株主代表訴訟と取締役の責任の範囲・・・

自分で会社設立しますか?
ご自分で会社を設立するならまずはクリック!!

株主代表訴訟と取締役の責任の範囲・・・

大阪高判昭和54年10月30日(土地所有権移転登記抹消登記手続等請求事件)
高民32巻2号214頁、判時954号89頁、判夕401号153頁

<事実の概要>

A株式会社の代表取締役Zは、A社代表取締役の資格において売主と折衝して買い受けた土地について、自己名義に所有権移転登記を行なった。

これに対して、A社の株主であるXが、前商法267条の規定により、A社のために真正な所有名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をすることを求めて訴えを提起した。

原審はXの訴えを不適法として却下したのに対して、Xが控訴した。

なお訴訟係属中に、Zは死亡し、相続人Yがその地位を承継している。

<判決理由>原判決取消、第1審裁判所に差戻し。

「商法267条の規定により、株主が会社のために訴をもって追及することのできる「取締役の責任」には、取締役が法令又は定款に違反した結果生じた会社に対する損害賠償責任や会社に対する資本充実責任だけでなく、不動産所有権の真正な登記名義の回復義務も含まれると解するのが相当である。

けだし、会社の取締役は選任されることによって委任の規定に従い会社に対し善管注意義務ないし忠実義務を負い、取締役の会社に対する責任を追及する訴の提起は元来、取締役の善管義務ないし忠実義務の履行請求権の主体である会社のみがなしうるところであるが、とくに、第三者である株主においてもなしうることとしたゆえんのものは、取締役間の特殊な関係から会社においてかかる訴を提起することがあまり期待できず、訴提起懈怠の可能性が少なくないことに鑑み、その結果、会社すなわち株主の利益が害されることとなるのを防止してその利益を確保することにあるところ、取締役間の特殊の関係にもとづく訴提起懈怠の可能性は、取締役が会社に対し不動産所有の真正な登記名義の回復義務を負っている場合でも異なるところはないからである。」

スポンサードリンク

株主代表訴訟における会社の被告側への補助参加・・・

最決平成13年1月30日(補助参加申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件)
民集55巻1号30頁、判時1740号3頁、判時1740号3頁、判夕1054号106頁

<事実の概要>

YらはZ株式会社の取締役あるいは過去に取締役であった者であり、Xは同社の株主である。

Xは、YらがZ社の取締役としての忠実義務に違反し、①Z社の第48期(平成7年1月1日から同年12月31日まで)及び第49期(平成8年1月1日から同年12月31日まで)の各決算においていわゆる粉飾決算を指示し又は粉飾の存在を見逃し、②税引前利益を粉飾したことにより法人税、住民税等を過払いし、③Z社の業務執行に関しYらに不正の行為を疑うべき事由があったため、前商法294条により選任された検査役に報酬を支払い、④第49期決算において実際は多額の営業損失が存在するにもかかわらず営業利益の粉飾を指示しあるいはこれを見逃して、株主に利益配当したことにより、Z社に損害を与えたとして、Yらの責任を追及する株主代表訴訟を提起した。

この訴訟において、Z社のが被告取締役であるYらの側に補助参加することを申し出たのに対してXが異議を申し立てた。

第1審は補助参加の申出を却下したのに対し、Z社が抗告したところ、抗告審は抗告を棄却した。

Z社はこの決定に対しさらに許可抗告を申し立てた。

<判決理由>原決定破棄、原々決定取消。

「(1)民訴法42条所定の補助参加が認められるのは、専ら訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する場合に限られ、単に事実上の利害関係を有するにとどまる場合は補助参加は許されない(最高裁昭和・・・39年1月23日第一小法廷判決・裁判集民事71号271頁参照)。

そして、法律上の利害関係を有する場合とは、当該訴訟の判決が参加人の私法上又は公共上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがある場合というものと解される。

(2)取締役会の意思決定が違法であるとして取締役に対し提起された株主代表訴訟において、株式会社は、特段の事情のない限り、取締役を補助するため訴訟に参加することが許されると解するのが相当である。

けだし、取締役の個人的な権限逸脱行為ではなく、取締役会の意思決定の違法を原因とする、株式会社の取締役に対する損害賠償請求が認められれば、その取締役会の意思決定を前提として形成された株式会社の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがあるというべきであり、株式会社は、取締役の敗訴を防ぐことに法律上の利害関係を有するということができるからである。

そして、株式会社が株主代表訴訟につき中立的立場を採るか補助参加がされ、公正妥当な訴訟運営が損なわれるとまではいえず、それによる著しい訴訟の遅延や複雑化を招くおそれはなく、また、会社側からの訴訟資料、証拠資料の提出が期待され、その結果として審理の充実が図られる利点も認められる。

(3)これを本件についてみると、前記のとおり、本件は、Z社の第48期及び第49期の各決算において取締役らが忠実義務に違反して粉飾決算を指示し又は粉飾の存在を見逃したことを原因とするZ社の取締役らに対する損害賠償請求権を訴訟物とするものであるところ、決算に関する計算書類は取締役会の意思決定が違法であるとして提起された株主代表訴訟である。

そして、上記損害賠償請求権が認められて取締役らが敗訴した場合には、Z社の第48期以降の各期の計算関係に影響を及ぼし、現在又は将来の取引関係にも影響を及ぼすおそれがあることが推認されるのであって、Z社の補助参加を否定すべき特段の事情はうかがわれない。」

スポンサードリンク

株主代表訴訟と担保提供・・・

東京高決平成7年2月20日(担保提供申立却下決定に対する抗告事件、担保提供決定に対する抗告事件)
判夕895号252頁、金判968号23頁

<事実の概要>

本件本案訴訟は、A株式会社株主であるXらが、同社取締役であったY1~Y4の責任を追及するための提起した株主代表訴訟である。

事件は複雑であるが、XらがYらの責任の原因として主張しているのは次のような事実である。

(1)Bの主宰する仕手グループがA社のメインバンクであるC銀行の系列ノンバンクから借り入れた巨額の債務につき、A社に保証をさせた上、A社本社ビルに抵当権を設定し、最終的に債務引受を行なった、(2)C銀行系列の別のノンバンクに対するBのグループの債務についてA社の関連会社に債務引受させ、A社の完全子会社に担保提供を行なわせ、さらにBの債務について保証・担保提供等を行なわせた、(3)C銀行の関連会社の債務(もともとはBのノンバンクに対する借入債務であってものを肩代わりしたものとされる)について、A社に保証を行なわせた、(4)Bの債務についてA社が担保提供し、それを200億円で処分し弁済に当てた結果、A社が同額の損害を被った。

これに対しYらは、Xらの株主代表訴訟の提起は悪意によるものであるとして、担保提供の申立てを行なった。

第1審決定は、Y3、Y4に対する(1)の主張に基づく請求及びY1~Y4に対する(2)の主張に基づく請求について、各被告ごと、また各請求ごとに1000万円の担保提供をXらに命じた。

双方が抗告した(ただし、Y1、Y2の抗告状には抗告理由の記載がなく、また両人は抗告理由書も提出していない)。

<判決理由>原決定の一部取消。

「株主代表訴訟の訴えの提起についての担保提供命令に要件を定めた商法267条6項が準用する同法106条2項の「訴えの提起が悪意に出でたるものなること」とは、原告の請求が理由なく、原告がそのことを知って訴えを提起した場合又は原告が株主代表訴訟の制度の趣旨を逸脱し、不当な目的をもって被告を害することを知りながら訴えを提起した場合をいうものと解するのが相当である。

そして、株主代表訴訟の被告が右事実を疎明したときは、受訴裁判所は、その裁量によって定めた担保の提供を原告に命ずることができる。」

「なお、訴えの提起が不当訴訟であるとして、その訴えの原告に損害賠償義務が認められるのは、故意による場合だけでなく過失による場合(重大な過失に限るかどうかはともかく)も含むと解されるが、原告が過失によって自己の請求に理由がないことを知らずに訴えを提起したことが疎明された場合にまで、担保提供を命ずることができると解することは、「悪意」という文言にそわない・・・。」

「請求に理由がないことの疎明がある場合とは、原告が請求原因として主張する事実をもってしては請求を理由あらしめることができない場合(主張自体が失当である場合)、請求原因事実の立証の見込みが極めて少ないと認められる場合、又は、被告の抗弁が成立して請求が棄却される蓋然性が高い場合などがあげられる。

そして、右の事情を認識しながら訴えを提起していると一応認められるならば、自己の請求が理由のないことを知って訴えを提起したものと推認することができる。」

以上の一般論を前提に、裁判所は、本件訴え提起の目的が株主代表訴訟制度の趣旨に反する不当なものであるとはいえないと認定して、原告の請求に理由がなく、原告がそのことを知って訴えを提起した場合に該当するか否かを検討している。

まず(1)の主張に関して、保証・抵当権設定の当時取締役ではなかったY3、Y4の責任を問う点については、請求に理由がなく、それを知りながら訴えを提起したことの疎明があるとして原審の担保提供の決定を維持した。

次に(2)の主張に関して、子会社について生じた損害がA社の損害とはいえない、また担保提供等がA社の取締役会で決議されたことなどの主張がないとしてY1、Y2に対する担保提供を命じた原決定を取消したが、担保提供等が行なわれた当時取締役ではなかったY3、Y4に対する請求については、担保提供を命じた原決定を維持した。

(3)の主張に関して、A社が保証したことについて、Yらが経営判断として最善の方法であったと主張しており、この点は本案において決着すべき問題であるとして、Xらの請求に理由がないことの疎明はないとした。

最後に(4)の主張に関して、すでに物的担保責任を負う者が担保物を売却してその売却代金を弁済に充てたことによっては、通常は損害が生じるとはいえず、やはり請求に理由がなく、それを知りながら訴えを提起したことの疎明があるとして、Y3、Y4に対する担保提供の申立てを却下した原決定を取り消し、新たに担保提供を命じた(各1000万円)。

スポンサードリンク

取締役の第三者に対する責任の法的性質・・・

最大判昭和44年11月26日(損害賠償請求事件)
民集23巻11号2150頁、判時578号3頁、判夕243号107頁

<事実の概要>

A株式会社の代表取締役BはA社を代表してXから鋼材を買い入れ、その代金支払のためにA社代表取締役Y名義の約束手形を振り出してXに交付したが、手形は不渡となり、代金の一部が回収不能となった(これによりBがXに対して責任を負うことは前提とされている)。

YはA社の信用を高めるために請われて代表取締役に就任した者で業務一切をBに一任しており、本件の取引には直接関与していなかった。

XがYに対し、前商法266条の3第1項等に基づく損害賠償を求めて提訴。

第1審・第2審ともYの前商法266条の3第1項に基づく責任を認めた上で、過失相殺をしてXの請求を一部認容した。

Yは上告した。

<判決理由>上告棄却。

「法は、株式会社が経済社会において重要な地位を占めていること、しかも株式会社の活動はその機関である取締役の職務執行に依存するものであることを考慮して、第三者保護の立場から、取締役において悪意又は重大な過失により右義務(善管注意義務及び忠実義務)に違反し、これによって第三者に損害を被らせたときは、取締役の任務懈怠の行為と第三者の損害との間に相当の因果関係があるかぎり、会社がこれによって損害を被った結果、ひいて第三者に損害を生じた場合であると、直接第三者が損害を被った場合であるとを問うことなく、当該取締役が直接に第三者に対し損害賠償の責に任ずべきことを規定したのである。」

「以上のことは、取締役がその職務を行なうにつき故意又は過失により直接第三者に損害を加えた場合に、一般不法行為の規定によって、その損害を賠償する義務を負うことを妨げるものではないが、取締役の任務懈怠により損害を受けた第三者としては、その任務懈怠につき取締役の悪意又は重大な過失を主張し立証しさえすれば、自己に対する加害につき故意又は過失のあることを主張し立証するまでもなく、商法266条の3の規定により、取締役に対し損害の賠償を求めることができる・・・わけである。」

「代表取締役が、他の代表取締役その他の者い会社業務の一切を任せきりとし、その業務執行に何等意を用いることなく、ついにはそれらの者の不正行為ないし任務懈怠を看過するに至るような場合には、自らもまた悪意又は重大な過失により任務を怠ったものと解するのが相当であ」り、「原審の・・・判断は、・・・正当として是認できる。」

本判決には4裁判官による3つの反対意見がある。

商法266条の3第1項の法意に関して最も詳細に論じるものの冒頭部分及び結論部分を以下に掲げる。

「商法266条の3・・・第1項は、取締役が対外的の業務執行につき第三者に対し不法行為に因って損害を与えた場合における規定であって、次のような性質を有するものである。

第1に、そこにいう「悪意又は重大なる過失」は、取締役の対外関係について存することを必要とする。

すなわち、それは取締役の対会社関係の任務懈怠において存するものではない。

第2に、不法行為についてのこの規定は、民法709条に対して特別規定の関係に立ち、同条の適用を排除するものである。

すなわち、この場合、取締役は、対外的の業務執行上の不法行為につき、悪意又は重大な過失のある場合に限り、第三者に対してその責に任ずるのであって、軽過失については責に任ずるものではない。

第3に、この規定は、いわゆる「直接損害」についての取締役の責任に関するものであって、いわゆる「間接損害」に関するものではない。

第4に、商法266条の3第1項は、右のように、第三者に対し直接、不法行為によって損害を与えた取締役の責任に関するものである。

そして、それ以外の取締役は、同条第2項(現在の3項)が定める要件の存するときに、第三者に対して責に任ずることになるのである。」

「本件についてみるに、・・・YがBに会社の事務一切を任せて顧みなかったことは、会社に対する関係において著しい任務懈怠であることは明らかである。

しかし、・・・原審認定の事実関係のみでは、未だY自身がXに対する関係において商法266条の3第1項、または第2項の責任を負うものと速断し難いところがあるのである。

原審はすべからく、Yの行為がXに対して同条第1項の定める不法行為上の悪意又は重大な過失に該当したか否か、または同条第2項(前商法の3項)に該当したか否かの点について、審理すべきであったのである。

原審はこの点において審理不尽の誹を免れ得ない。

さらば、これらの点について更に審理せしめるため、原判決を破棄してこれを原審に差し戻すのを相当と考える。」

スポンサードリンク