遺産分割調停手続・・・
民法907条2項の規定に基づく遺産分割の申立事件は乙類審判事項です。
(遺産の分割の協議又は審判等)
民法第907条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
3 前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。
①申立権者
共同相続人、包括受遺者、相続分譲受人など相続人と同一の地位を有する者は遺産分割の当事者となります。
相続人の債権者は、相続人の遺産分割請求権を代位行使することができます。
②管轄
相手方の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所です。
④添付書類
申立人・相手方の戸籍謄本・住民票
被相続人の戸籍謄本・改製原戸籍謄本(出生から死亡に至るまでのもの)
相続関係図
遺産目録
不動産登記簿謄本
預貯金の残高証明書
包括受遺者が当事者となる場合は遺言書の写し
相続人以外の当事者につきその地位を証する資料など
⑤調停手続
遺産分割の申立があった場合、家庭裁判所は、相当であると認めるときは、分割の申立があったことを公告して、利害関係人の参加を求めることができます。
これは、遺産がどのように分割されるかにつき、重大な利害関係を有する者に対し手続に参加する機会を与え、適切な分割を行なうためです。
なお、利害関係人は自己の費用をもって分割に参加することができます。
(共有物の分割への参加)
民法第260条 共有物について権利を有する者及び各共有者の債権者は、自己の費用で、分割に参加することができる。
2 前項の規定による参加の請求があったにもかかわらず、その請求をした者を参加させないで分割をしたときは、その分割は、その請求をした者に対抗することができない。
公告の方法は、家事審判規則21条にその定めがあるが、これによらず、家庭裁判所が相当と認める方法ですることもできます。
家事審判規則第二十一条 公告は、家庭裁判所の掲示板に掲示し、且つ、官報に掲載してこれをする。但し、家庭裁判所が相当であると認めるときは、日刊新聞紙にも掲載してこれをする。
家庭裁判所が前記公告をしたときは、急を要する事項を実施する場合を除いて、公告の日から30日を経過しなければ分割の手続を進めることができません。
利害関係人は、家庭裁判所の許可を受けて、手続に参加する事ができます。
調停委員会は、当事者の主張を聴くとともに、職権で必要な事実の調査及び証拠調べなどを行ないます。
スポンサードリンク
遺産の換価分割・・・
遺産の換価分割とは、遺産を競売して、その売却代金を分割する方法です。
換価分割は共同相続した遺産を直接遺産分割の対象とせず、まず、これを未分割の状態で換価し、その対価として得られる金銭を共同相続人で分割する方法です。
調停で換価分割を合意する場合はこの例が多く、現物分割すれば著しくその価額が減少する場合や共同相続人がいずれも債務負担の能力を欠いている場合などになされます。
協議分割の場合、競売の方法による換価分割は認められません。
調停分割の場合、共有物分割においては訴訟上の和解による換価分割の合意は問題の余地はあるのですが、遺産分割においては換価分割を命ずる審判は競売申立に当たって提出する民事執行法195条によって準用される同法181条1項1号の書面に該当するので、競売申立をすることができ、換価分割を合意した調停も同様と解されます。
(留置権による競売及び民法、商法その他の法律の規定による換価のための競売)
民事執行法第195条 留置権による競売及び民法、商法その他の法律の規定による換価のための競売については、担保権の実行としての競売の例による。
(不動産担保権の実行の開始)
民事執行法第181条 不動産担保権の実行は、次に掲げる文書が提出されたときに限り、開始する。
1.担保権の存在を証する確定判決若しくは家事審判法(昭和22年法律第152号)第15条の審判又はこれらと同一の効力を有するものの謄本
2.担保権の存在を証する公証人が作成した公正証書の謄本
3.担保権の登記(仮登記を除く。)に関する登記事項証明書
4.一般の先取特権にあつては、その存在を証する文書
2 抵当証券の所持人が不動産担保権の実行の申立てをするには、抵当証券を提出しなければならない。
3 担保権について承継があつた後不動産担保権の実行の申立てをする場合には、相続その他の一般承継にあつてはその承継を証する文書を、その他の承継にあつてはその承継を証する裁判の謄本その他の公文書を提出しなければならない。
4 不動産担保権の実行の開始決定がされたときは、裁判所書記官は、開始決定の送達に際し、不動産担保権の実行の申立てにおいて提出された前3項に規定する文書の目録及び第1項第4号に掲げる文書の写しを相手方に送付しなければならない。
換価分割の場合、遺産を処分するのは形式上は共同相続人中に特定の者が代表してその名で行なうこともありますが、実質的には共同相続人全員であり、したがって当該譲渡所得は全員に帰属し、これに対する所得税は、全員が負担すべきことになります。
スポンサードリンク
遺産の代償分割・・・
特別の事由があるとき、共同相続人の一部の者が遺産を取得し、その者から他の相続人に対し、相続分の代償として債務を負担する方法があります。
このように、遺産の全部又は一部を現物で共同相続人中の1人又は一部の者に取得させ、その代わりに、取得者に対して他の相続人に代償金を支払うべき債務を負担させる分割方法を代償分割といいます。
代償分割は、現物分割が相当でない事由があることのほかに、遺産を取得する相続人に代償金支払い能力があることを要します。
原審判が抗告人Aに単独取得させることにした土地は1億円を超え、同相続人が負担する代償金は5000万円を超えるので、Aには同土地を保有したままで代償金を支払う能力はないこと、この分割方法では抗告人BCDが円満に代償金の支払を受けられる見込はないこと、抗告人Aも代償金支払のためには、単独取得した右土地を売却せざるを得ず、売却に伴う税金の負担を考えると手許にはほとんど財産が残らなくなるとして右分割方法に強く反対していること、このような事情の下で、原審判が右分割方法を採用したことは不当であるとして、原審判を取消して原審に差し戻した事例があります。
代償分割の場合には、その後、当該遺産を処分するか否か、その時期、内容等は全て取得者の自由に決定しうるところであり、これを譲渡することによって得られる所得は、同人が負担すべきものとされます。
スポンサードリンク
代償分割と換価分割・・・
一見すると代償分割の合意らしい次の①から③の遺産分割協議は、換価分割の合意と解すべきであるとした事例があります。
遺産は、価値的にみて圧倒的に重要なのは借地権で、他はほとんど取るに足らない程度のものに過ぎない遺産の分割協議書の
①相続人BCDEは、電話加入権等若干の遺産を取得するほか、遺産に対するすべての権利を放棄するものとし、その代償として、AはBに1億5000万円、Cに7000万円、Dに7000万円、Eに9000万円をそれぞれ支払う。
その支払は本件借地権を売却して、その代金入金後速やかに持参又は送金して行なう。
②Aが本件借地権及び地上建物を単独で取得する。
③Aは速やかに本件借地上の建物を収去したうえ、本件借地権を5億4000万円で他に売却するものとし、その代金を
□借地権譲渡承諾料4000万円
□不動産仲介料1800万円
□建物占有者立退き料及びその他の経費3200万円
□相続人BCDEらに対する代償金3億8000万円
の支払いに当て、残額7000万円はAが取得する旨の記載は一見代償分割をしたかのように考えられるが、遺産分割協議と並行して借地権の売買交渉が進められ、協議成立の直後に売却されることが決定されていたこと、Aがこれを実際に利用することは予定されておらず、また、Aにこれを単独で取得しなければならない、ないしは取得するのを相当とするような積極的な理由も見当たらないこと、借地権を5億4000万円で譲渡した場合、所得税、地方税を合計すると約2億6000万円にのぼるところ、Aが本件遺産分割で実質的に取得するのは7000万円に過ぎないから、Aが所得税等を全額負担するとすれば2億円近い持ち出しになるのに分割協議において右所得税の負担について言及していないこと、所得税等をAに全部負担させるとしてもこれについてAの納得を得たとは認められないこと、Aが本件借地権を単独で取得したことにし、A一人の名義でこれを売却したのは、売買契約の締結及びその履行の便宜のために買主から要請されたからに過ぎないこと、Aは本件相続につき共同相続人全員の相続税を納付していたが、相続人BCDEが本件分割協議所定の金銭を取得することになれば、当然相続税の負担について共同相続人間で協議がされるべきであるに、協議がされた事実がないことなどの事実に基づき、Aが遺産たる本件借地権を単独で取得し、その代わりに、他の共同相続人に対して代償金債務を負担するというものではなく、遺産共有の状態にある本件借地権を換価して、その代金を共同相続人間で分割する趣旨のものであると解するのが相当であるとしました。
スポンサードリンク