推定相続人廃除(著しい非行・その他)・・・

推定相続人排除(著しい飛行・その他)…

著しい非行とは、相続的共同関係と目される家族的生活関係を破壊するような非行をいうと解されています。

著しい非行は、被相続人に対してされたものに限ると解する立場と被相続人に対する非行に限ることなく、直接、間接に財産的損害や精神的苦痛を与え、これにより相続的共同体が破壊されるような場合には、他人に対する非行であっても廃除事由になると解する立場があります。

相続人の非行が被相続人によって誘発された場合やその原因につき被相続人にも責められるべき点は斟酌されることになります。

民法第892条 

遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

その他著しい非行等に該当しないとされた次のような事例があります。

①親の意に反して、子が親の社会的地位に不相応な経歴を有する者と婚姻しても、その婚姻が婚姻当事者の合意に基づくものである以上、親にとって、何ら世間体を恥じなければならないものでなく、不名誉なことでもないとするのが現在の正当な社会的感情であるとして、親の意に反した婚姻をしたことは、親に対する虐待、侮辱行為、著しい非行も該当しないとした事例があります。

②非行をするに至った責任が被相続人にもある場合には、著しい非行に該当しないとされることがあります。

③相続人の被相続人に対する虐待、重大な侮辱、その他の著しい非行は、故意になされた場合をいい、精神分裂病による心神喪失の常況にあるときの行為は相続人の責に帰すべきでないから、廃除の原因に当たらないとした事例があります。

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推定相続人廃除調停申立・・・

民法892条に基づく推定相続人廃除申立は、乙類9号の事項です。

民法第892条 

遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

①申立権者

生前廃除の場合は被相続人です。

被相続人が被廃除者の法定代理人であるときは、特別代理人の選任が必要です。

民法第826条 

1.親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2.親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。

②管轄

相手方の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所です。

③添付書類

申立人・相手方の戸籍謄本

④調停手続

調停委員会は、当事者の主張を聴くとともに、職権で必要な事実の調査及び証拠調べなどを行ないます。

その結果、当事者間に推定相続人廃除の合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は確定した審判と同一の効力を有します。

調停委員会は、事件が性質上調停をするのに適当でないと認められるとき、又は当事者が不当目的で調停の申立をしたと認めるときは、調停をしないことができます。

調停をしない措置に対して、不服申立を許す規定はないので、即時抗告は認められません。

調停委員会は、当事者間に合意が成立する見込がない場合又は当事者間に合意が成立した場合において、家庭裁判所が家事審判法23条の審判をしないときは、調停が成立しないものとして、事件を終了させることができます。

家事審判法第23条 

1.婚姻又は養子縁組の無効又は取消しに関する事件の調停委員会の調停において、当事者間に合意が成立し無効又は取消しの原因の有無について争いがない場合には、家庭裁判所は、必要な事実を調査した上、当該調停委員会を組織する家事調停委員の意見を聴き、正当と認めるときは、婚姻又は縁組の無効又は取消しに関し、当該合意に相当する審判をすることができる。
2.前項の規定は、協議上の離婚若しくは離縁の無効若しくは取消し、認知、認知の無効若しくは取消し、民法第773条の規定により父を定めること、嫡出否認又は身分関係の存否の確定に関する事件の調停委員会の調停について準用する。

調停不成立として事件を終了させる処分は審判ではないので、これに対して即時抗告又は非訟事件手続法による抗告をすることができません。

また、裁判所書記官が家事審判規則141条に基づき当事者に対して行なう通知も調停手続における審判に該当しないので、同様に解されます。

家事審判規則第百四十一条 

第百三十八条又は第百三十八条の二の規定により事件が終了したとき、又は法第二十五条第二項の規定により審判が効力を失つたときは、裁判所書記官は、当事者に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならない。

推定相続人廃除事件について調停が成立しない場合には、調停の申立の時に審判の申立があったものとみなされます。

調停不成立の場合には、調停の申立人が、改めて審判の申立をするまでもなく、事件は当然に審判手続に移行します。

遺言執行者が推定相続人の廃除を求める審判手続きにおいて、廃除を求められていない推定相続人が利害関係人として審判手続きに参加した場合に、その参加人は廃除の申立を却下する審判に対して即時抗告をすることができません。

推定相続人廃除の調停が成立したときは、裁判所書記官は、遅滞なく廃除された者の本籍地の戸籍事務管掌者にその旨を通知しなければなりません。

推定相続人廃除の調停が成立したときは、申立人は、調停成立の日から10日以内に、その旨を届け出なければなりません。

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推定相続人廃除審判の効果・・・

推定相続人廃除の審判が確定した場合、被廃除者は被相続人の死亡時に遡って遺産につき何らの相続権を有しないこととなります。

被廃除者の債権者が被廃除者に対する貸金債権に基づき、被相続人の死後、廃除審判確定前に同人名義不動産につき共同相続人名義の相続登記、被廃除者の共有持分につき仮差押登記及び強制競売開始決定に基づく差押登記をしても、差押の対象たる権利が遡及的に消滅して、同債権者は実質的無権利者となったとされます。

この場合、被相続人が他の共同相続人に本件不動産を遺贈してるときは、遺贈との関係で被廃除者の債権者は民法177条の「第三者」に当たらないので、受遺者は登記なくして債権者に対抗することができます。

民法第117条

1. 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2. 前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。

遺贈遺言の遺言執行者は、第三者異議の訴えにより、被廃除者の債権者による強制執行の排除を求めることができます。

廃除審判確定後、廃除届前の差押についても同様です。

親族関係については変動はありません。

被相続人の子が廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となります。

この場合、代襲相続人となる被相続人の直系卑属に限ります。

代襲者が、廃除によって、その代襲相続権を失った場合、民法887条2項の規定が準用されます。

民法第887条 

1.被相続人の子は、相続人となる。
2.被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3.前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

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相続人廃除の意思表示が不明確・・・

遺言によって推定相続人を廃除する場合、その意思表示は明確であることが望ましいといえますが、その旨の明確な意思表示がされていなくても、従来の事情を総合すれば廃除を求めていると判断できるときは、廃除の意思表示があったものとされます。

遺言による推定相続人廃除の意思が認められた次の事例があります。

①「養女****に後を継がす事は出来ないから離縁したい」旨の遺言

②被相続人が生前、夫と激しく対立し、再三暴行傷害を受けて心神とも極度に疲労していた事情等を考慮し「親から貰った金も俸給もボーナスも絞り取ったから1円の金もやれないし、うちの物や退職金などには指1ふれさせへん」との遺言

③「土地建物外すべてを****と****に委任する」の文言を推定相続人廃除の手続をとることを申立人である遺言執行者に委任する趣旨と解した事例

④「私の財産年金の受給権は****には一切受け取らせないようお願いします」との遺言は、相続人廃除の意思表示と解するのが相当であり、相続分0の趣旨と解すべきではないとした事例

推定相続人を廃除する旨の意思表示をしただけで、廃除原因を明示してなくても、遺言執行者は、被相続人が廃除原因としたであろうと推察できる事情を原因として、廃除の請求をすることができます。

推定相続人を廃除する遺言は、遺言者死亡の時に効力を生じます。

遺言が効力を生じた後、遺言執行者は、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に廃除の請求をしなければなりません。

民法第985条 

1.遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
2.遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。

民法第893条 

被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

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