親子関係不存在確認の審判・・・
当事者間に親子関係不存在確認の合意が成立し、その無効の原因について争いがない場合、家庭裁判所は、さらに必要な事実を調査した上、調停委員会を組織する家事調停委員の意見を聴き、その合意を正当と認めるときに親子関係不存在確認の審判を行います。
親子関係不存在確認の訴えによって嫡出父子関係を否定するには、何人も疑いを差し挟まないような信頼するに足りる科学的証拠によって立証されることが必要であって、供述証拠等を含む諸般の証拠による推認を要する場合には、たとえその証明が証拠の優越の程度ではなく確信に至る程度のものであっても、嫡出推定を排除することができないとして、親子関係不存在確認の訴えを却下した事例があります。
この場合、人事訴訟では、父子関係の存否に関する鑑定に協力しない相手方に対して、不利益な判断をすることは許されず、また、不法行為であるとはいえないとされます。
親子関係不存在確認の審判は、適法な異議の申立がないとき、また、異議の申立を却下する審判が確定したときは、確定判決と同一の効力を有します。
しかもその効力は第三者に及ぶ対世的効力を有します。
利害関係人は家庭裁判所に対し、当事者が親子関係不存在確認の審判の告知を受けた日から2週間以内に異議の申立をすることができます。
異議の申立があれば、審判は当然にその効力を失います。
異議申立人は、異議の申立を却下する審判に対して即時抗告をすることができます。
異議の申立によって親子関係不存在確認の審判が失効した場合に、当事者がその旨の通知を受けた日から2週間以内に訴えを提起したときは、調停申立の時に、その訴えの提起があったものとみなされます。
調停委員会は、事件が性質上調停をするのに適当でないと認められるとき、又は当事者が不当目的で調停の申立をしたと認めるときは、調停をしないことができます。
調停をしない措置に対して、不服申立を許す規定はないので、即時抗告は認められません。
調停委員会は、当事者間に合意が成立する見込がない場合又は当事者間に合意が成立した場合において、家庭裁判所が家事審判法23条の審判をしないときは、調停が成立しないものとして、事件を終了させることができます。
家事審判法第23条
1.婚姻又は養子縁組の無効又は取消しに関する事件の調停委員会の調停において、当事者間に合意が成立し無効又は取消しの原因の有無について争いがない場合には、家庭裁判所は、必要な事実を調査した上、当該調停委員会を組織する家事調停委員の意見を聴き、正当と認めるときは、婚姻又は縁組の無効又は取消しに関し、当該合意に相当する審判をすることができる。
2.前項の規定は、協議上の離婚若しくは離縁の無効若しくは取消し、認知、認知の無効若しくは取消し、民法第773条の規定により父を定めること、嫡出否認又は身分関係の存否の確定に関する事件の調停委員会の調停について準用する。
調停不成立として事件を終了させる処分は審判ではないので、これに対して即時抗告又は非訟事件手続法による抗告をすることができません。
また、裁判所書記官が家事審判規則141条に基づき当事者に対して行なう通知も調停手続における審判に該当しないので、同様に解されます。
家事審判規則第百四十一条
第百三十八条又は第百三十八条の二の規定により事件が終了したとき、又は法第二十五条第二項の規定により審判が効力を失つたときは、裁判所書記官は、当事者に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならない。
調停不成立の場合、紛争は訴訟手続で解決することなります。
申立人は、裁判所書記官がする調停不成立の通知を受けた日から2週間以内に訴えを提起したときは、調停申立の時にその訴えの提起があったものとみなされます。
なお、調停不成立の期日に出頭した当事者には調停不成立の通知をしない扱いです。
裁判所書記官は、親子確認不存在確認の審判が確定した場合は当事者の本籍地の戸籍事務管掌者に対し、当事者間に合意が成立せず又は合意は成立したが家庭裁判所が親子関係不存在確認の審判をしない場合に事件が終了したとき又は異議に申立によってその審判が失効した場合には当事者に対し、それぞれ遅滞なくその旨を通知しなければなりません。
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親子関係不存在確認審判の戸籍届出・・・
親子関係不存在確認の審判が確定したときは、申立人は、その審判が確定した日から1ヶ月以内に、審判書の謄本及び確定証明書を添付して、戸籍訂正の申請を当事者の本籍地又は届出人の所在地にしなければなりません。
申立人が申請をしないときは、相手方が戸籍訂正の申請をすることができます。
出生届未了の子については、審判書の謄本及び確定証明書を添えて届出義務者が出生届をします。
親子関係不存在・嫡出否認の裁判が確定した場合、裁判に基づく戸籍訂正申請に基づき、子の戸籍に記載されている親の記載は消除されます。
出生届が届出義務者によるものでないときは、子の戸籍の出生事項の記載も消除されますから、この場合は、改めて届出義務者が出生届をして、子の戸籍を作らなくてはなりません。
届出義務者がいないときは、家庭裁判所に就籍許可申立をして、許可審判を得て戸籍を作ります。
子が婚姻、養子縁組などをしているときは、家庭裁判所に対して、戸籍に記載されている婚姻、養子縁組事項を新しい戸籍に移記するなどの戸籍訂正許可申立をして、許可審判を得て関係戸籍の整序をします。
嫡出子否認の裁判確定により、父戸籍から消除されて無籍者となった子の就籍許可申立において、申立人の母がフィリピン人であることは確認できず、実父は日本人であることが強く推測されるが、これも確認できないことなどを総合すると、申立人は日本で出生し、国籍法2条3号の「父母がともに知れないとき」に該当するとして就籍を許可した事例があります。
国籍法第二条
子は、次の場合には、日本国民とする。
一 出生の時に父又は母が日本国民であるとき。
二 出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。
三 日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。
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嫡出子否認調停・・・
嫡出子否認調停申立は、嫡出の推定を受ける子について、夫が審判により夫の子であることの否認を求めるものです。
民法第772条
1.妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2.婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
民法第774条
第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。
戸籍法53条の規定にかかわらず、出生届未了のままでも申立をすることができます。
それは、出生後、父母が離婚している場合、子は出生届により直接母の戸籍に入籍する方法があるからです。
戸籍法第53条
嫡出子否認の訴を提起したときであつても、出生の届出をしなければならない。
嫡出子否認の申立は、夫が子の出生を知ったときから1年以内にしなければなりません。
民法第777条
嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない。
夫が成年後見人であるときは、この期間は、後見開始の審判の取消があった後、夫が子の出生を知った時から起算します。
民法第778条
夫が成年被後見人であるときは、前条の期間は、後見開始の審判の取消しがあった後夫が子の出生を知った時から起算する。
成年被後見人である夫の後見人から嫡出子否認の申立をする場合は、後見人自身が子の出生を知った時から起算し、ただ、後見人が就任以前から子の出生を知っていたときは後見人に就任した時から起算します。
夫が嫡出子否認の申立をしないで死亡した場合は、夫の三親等内の血族が提起する嫡出子否認の訴えは、夫が子の出生を知ったか否かを問わずに、夫の死亡から1年以内に提起しなければなりません。
この期間が経過してしまえば、父子間の嫡出親子関係が確定し、以後この関係を訂正することができなくなります。
推定を受ける嫡出子については、婚姻関係が終了し、家庭が崩壊している事情があっても、嫡出否認の訴えを提起し得る期間の経過後に、親子関係不存在確認の訴えをもって夫と子との間の父子関係の存否を争うことはできません。
民法777条の「夫が子の出生を知った時」とは、夫が否認の原因を知った時と解して、嫡出子否認の審判をした事例があります。
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推定を受ける嫡出子・・・
妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定されます。
婚姻成立の日から200日後又は婚姻の解消若しくは取消の日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定され、嫡出の推定を受けることになります。
民法第772条
1.妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2.婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
この子が嫡出の推定を受けるには、その父母が同居中に懐胎された子でなければなりません。
AはBと婚姻して同居中、Cと性関係を結んで、Cとの間の子Dを分娩した。
AはDを実子と信じて出生届をしたが、離婚後、BからDがCの子であることを知らされ、親子関係の訂正を求められたが放置していたところ、この度Dが成年に達するので、AとDの間に親子関係不存在確認を求める申立をした事案で、血液検査などの親子鑑定によりAとDとの間に血縁関係がないことが科学的、客観的に明白とされている場合に嫡出子否認制度の適用の根拠は失われているとして、AとDの間の親子関係不存在を確認する審判をした事例があります。
民法772条の推定を受ける嫡出子につき夫がその嫡出であることを否認するためには、専ら嫡出否認の訴えによるべきであり、夫と妻との婚姻関係が終了してその家庭が崩壊しているとの事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、このような事情が存在しても、嫡出否認の訴えを提起しうる期間の経過後に、親子関係不存在確認の訴えをもって夫と子との間の父子関係の存否を争うことはできないとされます。
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