寄与分を定める審判例・・・

寄与分を定める審判例・・・

相続人ABは、ともに家業に従事して資産の増加に貢献したが、被相続人から対価として得た額が十分でないときは、残余部分につき寄与分が認められる余地があるのに寄与分を認めてないこと、また、分割方法も相当でないとして審判を取消して差し戻した事例があります。

相続人である長男は、農業専門学校卒業後、後継者として家業の農業に従事して労務を提供し、被相続人が死亡する10年前からは家業を引き継ぐなど遺産の維持に貢献していること、老齢の被相続人夫婦の扶養に当たったこと、申立人以外の相続人もしかるべき程度、長男の寄与分を認めていること、母から相続分譲渡を受けているので相続分は10分の6のことなどの事情を勘案して、長男の寄与分を遺産額の3・6%に当たる金1000万円と定めた事例があります。

被相続人の養女である被相続人の亡き長男の妻は、家業の農業に従事するとともに、工員の収入で被相続人の生計を支え、被相続人の療養看護に努めたが、家業従事、扶養、療養看護の各態様ごとの寄与分を算定した上、これらを合算して寄与分を評価した事例があります。

申立人は被相続人の家業である薬局経営に無報酬又はこれに近い状態で従事したとはいえないが、薬局を会社組織とし、店舗を新築するなどして経営規模を拡大したことが特別の寄与に当たるとして遺産の三割の寄与分を認めた事例があります。

被相続人が創業した株式会社の実質は個人企業に近く、被相続人とは経済的に極めて密着した関係にあり、会社への援助と被相続人の資産の確保との間に明確な関連性がある場合には、被相続人に対する寄与と認める余地があるとして、経営危機にあった会社に資金提供をした相続人の寄与分を否定した審判を取消して20%の寄与分を認めた事例があります。

寄与分は、被相続人が相続開始のときにおいて有した財産の価額から遺贈の価値を控除した残高を超えることができません。

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寄与分を定める審判の即時抗告・・・

当事者又は利害関係人は、寄与分を定める処分の審判に対して即時抗告により、不服の申立をすることができます。

相続人ごとに審判の告知日が異なる場合の遺産分割の審判に対する即時抗告期間については、相続人ごとに各自が審判の告知を受けた日から進行します。

寄与分を定める審判に対する即時抗告期間も同様です。

家事審判規則第百三条の五

1 相続人又は利害関係人は、寄与分を定める審判に対し、即時抗告をすることができる。
2 申立人は、寄与分を定める審判の申立てを却下する審判に対し、即時抗告をすることができる。
3 遺産の分割の審判と寄与分の定めに関する審判とが併合してされたときは、寄与分の定めに関する審判についてのみ即時抗告をすることはできない。
4 寄与分の定めに関する審判に対して相続人又は利害関係人の一人がした即時抗告は、併合してされた他の寄与分の定めに関する審判についても、その効力を生ずる。

しかし、この場合における即時抗告期間に関しては、先例となるべき最高裁判例はなく、家庭裁判所における実務においては、告知を受けた日のうち最も遅い日から全員について一律に進行すると解する見解及びこれに基づく取扱も相当広く行なわれており、本件においても抗告人が原々審に問い合わせた際に、担当書記官がこの実務上の取扱を前提とする回答をしていること、抗告人はこの回答に基づき、その日から2週間以内に本件即時抗告をしたことが認められ、本件におけるこれらの事情を考慮すると、抗告人は、その責めに帰することのできない事由により即時抗告期間を遵守することができなかったものと認めるのが相当であり、本件即時抗告が即時抗告を徒過した不適法なものとみることはできないとした事例があります。

即時抗告(そくじこうこく)とは、裁判の告知を受けた日から民事訴訟においては1週間(家事審判法・民事保全法・破産法等においては2週間)、刑事訴訟においては3日の不変期間内にしなければならないとされる抗告である(民事訴訟法332条、刑事訴訟法422条)。

一般に、即時抗告は、原決定・命令を迅速に確定させる必要がある場合に定められ、執行停止の効力(334条1項)がある。

申立人は、寄与分を定める処分の申立を却下する審判に対して即時抗告することができます。

寄与分を定める処分審判が遺産分割の審判を併合してなされたときは寄与分の定めに関する審判についてのみ即時抗告をすることはできません。

数人が寄与分を定める処分の申立をしている場合、当事者の1人又は利害関係人がした上記の即時抗告は当事者全員についてその効力を生じます。

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生前贈与(特別受益)と寄与分・・・

民法第903条(特別受益)

1 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前3条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。

民法第904条の2(寄与分)

1 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4 第2項の請求は、第907条第2項の規定による請求があった場合又は第910条に規定する場合にすることができる。

寄与分が定められた場合に、特別受益があるとき、共同相続人の具体的相続分を算定するには、次の3つの方法が考えられますが、民法での定めはありませんが、①の方法によるとされています。

①特別受益と寄与分を同時に適用する方法

相続人    妻A 子B、C

遺産の額   2000万円

寄与分    B 200万円

生前贈与   C 400万円

みなし相続財産

2000万円+400万円(特別受益)-200万円(寄与分)

=2200万円

共同相続人の取得額

A 2200万円×1/2=1100万円

B 2200万円×1/2×1/2+200万円(寄与分)=750万円

C 2200万円×1/2×1/2-400万円(特別受益)=150万円

②特別受益によって具体的相続分を算出し、これに基づき、寄与分による具体的相続分及び取得額を計算する方法

③寄与分によって具体的相続分を算出し、これに基づき、特別受益による具体的相続分及び取得額を計算する方法

申立人の受けた生前贈与のうち、寄与に対する実質的対価と認められる部分は生計の資本ではないから特別受益に該当しないが、その限度で寄与分は請求できないとして、寄与分の評価額から生前贈与の価額を控除して寄与分を評価した事例があります。

妻に対して被相続人がした生前贈与につき、黙示の持ち戻し免除の意思表示を認めたが、妻の寄与分に関して生前贈与によって妻が得た利益を超える寄与があったとは認められないとして審判を取消して寄与分申立を却下した事例があります。

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寄与分と遺留分・・・

遺産分割の申立と寄与分を定める審判の申立があったときは、これらの審判手続及び審判は併合してされます。

相続人が子4名の遺産分割及び寄与分を定める審判において、遺産の相続税評価額約5465万円の7割を寄与分として控除し、残額約1639万円を4分し、抗告人にはその一にほぼ合致する土地を取得させ、遺産を取得しないでもよいという2名の相続人には各50万円を寄与相続人に支払わせる審判が取消された事例があります。

この決定は、次のように判断しています。

①寄与分の制度は、相続人間の衡平を図るために設けられた制度であるから遺留分によって当然に制限されるものではないこと

②寄与分については上限の定めがないこと

③遺留分制度、寄与分制度を併せ考慮すれば、裁判所が寄与分を定めるに当たっては、他の相続人の遺留分を侵害する結果となるかどうかについても考慮すべきは当然であること

そして、この審判は、抗告人の遺留分相当額を大きく下回るものであって、寄与相続人が被相続人の遺産の維持ないし増殖に寄与したとしても、ただ家業である農業を続け、遺産たる農地等の維持管理に努めたり、被相続人の療養看護に当たったというだけでは、寄与分を大きく評価するのは相当ではなく、さらに特別の寄与をした等特段の事情がなければならないとし、その点を考慮した形跡がないので、この点をも考慮した上で寄与分を定め、遺産の分割をすべきものとしました。

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