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倉荷証券上の免責約款・・・
最判昭和44年4月15日(損害賠償請求事件)
民集23巻4号755頁、判時557号263頁、判夕235号118頁
<事実の概要>
倉庫営業者であるY株式会社はA株式会社から物品(茶箱60箱)の寄託を受け、Aの請求により倉庫証券2通を発行した。
Xはこれらの倉荷証券をいずれも裏書を受けて取得した。
本件茶箱は本函で、蓋と本体との境目にはかすがい釘が数本打ち付けられ、その上は製茶業者のみが用いる茶箱専用の封印紙で密封されていた。
また、茶箱には、「品名熊切園、正味115貫5百、本数15個口、静岡県稲葉村堀之内稲葉農協協同組合、増本製茶株式会社御店入」などと記載した紙片が貼付されていた。
倉荷証券には「木函入緑茶30個、昭和32年産」などと記載されていたが、Xの申出により茶箱の中身を検査したところ、中身は熊茶や茶袋であり、証券の記載とは全く異なるものであることが判明した。
本件倉荷証券には、内容検査不適当の受寄物については、種類、品質及び数量を記載してもYは責任を負わない旨の約款があった。
Xは、証券に表示された物品の価額と実際の受寄物の価額の差額187万5625円の損害を受けたとして、Yに対し証券に表示された受寄物の返還債務の不履行による損害賠償請求をなし、また、予備的請求として、倉荷証券の発行に当り受寄物と証券の表示を一致させる注意義務違反による不法行為に基づく損害賠償請求をなした。
原審判決は、まず、倉庫営業者は証券記載の寄託品と実際の寄託品が異なる場合でも証券所持人に対して証券記載通りの寄託品を引き渡す義務を負うとし、次に免責約款につき、短時間に多数の多種多様の貨物を受取り倉荷証券を作成する倉庫営業者に対し、その責任においていちいち正確な検査を要求することは実情に適せず、かつ困難を強いるものであるとして、上記免責約款は有効であるとした。
その上で、内容検査が容易でなく、または内容検査により品質又は価格に影響を及ぼすことが一般取引通念に照らして明らかな場合に限り、倉庫営業者は免責約款により文言責任を免れることができるとし、本件の茶箱入り緑茶はその荷造り及び品物の種類からみて一般の取引通念上内容を検査することが不適当なものであり、内容検査不適当なものに当るとして、Xの請求を否定した。
また、予備的請求についても、注意義務の懈怠は認められないとしてXの請求を認めなかった。
Xは上告した。
<判決理由>上告棄却。
「原審の確定したところによれば、本件各倉荷証券には、倉庫証券約款として、「受寄物の内容を検査することが不適当なものについては、その種類、品質及び数量を記載しても当会社(Y)はその責に任じない」旨の免責条項の記載があったというのであるが、右免責条項の効力を認めた上、倉庫営業者は、該証券に表示された荷造りの方法、受寄物の種類からみて、その内容を検査することが容易でなく、または荷造りを解いて内容を検査することによりその品質または価格に影響を及ぼすことが、一般取引の通念に照らして、明らかな場合にかぎり、右免責条項を援用して証券の所持人に対する文言上の責任を免れうると解すべきものとした原審の判断、ならびに原審の確定した事実関係・・・に照らせば、本件各証券に表象された木函入り緑茶は、その荷造りの方法及び品物の種類から見て、一般取引の通念上、内容を検査することが不適当なものに該当する旨の原審の判断は、ともに正当として是認しうるものである。」
原審の適法に認定した「事実関係のもとにおいては、Yには本件倉荷証券を発行するにあたり、受寄物の内容の検査を行なわなかったことをもって、善良な管理者の注意義務を怠った過失があるものとはいえない旨の原審の判断は正当として是認しうるものである。」
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宿泊客の手荷物の紛失とホテルの責任制限約款の効力・・・
最判平成15年2月28日(損害賠償請求事件)
判時1829号151頁、判夕1127号112頁
<事実の概要>
宝石、貴金属の販売を業とするX有限会社の代表取締役Aは、Xが宝飾展に商品展示をする予定であったので、バッグ2個及びダンボール箱1個を持参して、宿泊のためY株式会社が経営するホテルに到着した。
バッグ2個には、X所有のペンダント等約2847万円相当の宝飾品が入っていた。
Aは、ホテルのベルボーイであるBに対し、バッグの中身を告げることなく、バッグ2個を客室まで運搬すること及びダンボール箱を宅配便で発送することなどを依頼した。
BがAから預ったダンボール箱の発送手続をしていたところ、バッグ2個が盗まれた。
盗難当時のホテルの宿泊約款には、「宿泊客が当ホテル内にお持込になった物品又は現金並びに貴重品であって、フロントにお預けにならなかったものについて、当ホテルの故意又は過失により滅失、毀損等の損害が生じたときは、当ホテルは、その損害を賠償します。
ただし、宿泊客からあらかじめ種類及び価額の明告のなかったものについては、15万円を限度として当ホテルはその損害を賠償します。」という規定があった(以下、この但書のことを「本件特則」という)。
XがYに盗難による損害の賠償を求めた。
原審判決は、Y及び従業員に、滅失・毀損につき重過失がある場合にも、本件特則が適用されるとし、15万円の限度でXの請求が認められた。
Xは上告した。
<判決理由>破棄差戻し。
「本件特則は、宿泊客が、本件ホテルに持ち込みフロントに預けなかった物品、現金及び貴重品について、ホテル側にその種類及び価額の明告をしなかった場合には、ホテル側が物品等の種類及び価額に応じた注意を払うことを期待するのが酷であり、かつ、時として損害賠償額が巨額に上ることがあり得ることなどを考慮して設けられたと解される。
このような本件特則の趣旨に鑑みても、ホテル側に故意又は重大な過失がある場合に、本件特則により、Yの損害賠償義務の範囲が制限されるとすることは、著しく衡平を該するものであって、当事者の通常の意思に合致しないというべきである。
したがって、本件特則は、ホテル側に故意又は重大な過失がある場合に適用されないと解するのが相当である。」
「本件特則がホテル側に重大な過失がある場合にも適用されるとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
・・・原判決のうちX敗訴部分は破棄を免れない。
そして、本件においてBに重大な過失があるか否かについて更に審理を尽くす必要があり、また、重大な過失が認められる場合には過失相殺についても審理をする必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。」
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航空機事故による旅客の死亡と航空運送人の責任・・・
東京地判平成9年7月16日(損害賠償請求事件)
判時1619号17頁、判夕949号255頁、金判1027号30頁
<事実の概要>
昭和58年8月31日、A1~A3及びBは大韓民国法人であるY株式会社が運行するニューヨーク発の航空機に乗客として搭乗した。
この航空機はソウルに向かう途中、予定航路を大きく逸脱してソ連の領空を侵犯し、ソ連戦闘機により撃墜され日本海に墜落し、乗客全員は死亡した。
A1ら及びBの遺族であるX1~X7がYに対し、ワルソー条約(もしくは改正ワルソー条約)17条、18条による損害賠償責任、又は、不法行為による損害賠償責任に基づき、損害賠償を請求した。
損害には、Aら及びBの精神的苦痛に対する慰藉料、X1ら自身の精神的苦痛に対する慰藉料などが含まれている。
なお、Yは当初ワルソー条約22条における責任限度額の抗弁を主張していたが、途中でこの抗弁の援用を撤回したところ、X1らは同条の適否は当事者の主張の有無に関わらず裁判所が判断しなければならないものと主張した(同条の適否につき問題となるYの故意等の有無につき、事故発生原因追及のため、判断を望んだようである)。
<判決理由>一部認容。
A1らとYの間では改正ワルソー条約が適用され、BとYの間ではワルソー条約が適用される。
「ワルソー条約22条及び改正ワルソー条約22条の責任限度額の規定は、主として航空運送人の保護のために設けられた規定であることは明らかであって、その利益を享受するか否かはあくまでも航空運送人も自由意思に委ねられていると解するのが相当である・・・。」
「YはX1らに対し、右責任限度額に関わらず、本件被害者らが被った精神的損害を含む全損害について賠償責任を負うものである(ワルソー条約17条の「旅客の死亡又は負傷その他の身体の障害の場合における損害」中に精神的損害が含まれているかどうかについては、・・・同条約が元来フランス語のみで書かれたものであり、フランス法で「身体障害」という場合、精神的損害が含まれるのが一般であるとされており、「その他の身体の障害」についての損害には元来精神的損害が含まれていたと解することができること・・・に照らすと、・・・旅客が被った精神的損害が含まられていると解するのが相当である。)。」
「責任根拠規定であるワルソー条約17条、18条は、・・・運送人の旅客に対する責任を認める規定である(同条約22条「・・・各旅客についての運送人の責任は・・・」と規定していることも、これを裏付けるものといえる。)ことに照らすと、ワルソー条約の17条、18条が賠償の対象としている損害中に遺族であるX1らが被った固有の慰藉料等の損害が含まれていることについて疑問があり、にわかにこれを肯定することができない。
したがって、右損害については不法行為に基づく損害賠償請求権の存否を検討しなければならないことになる(ワルソー条約は、元来損害賠償請求権者の範囲及び当該損害賠償請求権者が損害賠償請求しうる損害費目の範囲について何ら規定しておらず、同条約は右の点について格別の損害賠償法ないしその要件を創造したものではないと解する余地があり、そのような解釈に下においては、・・・右X1ら固有の損害についてもワルソー条約上の損害賠償責任を論じていることになる。
しかし、ワルソー条約上の運送人の責任の範囲等について右のような方法で決定(本件の場合には拡大的に解釈決定)することについてはなお疑問が残り、にわかに採用することができない・・・。)。」
本件では、日本法に準拠して損害賠償請求権の成立と効力を判断することが相当である。
本件では、機長に過失があり、Yは使用者責任を免れない。
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主催旅行契約と旅行業者の責任・・・
東京地判平成元年6月20日(損害賠償請求事件)
判時1341号20頁、判夕730号171頁、金判842号6頁
<事実の概要>
旅行業者であるY株式会社は、「台湾全周5日間」と題した台湾観光を目的とする旅行を企画・募集し、これに応募したX1~X6との間で、Y社の定める旅行業約款に基づいて本件旅行についての主催旅行契約を締結した。
本件旅行の途中、台湾において、X1~X6を含む本件旅行の参加者が乗車したバスが、運転手の過失により道路から谷底に転落した。
この事故により8名が死亡し、X1らを含む8名が負傷した。
X1らはYに対し事故による損害の賠償を請求した。
X1らは、旅客運送契約の債務不履行、主催旅行契約上の安全確保義務違反、主催旅行契約上の手配及び旅程管理上の義務違反、添乗員の過失によるYの安全確保義務違反などによる損害賠償責任を主張した。
<判決理由>請求棄却。
「本件約款は・・・標準旅行業約款・・・と同一内容のものである・・・ところ、標準約款の制定過程に照らすと、同約款は、主催旅行契約につき、旅行業者は、自ら旅行サービスを提供するものではなく、旅行サービスの提供について手配をする地位にある契約とするのが妥当であり、旅行サービスの瑕疵により旅行者の生命・身体・財産に生じた損害については、旅行業者が契約責任を負う場合を限定する反面、一定の限度において旅行業者の有無にかかわらずに補償されるのが妥当であるとし、そのための保険を開発すべきであるとの基本的考えに立って制定されたものであり、この考えが標準的約款3条、21条、22条として規定されるに至ったものである。」
「主催旅行契約における旅行サービス・・・のすべてを一旅行業者が旅行者に提供することは実際上不可能であるから、旅行業者は旅行サービスの全部又は一部を運送機関、宿泊機関等の専門業者の提供するところに依存せざるを得ないこと、旅行業者は、実際に旅行サービスを提供する運送機関、宿泊機関等の専門業者に対して対しては、個々の契約を通じて旅行者に提供させるサービスの内容を間接的に支配するほかはないこと、特に当該主催旅行の目的地が海外である場合には、これらの専門業者が外国政府の統治下にあるため、旅行者に提供させるサービスに関する支配は一層制約を受けることとなること等を考慮すると、前示の標準約款制定の基本的考え及びこれに基づく前記諸規定は、少なくとも海外を目的地とする主催旅行契約に関する限り、不合理であるとはいえない」。
「標準約款の前記3条及び21条の規定に照らすと、旅行業者は、旅行者と主催旅行契約を締結してことのみによって、旅行者に対し、主催旅行の運送サービスにつき、旅客運送人たる契約上の地位に立たない」。
「(1)旅行は、旅行者の生命、身体、財産等の安全が図られうる条件のもとで実施されるべきものであるが、・・・旅行者が自然災害、病気、犯罪者若しくは交通事故等に遭遇する危険を包含しており、特に海外旅行の場合には、・・・旅行に伴う危険は国内旅行の場合に比し一層高度なものとなることもあるのみならず、いったん事故があったときには、被害者や救護又は法的救済を受けることは困難若しくは事実上不可能であることもありうる等の特殊性があること、(2)主催旅行契約においては、旅行の目的地及び日程・・・等の主催旅行契約の内容・・・は旅行業者が一方的に定めて旅行者に提供し、旅行代金も旅行会社がその報酬を含めて一方的に定めて旅行者に提供し、旅行代金も旅行業者がその報酬を含めて一方的に定めるものであり、旅行者は・・・提供された契約内容・旅行代金の額を受け入れるか否かの自由しかないのが通常であること、(3)・・・旅行者は旅行業者が・・・専門的知識・経験に基づいて企画、実施する主催旅行の安全性を信頼し、主催旅行契約を締結するものであるといえること等を考えると、旅行業者は、主催旅行契約の相手方である旅行者に対し、主催旅行契約上の不随義務として、旅行者の生命、身体、財産等の安全を確保するため、旅行目的地、旅行日程・・・等に関し、あらかじめ十分に調査・検討し、専門業者としての合理的な判断をし、また、その契約内容の実施に関し、遭遇する危険を排除すべく合理的な措置をとるべき注意義務」がある。
旅行業者の損害賠償責任について定める本件約款21条は、旅行業者に上記「注意義務のあることを示すと共に、旅行業者の旅行サービス提供機関に対する統制には前記のように制約があること等を考慮し、旅行業者の責任の範囲を限定した規定と解するのが相当であり、当該主催旅行の目的地が外国である場合には、日本国内における平均水準以上の旅行サービスと同等又はこれを上回る旅行サービス提供機関についての調査にも制約がありうるから、特に契約上その内容が明記されていない限り、旅行業者としては、日本国内において可能な調査・・・資料の収集をし、これらを検討したうえで、その外国における平均水準以上の旅行サービスを旅行者が享受できるような旅行サービス提供機関を選択し、これと旅行サービス提供契約が締結されるよう図るべきであり、更には、旅行の目的地及び日程、移動手段等の選択に特有の危険・・・をあらかじめ除去する手段を講じ・・・る等の合理的な措置を採るべき義務があることを定めた規定と解すべきである。
したがって、海外旅行において旅行者が移動手段である運送機関の事故に基づき損害を被った場合において、旅行業者が右の各義務を尽くしたとすればこれを回避しえたといえるときには、右義務を懈怠した旅行業者は、主催旅行契約上の義務の履行に当り過失があったものというべきであるから、同条2項但書に基づき同条1項本文所定の損害賠償責任を免れないものというべきである。」
本件では、Yの旅行行程設定に関する注意義務違反、運送サービス提供機関の選定に関する注意義務違反はない。
添乗員の安全確保義務違反もない。
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