代表取締役職務代行者による臨時総会の招集と会社の常務・・・

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代表取締役職務代行者による臨時総会の招集と会社の常務・・・

最判昭和50年6月27日(株主総会決議取消請求事件)
民集29巻6号879頁、判時784号101頁、判夕325号191頁

<事実の概要>

タクシー業を営むY株式会社では、役員間の対立からAが平成2年改正前商法270条に基づく代表取締役代行者に選任されていた。

Y社の株主で取締役であったXの刑事事件による有罪の判決が確定したため、当時の道路運送法上、Y社は営業免許の取消を受けてもやむを得ない立場に立たされ、監督官庁から役員変更の手続を採るよう警告を受けることにもなった。

そこで、Y社の株主であるBが、前商法237条に基づき、Aに対してXの取締役からの解任の決議を目的とする臨時株主総会の招集を請求した。

請求を受けたAは臨時株主総会を招集・開催し(取締役会の決議があったかは不明)、同総会では出席株主全員の賛成をもってXの解任決議がなされた。

Xが、取締役の解任を目的とする臨時株主総会の招集は職務代行者の権限について定める平成2年改正前商法271条(前商法271条・70条の2)にいう会社の常務に属しない行為であるのに、本件臨時株主総会は裁判所の許可を得ずに招集されてたので招集手続に違法があると主張して、株主としての資格で決議取消の訴えを提起した。

1審・2審ともXの請求を認容したため、Y社が、常務に当るか否かは法令・定款によって当該行為が義務付けられているか否かを基準とすべきであり、少数株主による臨時株主総会の招集請求があれば代表取締役は原則として総会を招集しなければならないのであるから、かかる招集は会社の常務に属し、それは取締役の解任を目的とする臨時株主総会の招集であっても異なるところはないとして上告。

<判決理由>上告棄却。

「株式会社において、取締役の解任を目的とする臨時総会を招集することが商法271条1項(前商法271条・70条の2第1項)にいう「会社の常務に属せざる行為」に当ると解すべきことは、当裁判所の判例の趣旨とするところであり(最高裁昭和・・・39年5月21日第一小法廷判決・民集18巻4号608頁参照)、このことは、右臨時総会の招集が、少数株主による招集の請求に基づくものであるときにおいても同様と解するのが相当である。

けだし、会社の常務とは、当該会社として日常行われるべき通常の業務をいうのであり、取締役の解任を目的とする臨時総会の招集の如きは日常、通常の業務にはあたらないと解すべきであるところ、その招集行為の性質そのものは、それが少数株主の総会招集請求に基づく場合であっても、なんら影響を受けないと解すべきであるからである。」

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代表取締役の代表権に対する制限・・・

最判昭和40年9月22日(建物並びに土地明渡所有権確認同移転登記手続同反訴請求事件)
民集19巻6号1656頁、判時421号31頁、判夕181号114頁

<事実の概要>

X社は昭和26年1月設立の、製材加工業等を営む株式会社であるが、昭和28年12月28日以来休業状態にあった。

昭和30年9月、X社はY協同組合に対し、X社の製材工場の土地、建物を、X社が必要とするときはY社は何時でもこれを返還するという約定で貸与し、Y組合はこれらを木材置場及び事務所として使用した。

昭和31年11月9日、Y組合の専務理事は、X社の代表取締役Aから製材工場の土地、建物、機械、及び器具類一式(以下「本件物件」)をY組合に売却したい旨の売買の申込を受けたので、即日代金の支払を済ませた。

昭和31年12月にX社がY組合に対し貸与物件の返還を請求したが、Y組合がこれに応じなかったので、本訴を提起し、物件の明け渡しと明け渡しまでの損害賠償を請求した。

Y組合が上記のような売買の成立を主張したのに対し、X社は、①本件物件の売買は、前商法245条1項1号にいう営業の重要な一部の譲渡に当り、X社の株主総会の特別決議を要するにもかかわらず、これを経ていないから売買契約は無効である、②X社では重要な事項について取締役会の決議を要することになっているのに、本件物件の売買についてX社の取締役会決議による承認を受けていないから無効であるなどと主張した。

第1審、控訴審ともにX社の請求を棄却した。

X社は上告した。

本判決は、上告理由のうち、上記①以外の理由に対するものである。

<判決理由>上告棄却。

「株式会社の一定の業務執行に関する内部的意思決定をする権限が取締役会に属する場合には、代表取締役は、取締役会の決議に従って、株式会社を代表して右業務執行に関する法律行為をすることを要する。

しかし、代表取締役は、株式会社の業務に関し一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する点にかんがみれば、代表取締役が、取締役会の決議を経てすることを要する対外的な個々的取引行為を、右決議を経ないでした場合でも、右取引行為は、内部的意思決定を欠くに止まるから、原則として有効であって、ただ、相手方が右決議を経ていないことを知りまたは知り得べかりしときに限って、無効である、と解するのが相当である。

これを本件についてみるに、原判決の認定したところによれば、X社の代表取締役Aが本件物件を売却するには、重要事項としてX社の取締役会の決議を経ることを要したにもかかわらず、右決議を経ていなかったのであるが、買主であるY組合が右決議を経ていなかったことを知りまたは知り得べかりし事実は本件の全証拠によっても認められない、というのであり、原判決の右事実認定は、本件関係証拠に照らし首肯するに足り、右認定には所論のような違法はない。

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表見代表取締役・・・

浦和地判平成11年8月6日(貸金請求事件)
判時1696号155頁、金判1089号45頁

<事実の概要>

Y社は、一般貨物自動車運送事業、貨物自動車運送取扱事業等を目的とする株式会社であるが、かねてA株式会社との間で、A社の集配センターと各営業所間で貨物を配送する業務(以下、「本件業務」)を請け負う旨の契約を締結していた。

Bは、平成7年9月1日、Y社との間で、Y社がA社から請け負っていた本件業務を下請する旨の契約を締結していた。

また、Bの商号では仕事を取りにくいことから、Bは、Y社から、BがY社の専務取締役であることを示す名刺(以下、「本件名刺」)を使用することを許諾していた。

Xは、同年10月頃、Bとの間で、本件業務に運転手として従事する旨の雇用契約の合意をした。

Xは、同年10月1日から平成8年7月4日までの間、運転手として本件業務に従事したが、同年6月1日以降の賃金についてBから支払がなかった。

そこでXは、Y社の専務取締役と称していたBとの間で本件請負契約の合意をし、Y社からアルバイト運転手として雇用されたと信じて本件業務に従事していたのであるから、Y社はXに対し本件賃金を支払う義務があると主張して、Y社にその支払を求めた。

第1審判決は、Xの請求を認容。

Y社は控訴した。

<判決理由>控訴棄却。

「株式会社の専務取締役という名称は、株式会社の代表権を与えられた取締役であることを示すのが一般であるから、Y社から本件名刺の使用を許諾されていたBをY社の表見代表取締役ということができるか否かについて検討すると、表見代表取締役について規定する商法262条は、株式会社が取締役に代表取締役と誤認するような名称を付した場合、当該取締役の行為について、会社にいわゆる表見責任を負わせることにより、そのような外観を信頼した者を保護しようとする趣旨の規定である。

したがって、右規定の趣旨に鑑みれば、株式会社の取締役ではないが、従業員についても、その者に代表取締役と誤認するような名称を付していた場合には、その者が会社の業務として行った行為についても、同条を類推適用すべきものであるが(最高裁昭和35年10月14日第二小法廷判決・民集14巻12号2499頁参照)、取締役でも、従業員でもない外部の者については、取締役あるいは従業員の場合と異なり、そもそも会社の業務に従事しているわけではなく、会社から指揮監督を受ける立場にないのが通常であるから、その者と会社との間に雇用関係に準じた関係が認められる場合は格別、そうでなければ、後に検討する名板貸し責任の有無はともかく、そのような者の行為についてまで、右規定を類推適用して会社の表見責任を認めることはできないと解するべきである。

これを本件についてみると、・・・本件名刺は、結局、Bが自己の業務を遂行するために使用されていたにとどまり、Y社の取締役でも、従業員でもないBをY社の表見代表取締役ということはできないから、商法262条の類推適用により、XがBとの間で合意した本件雇用契約の効果がY社に帰属すると認める余地もない。」

「Y社は、Bが仕事を取りやすいようにするための一環として、Y社から下請していた本件業務を遂行する運転手を雇用することも含めて、Bの営業がY社の営業であるかのような外観を呈する本件名刺をBが使用することを許諾していたものといわなければならないから、Bが本件名刺を使用して本件業務を遂行するための運転手を雇用した場合にも、Bに雇用された運転手において、本件業務の営業主を・・・Y社と誤認していたときには、商法23条所定の名板貸し責任を負うべきものといわなければならず、Xの前記主張は、この意味において、首肯することができる。・・・」

「Xは、Bに雇用された後、Y社が所有するY社の商号が車体に表示された貨物自動車を運転して本件業務に従事していたこと、Xが運転していた貨物自動車のガソリン代は、その社内に備え置かれていたX名義のカードを利用して支払い、オイル交換、タイヤ交換などは、Y社の会社内部で行っていたこと、Xは、本件業務に従事する都度、日報を作成してY社に送付していたこと、Bは、本件業務が遂行される現場においても、専務と呼ばれていたこと、また、Xは、1回ではあるが、本件業務につき、Y社の代表取締役から指示を受けていること、以上の事実が認められ、これによれば、XがY社の業務と誤認して本件業務に従事していたことは否定することができない。・・・」

「しかも、(証拠略)によれば、Xが運送業務に就いたのは、本件業務が初めてであったことが認められるから、Xが、運送業界においては、・・・貨物自動車ごと下請に出すという慣行があることを知らなかったとしても無理からぬところであって、Xが、Y社の専務取締役であると誤認していたBから本件賃金の支払を拒絶される事態に至ったため、Y社に対して直接に本件賃金を請求し、その際、Y社からBがXの下請業者にすぎないと聞かされるまで、前認定のとおり、Xの雇用者、すなわち、本件業務の営業主がY社であると誤認していたことにつき、Xに重大な過失があったということはできず、他にXの重過失を認めるに足りる証拠はない。」

「したがって、Y社は、商法23条に基づき、本件名刺を使用していたBをY社の専務取締役と誤認したXがBとの間で合意した本件雇用契約に基づきBがXに対して支払うべき本件賃金につき、Bと連帯して、その弁済の責任を負うべきものといわなければならないから、Xの本訴請求は、この意味において、理由がある。」

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表見代表取締役と第三者の過失・・・

最判昭和52年10月14日(約束手形金請求事件)
民集31巻6号825頁、判時871号86頁、判夕357号217頁

<事実の概要>

Y株式会社は、その取締役であるAに対し、Y社専務取締役甲営業所長なる名称の使用を承認していたが、AにはY社の手形を振り出す権限を与えていなかった。

AはY社の金策のために、昭和43年8月頃、受取人・振出日・満期を白地とした本件手形をBに示し、同手形による金融のあっせんを依頼したところ、Bは、Aの父でY社の代表取締役をしているCに、個人保証の趣旨で本件手形に第一裏書にCに無断でCの住所氏名を手書きし、その名下に有り合わせ印を押印してC名義の裏書を偽造し、数日後にBに手交わした。

Bは、本件手形の振出日を昭和43年8月15日、受取人をCとそれぞれ補充した上、Xに対し手形の割引を依頼してこれを交付し、その割引を受けXにおいて同手形の満期を昭和44年4月16日と補充した。

Xは、満期に支払場所に本件手形を呈示したが、Y社による支払がなかったため、本訴を提起した。

Xは、AがY社の手形を振り出す権限がなかったとしても、Y社は専務取締役という会社を代表する権限を有するものと認められる名称の使用をAに許諾していた以上、Aに権限がないことを知らずに本件手形を取得したXに対し、前商法262条により本件手形について振出人としての責任を免れないと主張した。

これに対しY社は、Xは、Y社の代表取締役がAではなくCであることを知っていたか、たとえ知らなかったとしても重過失があるなどと主張した。

第1審判決・控訴審判決ともに、Xは、Aの代表権の欠缺(けんけつ)について善意であったから、Y社は前商法262条により責任を負うとした。

Y社は上告した。

<判決理由>破棄差戻し。

「商法262条に基づく会社の責任は、善意の第三者に対するものであって、その第三者が善意である限り、たとえ過失がある場合においても、会社は同条の責任を免れ得ないものであるが(最高裁昭和41・・・年11月10日第一小法廷判決・民集20巻9号1771頁参照)、同条は第三者の正当な信頼を保護しようとするものであるから、代表権の欠缺(けんけつ)を知らないことにつき第三者に重大な過失があるときは、悪意の場合と同視し、会社はその責任を免れるものと解するのが相当である。・・・」

「Y社は原審においてXに重大な過失があると主張しているのであるから、重大な過失の有無を判断することなく、Xが善意であるというだけで直ちに、Xの請求を認容した原判決には、法令の解釈を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点に関する論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。

そして、更にXの重大な過失に有無につき審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。」

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