子を連れ去った夫が刑事罰・・・

子を連れ去った夫が刑事罰・・・

<事実の概要>

夫と妻との間には、長女が生まれました。

夫と妻は口論した際に、暴力を振るったことから、妻は長女を連れて青森県の実家に帰り、それ以降、夫と別居して、妻の両親と生活するようになりました。

長女は保育園から妻の母に連れられて帰宅するところ、夫は、長女を車で連れ去りました。

その後、夫は、青森県内の林道で警察官に発見され、逮捕されました。

妻は、夫を相手方として、調停や離婚訴訟を提起し、係争中でしたが、事件当時、長女に対する夫の親権や監護権について、これを制約するような法的処分はされていませんでした。

<判決の要旨>

以上の事実関係によれば、夫は、長女の共同親権者の1人である妻の実家において妻及びその両親に監護養育されて平穏に生活していた長女を、祖母に伴われて保育園から帰宅する途中に前記のような態様で有形力を用いて連れ去り、保護されている環境から引き離して自分の事実的支配下に置いたのであるから、その行為が未成年者略取罪の構成要件に該当することは明らかである。

夫が親権者の1人であることは、その行為の違法性が例外的に阻却されるかどうかの判断において考慮されるべき事情であると解される。

本件において、夫は、離婚係争中の他方親権者である妻のもとから長女を奪取して自分の手許に置こうとしたものであって、そのような行動に出ることにつき、長女の監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情は認められないから、その行為は、親権者によるものであるとしても、正当なものということはできない。

また、本件の行為態様が粗暴で強引なものであること、長女が自分の生活環境についての判断・選択の能力が備わっていない2歳の幼児であること、その年齢上、常時監護養育が必要とされるのに、略取後の監護養育について確たる見通しがあったとも認め難いなどに徴すると、家族間における行為として社会通念上許容されえる枠内にとどまるものと評することもできない。

以上によれば、本件行為につき、違法性が阻却されるべき事情は認められないのであり、未成年者略取罪の成立を認めた原判断は、正当である。

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家庭裁判所の子の引渡しの判断・・・

家庭裁判所において、子供の引渡しを認めるか否かは、子供の福祉を最優先とし、将来に向けて当事者のいずれに子を監護させるのが子供の福祉に適するかという観点から判断されます。

調停・裁判で考慮されている事情は次になります。

①父母の事情

監護能力、子供に対する愛情、監護意欲、方針、精神的・経済的家庭環境、居住環境、教育環境、監護補助者その他援助態勢の有無、子供との接触時間、子供との心理交流、他方親との面接交渉についての理解などです。

②子供の事情

年齢、性別、心身の発育状況、兄弟姉妹との関係、生活環境への適応状況、環境変化への適応性、子供自身の意向などです。

子の監護者指定の審判では、15歳以上の子供については意見聴取しなければならないとされており、15歳未満であっても一定の年齢以上の子供についてはその意向は考慮の対象になるといわれています。

③監護の継続性

現在、子供が継続的に安定した養育環境にいる場合には、監護者や居住環境を何度も変えることは、子供に精神的な負担をかけてしまい、子供の福祉の観点から望ましくないと考えられています。

そのため、一方当事者のもとで一定期間以上平穏に生活している場合には、現状が尊重されることになります。

④母性優先の原則

特に乳幼児の場合、その発達には母親の存在が不可欠であることが精神医学や発達心理学の立場から指摘されています。

⑤兄弟姉妹の不分離

兄弟姉妹は原則として同一の親の元で監護されるべきと考えられています。

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子の引渡しの履行勧告と強制執行・・・

家庭裁判所で、子供の引渡す旨の調停や審判になったとしても、相手が実際に子供を引き渡してくれない場合もあります。

この場合、調停や審判をした家庭裁判所に履行勧告を申し立てることができます。

この申立をすると、裁判所が相手から意見を聴くなどして事情を調査し、裁判所から相手に対して履行勧告書を送ったり、相手を裁判所に呼び出して直接履行勧告を行うことになります。

ただし、履行勧告には強制力がないため、相手が裁判所の勧告にも従わない場合には、子供の引渡しを強制的に実現することはできません。

また、子供の引渡しを内容とする調停調書や審判書があれば、強制執行をすることができます。

強制執行は、国家権力によって、権利を強制的に実現する手続です。

強制執行には、間接強制と直接強制があります。

間接強制とは、一定期間内に一定の行為をしない場合は一定の金銭を支払うことを命ずることによって、相手を心理的に強制して権利の内容を実現する方法をいいます。

子供の引渡しの場合だと、例えば子供の引渡しを完了するまで1日あたり金5万円支払え、などと裁判所から命じられるということです。

直接強制とは、国家権力が権利の内容を直接に実現する方法をいい、子供の引渡しの場合では、執行官が強制的に子供をつれてきます。

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