、いまだ流動的な要素が全くなくなってしまったとはいえず、社会通念上、上記の可能性が存しないとまではいえないものというべきである。

そうすると、本件条項に基づく債務は、いまだ消滅していないものと解すべきである。」

「本件仮処分命令の申立は、仮の地位を定める仮処分命令を求めるものであるが、その発令には、「争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害または急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」との要件が定められており(民事保全法23条2項)、この要件を欠くときには、本件仮処分命令の申立は理由がないことになる。

・・・本件基本合意書には、X銀行及びYらが、本件協働事業化に関する最終的な合意をすべき義務を負う旨を定めた規定はなく、最終的な合意が成立するか否かは、今後の交渉次第であって、・・・Xは、その成立についての期待を有するにすぎないものであることが明らかである。

そうであるとすると、Yらが本件条項に違反することによりX銀行が被る損害については、最終的な合意の成立によりX銀行が得られるはずの利益相当の損害とみるのは相当ではなく、X銀行が第三者の介入を排除して有利な立場でYらと交渉を進めることにより、X銀行とYらとの間で本件協働事業化に関する最終的な合意が成立するとの期待が侵害されることによる損害とみるべきである。

Xが被る損害の性質、内容が上記のようなものであり、事後の損害賠償によっては償えないほどのものとまではいえないこと、前記のとおり、X銀行とYらとの間で、本件基本合意に基づく本件協働事業化に関する最終的な合意が成立する可能性は相当低いこと、しかるに、本件仮処分命令の申立は、平成18年3月末までの長期間にわたり、YらがX銀行以外の第三者との間で前記情報提供または協議を行なうことの差止を求めるものであり、これが認められた場合にYらの被る損害は、Yらの現在おかれている状況からみて、相当大きなものと解されること等を総合的に考慮すると、本件仮処分命令により、暫定的に、YらがX銀行以外の第三者との間で前記情報提供または協議を行なうことを差止なければ、X銀行に著しい損害や急迫の危険が生ずるものとはいえず、本件仮処分の命令の申立は、上記要件を欠くものというべきである。」

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企業買収と保証条項・・・

東京高判平成8年12月18日(損害賠償請求事件)
金法1511号61頁

<事実の概要>

A株式会社は、Yの有するB株式会社の株式約92%を買い取り、B社を買収する事を検討し、銀行を通じてYと交渉を行ない、B社の純資産額を基礎として売買代金を2億240万円とすることで交渉はまとまりかけた。

ところが、A社がB社の資産の調査をしたところ、B社のC社に対する債権は回収可能性に乏しく、売買代金の算定根拠になったB社の純資産額に疑問が生じることとなった。

そこでA社は、更に調査を継続すべきところ、Yが契約を急いだこともあって、これに代えて、Yが、C社の財務内容が健全であり、C社が履行を怠ったときは、連帯して保証する旨の特約(本件保証条項)を、従前作成していた契約書案に加えることとして、売買契約が締結された。

しかしその後、C社が債務超過で休業状態となり、債務の履行ができない状態になったため、A社を吸収合併したX株式会社が、Yに対し、本件保証条項が損害填補契約である等と主張し、B社の資産の減価分につき損害賠償を請求した。

<判決理由>請求一部認容。

「(上記の)事実に、・・・本件契約書には、契約締結後の監査の結果、B社の平成3年12月31日現在の貸借対照表記載の純資産額が減少した場合には、その減少分だけ代金額を調整する旨(第3条)及びYが本件契約条項に違反した場合、これによりA社が受ける損害を補償する旨(第8条)の各規定があり、これらは、前記の経緯により第1条第13項の規定(本件保証条項)が追加される以前の契約書案にも記載されていたことを総合して考慮すると、本件保証条項の規定の趣旨は、YがA社に対しB社のC社に対する債権等が回収可能であることを保証し、その回収が不能な場合にB社に生ずる損害を填補する旨を約したものと解するのが相当である。」

「本件売買契約において、A社がB社の純資産額を基礎にYからの株式買収価格を決定したこと、その純資産額の算出に当たり、土地及び営業権以外の資産は貸借対照表上の金額どおりに評価され、B社のC社に対する・・・債権等についても、その金額の資産が存在するものと評価されたことは、前記のとおりである。

そして、B社の現実の資産が右評価を下回る場合には、B社の総発行済株式の評価はその差額だけ減少することになるから、・・・C社の債務超過及び同社に対する債権の回収不能等によって、A社ないしこれを承継したX社には、・・・4910万455円の損害が生じたものと認めることができる。」

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