負担付遺贈遺言の取消審判・・・
民法1027条に基づく負担付遺贈遺言の取消審判申立事件は、甲類審判事項です。
①申立権者
相続人です。
相続人が数人ある場合に各自が取消請求権を持ち、共同してする必要はありません。
②管轄
相続開始地の家庭裁判所です。
③添付書類
申立人、遺言者、受遺者、受益者の各戸籍謄本
遺言書の写し
催告書写し
④審判手続
審判手続には、受遺者のほか受益者、遺言執行者などの利害関係人を関与させます。
利害関係人は、家庭裁判所の許可を受けて、審判手続に参加することができます。
家庭裁判所は、受遺者が負担の履行を怠っているか否か、相続人による履行の催告が適式にされているかを職権で調査し、遺言取消の可否を審理します。
受遺者に対しては、当然に審判の告知がされますが、遺言執行者、受遺者らの利害関係人は、審判手続に参加することにより、審判の告知又はその結果の通知を受けることができます。
負担付遺贈遺言を取消す審判に対し、受遺者その他の利害関係人は即時抗告をすることができます。
相続人は、遺言の取消の申立を却下する審判に対し即時抗告することができます。
負担付遺贈遺言を取消す審判が確定すると、遺言は、相続開始のときまで遡って効力を失い、受遺者が受けるものであったものは、相続人に帰属し、受遺者は遺贈の目的を相続人に返還しなくてはなりません。
受益者も受遺者から受けるべきであった利益を受けられなくなると解されています。
不誠実な行為が原因で遺言が取消された場合、受益者が不利益を被ることは不当とされます。
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相続財産に属しない権利の遺贈・・・
遺贈の目的たる権利が、遺言者の死亡の時において、相続財産に属しなかったときは、遺贈は、その効力を生じません。
その権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず、これを、遺贈の目的としたことが認められるときは、その遺贈は有効です。
(相続財産に属しない権利の遺贈)
民法第996条 遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは、その効力を生じない。ただし、その権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず、これを遺贈の目的としたものと認められるときは、この限りでない。
この条文の意味は、他人の権利を取得した上で、遺贈するということを明確にした遺言は有効となることをいいます。
この条文は、有効になった場合の遺贈義務者の義務についての規定ですが、原則としては他人の権利を取得して移転する義務があり、それが出来ないとき、または、高額な費用がかかるときは、時価相当を弁償する必要があります。
時価相当の算定は、受遺者が弁償を請求した時点を基準とします。
遺言者が、その相続財産に属しない権利を遺贈の目的とする場合には、その権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず遺贈の目的とする旨を明白に意思表示することを要します。
相続財産に属しない権利の遺贈が民法996条但書によって有効であるときは、遺贈義務者は、その権利を取得して、これを受遺者に移転する義務を負います。
もし、これを取得することができないか又はこれを取得するについて過分の費用を要するときは、その価額を弁償しなければなりません。
民法第997条 相続財産に属しない権利を目的とする遺贈が前条ただし書の規定により有効であるときは、遺贈義務者は、その権利を取得して受遺者に移転する義務を負う。
2 前項の場合において、同項に規定する権利を取得することができないとき、又はこれを取得するについて過分の費用を要するときは、遺贈義務者は、その価額を弁償しなければならない。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
民法997条1項の規定は遺言者の意思を推定した規定ですから、遺言者が遺言で、右の規定と異なる別段の意思を表示しているときは、その意思が優先します。
別段の意思とは、①遺贈義務の免除、②価額弁償義務の免除、③代替物の給付、④過分な費用を要するとしても遺贈義務を履行することなどといった意思表示です。
③の意思表示が遺留分の規定に反するときは、その限度で、遺留分権利者の減殺に服します。
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単純遺贈の遺言 ・・・
単純遺贈の遺言とは、「現金100万円を**に遺贈する」というように、条件付遺贈、期限付遺贈、負担付遺贈と異なり、その効力の発生、消滅又はその履行に関して全く制限の付されていない遺贈をいいます。
停止条件付の遺言か否かの判定基準は、自筆証書の場合、それが停止条件付遺言の否かは、遺言の要式性から考えて証書の記載内容自体のみに則して判断すべきものであると解して、本件遺言が丙に非行のあることを停止条件としているとは認められないとした事例があります。
一旦遺贈がなされたとしても、遺言者の生存中は受遺者においては何らの権利をも取得しません。
この場合、受遺者は将来遺贈の目的物たる権利を取得することの期待権すらもっていないとされています。
しかし、相続開始前における受遺者の地位も不動産登記法2条2号の仮登記原因に当たると解した事例もあります。
不動産登記法(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 不動産 土地又は建物をいう。
二 不動産の表示 不動産についての第二十七条第一号、第三号若しくは第四号、第三十四条第一項各号、第四十三条第一項、第四十四条第一項各号又は第五十八条第一項各号に規定する登記事項をいう。
三 表示に関する登記 不動産の表示に関する登記をいう。
四 権利に関する登記 不動産についての次条各号に掲げる権利に関する登記をいう。
五 登記記録 表示に関する登記又は権利に関する登記について、一筆の土地又は一個の建物ごとに第十二条の規定により作成される電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)をいう。
六 登記事項 この法律の規定により登記記録として登記すべき事項をいう。
七 表題部 登記記録のうち、表示に関する登記が記録される部分をいう。
八 権利部 登記記録のうち、権利に関する登記が記録される部分をいう。
九 登記簿 登記記録が記録される帳簿であって、磁気ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録することができる物を含む。以下同じ。)をもって調製するものをいう。
十 表題部所有者 所有権の登記がない不動産の登記記録の表題部に、所有者として記録されている者をいう。
十一 登記名義人 登記記録の権利部に、次条各号に掲げる権利について権利者として記録されている者をいう。
十二 登記権利者 権利に関する登記をすることにより、登記上、直接に利益を受ける者をいい、間接に利益を受ける者を除く。
十三 登記義務者 権利に関する登記をすることにより、登記上、直接に不利益を受ける登記名義人をいい、間接に不利益を受ける登記名義人を除く。
十四 登記識別情報 第二十二条本文の規定により登記名義人が登記を申請する場合において、当該登記名義人自らが当該登記を申請していることを確認するために用いられる符号その他の情報であって、登記名義人を識別することができるものをいう。
十五 変更の登記 登記事項に変更があった場合に当該登記事項を変更する登記をいう。
十六 更正の登記 登記事項に錯誤又は遺漏があった場合に当該登記事項を訂正する登記をいう。
十七 地番 第三十五条の規定により一筆の土地ごとに付す番号をいう。
十八 地目 土地の用途による分類であって、第三十四条第二項の法務省令で定めるものをいう。
十九 地積 一筆の土地の面積であって、第三十四条第二項の法務省令で定めるものをいう。
二十 表題登記 表示に関する登記のうち、当該不動産について表題部に最初にされる登記をいう。
二十一 家屋番号 第四十五条の規定により一個の建物ごとに付す番号をいう。
二十二 区分建物 一棟の建物の構造上区分された部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものであって、建物の区分所有等に関する法律 (昭和三十七年法律第六十九号。以下「区分所有法」という。)第二条第三項 に規定する専有部分であるもの(区分所有法第四条第二項 の規定により共用部分とされたものを含む。)をいう。
二十三 附属建物 表題登記がある建物に附属する建物であって、当該表題登記がある建物と一体のものとして一個の建物として登記されるものをいう。
二十四 抵当証券 抵当証券法 (昭和六年法律第十五号)第一条第一項 に規定する抵当証券をいう。
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遺贈の対抗要件 不動産・・・
包括遺贈の場合といえども、相続開始後相続人が未だ受遺者に対して遺贈による所有権移転登記をなさない間に相続による所有権移転登記を経由したうえ当該不動産を他に譲渡しその登記をしたときは、その譲受人は民法177条にいう登記の欠缺を主張できる第三者に該当すると解されています。
欠缺(けんけつ)とは、欠けていることをいいます。
(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
民法第177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
しかし、共同相続人がある場合にその1人が単独名義で相続による所有権移転登記を経由した上、当該不動産を他に譲渡し、その登記をしたときは、譲渡人及び譲受人は、譲渡人の持分に関する限りにおいては民法177条にいう第三者に該当するが、他の共同相続人の持分に関しては右第三者に該当せず、後日、他の共同相続人が単独名義の相続登記を追認したとしても右追認に先んじて、包括受遺者から本件土地を賃借した上、同地上建物につき保存登記を経由して対第三者対抗要件を具備した賃借地人に対しては他の共同相続人の持分についてはその完全な権利帰属をもって対抗し得ないとした事例があります。
遺言の執行について遺言執行者が指定され又は選出された場合においては、遺言執行者が相続財産の、又は遺言が特定財産に関するときはその特定財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為を妨げるべき行為をすることはできないこととなるのであるから本訴のように、特定不動産の遺贈を受けた者がその遺言の執行として目的不動産の所有権移転登記を求める訴えにおいて、被告としての適格を有する者は遺言執行者に限られるのであって、相続人はその適格を有しないとされます。
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