第三者割当増資による企業買収・・・

自分で会社設立しますか?
ご自分で会社を設立するならまずはクリック!!

第三者割当増資による企業買収・・・

東京高判昭和48年7月27日(株主代表差額金請求控訴事件)
判時715号100頁、金法706号25頁

<事実の概要>

昭和43年当時、経営状態が悪く、有力企業との提携を求める方針をとることとしたA株式会社は、昭和44年1月10日、取締役会において倍額増資となる普通株式1200株の発行を決議し、全株式をY社に割り当てた。

その発行価額は1株70円とされ、これはY会社との協議折衝によって決定されたものであった。

なお、取締役会のなされた日の前日である同月9日、A社株式の東京証券取引所での終値は1株145円であり、また本件新株発行の発表後もA社の株価は上昇を続けた。

A社の株主であるXは、以下のように主張して、Y社に対し、前商法280条の11に基づく通謀新株引受人の責任を追及する代表訴訟を提起した。

すなわち、本件新株発行の価額は、1株につき、取締役会の決議の前日の市場価額である145円の5%引きの価額である137円75銭とするのが公正であり、Y社がその約2分の1である70円で引き受けたのは著しく不公正である、というのである。

1審は、次のように述べて、本件新株の発行価額は「著しく不公正な価額」ではないとしてXの訴えを棄却したため(東京地判昭和47、4、27判時679号40頁)、Xが控訴。

「A社の昭和42年1月から昭和43年12月までの東京証券取引所における株価は別表のとおりであること、A社が同年6月29日、同年5月期を無配にする旨発表したところ、同日の株価は金50円であったこと、A社の株式はもともといわゆる浮動玉が多く市場性が高かったが、同年7月以降たびたびにわたって、A社についてY社その他の有力企業による株式買占めや業務提携の噂が巷間に取り沙汰された結果、A社の株価は、投機的な思惑から大量の買い注文が市場に出されて徐々に上昇し、同年12月には急騰して同月24日金144円になり、そのすう勢が引き継がれて翌44年1月9日の前記株価となったことが認められる。」

「次にA社の資産内容及び収益力を見るに、・・・A社は、テープレコーダー、ラジオ受信機、ステレオ等の電気機器の製造販売を業とし、本件新株発行にいたるまでは発行済み株式総数が1200株・・・であったこと、A社発表の営業報告書によると、昭和43年5月31日の決算期・・・おいては、純資産・・・は金7億6454万5174円、1株当りでは金64円弱であり、当期利益は金1706万2123円にすぎず、株主配当はなかったこと、また同年11月31日の決算kにおいては、純資産は金7億9182万3692円、1株当たりでは金66円弱であり、当期利益は金2727万8518円であったこと、右各営業報告書中の資産には、棚卸資産及びいわゆる子会社等に対する投資に評価損を計上すべきものがあり、土地の再評価による評価益を加えても、A社の純資産の額は営業報告書の数字を若干下回ることがそれぞれ認められ、これに反する証拠はない。」

「前記・・・事実を考え合わせると、A社の昭和44年1月9日の株価は、異常な投機の対象となって形成されたもので、A社の客観的企業価値を反映しているとはいえないから、A社の新株発行価額金70円が右時価の半額以下であったとしても、この事実のみをもってしては、右発行価額が著しく不公正であるということはできず、これが公正か否かについてはさらに検討を要する。

・・・A社は、昭和43年当時は経営状態は悪く、同年5月の決算期において株主に対する利益配当もできず、そのままでは業績の好転が期待できない状況にあったので、これを打開するため有力企業との提携を求める方針をとったこと、この方針にもとづき、A社とY社との間に資本参加を前提とする提携の話し合いが進められ、結局、A社は倍額増資を行い、新たに発行すべき株式1200万株をすべてY社が引き受けることになり、引受価額につき双方の協議折衝がなされた上、本件新株発行が行われたことを認めることができる。

かように、特定の相手方との間の企業提携の方法として新株の発行がなされる場合には、一般の投資を求める場合と異なり、新株の発行を成功させるために、引受先との間で予め引受価額を含む発行の条件について協議しその承諾を得なければならず、この点で、いわば相対の取引に類する面をもつといえるが、この場合、相手方は通常企業の客観的価値に着目するものであり、自らの資本参加による提携が株価の高騰をもたらすとしても、これを加算した価額による引受は肯んじないであろうし、この相手方の要求は取引の通念に照らし不合理なものとはいえず、発行会社においてもこれを無視し難いものと考えられる。

そして本件のように、企業提携の見込みを反映して既に株価が高騰している場合には、その影響を受けない時期における市場価額が通常はその企業の客観的価値を反映していると見られるのであり、決定された発行価額と高騰した市場価額との間に差があっても、それが企業の提携に影響されない時期の市場価額ないし企業の客観的価値を基準として適性に定められている限り、不公正な発行価額とはいえないと考えられる。」

<判決理由>控訴棄却。

控訴審も、1株70円という本件新株の発行価額は、前商法280条の11にいう「著しく不公正な発行価額」には当らないとして原判決の理由を引用する旨述べた上で、次の理由を付加している。

「本件において、新株の発行価額決定の日の前日である、昭和44年1月9日のA社の株価(但し、終値)は1株145円であるけれども、この株価は、主として投機的思惑により形成されたものであって、A社の資産状態、収益力等その企業としての客観的価値を正しく反映していないものであることは、前記引用にかかる原判決理由において詳細に認定判断したとおりであるから、本件においては上記株価を基準として新株の発行価額を定めることは到底できないものといわなければならない。

そうして、上記原判決理由において認定したとおり、本件新株の発行は、A社に対するY社の資本参加、業務提携の方法としてなされたものであって、Y社は発行新株1200万株全部を引き受けることになったものであるが、このような事情を考えると、本件における発行価額の決定に当って、A社の株価のうち、上記参加、提携の機運を前提とする投機的思惑によって異常に高騰したと認められる部分が考慮されてはならないことはいうまでもないことであるから、Y社が右部分を排除しないで決定された価額によって本件新株を引き受けることをしなかったのは、もとより当然であったというべきである。」

スポンサードリンク

第三者割当増資と新株発行の差止・・・

東京地決平成元年7月25日(新株発行禁止仮処分申請事件)
判時1317号28頁、判夕704号84頁、金判826号11頁

<事実の概要>

Y1社及びY2社は、いずれも東京証券取引所第1部に上場する株式会社である。

X社は、昭和62年10月頃からY1社の株式を、また昭和63年2月頃からY2社の株式を大量に取得し始めた。

Y1社の東京証券取引所における株価は、昭和62年12月頃までは900円ないし1200円前後で推移していたが、昭和63年1月以降急騰し、同年2月から5月頃までには4000円前後となり、さらに同年8月には8000円まで上昇した。

その後は、おおむね4800円ないし6000円程度で推移している。

Y2社の東京証券取引所における株価は、昭和62年1月以降急騰し、同年2月から5月頃までには2000円前後となり、同年8月には5460円まで上昇した。

その後は、同年9月にいったん3200円まで下落して以降、おおむね3650円ないし5000円程度の価格で推移している。

X社は、昭和63年6月から10月にかけてY1社と、同年10月から11月にかけてY2社と会談し、Y1社、Y2社及びA社の三社合併等を提案したが、Y1社及びY2社はこれを拒否した。

その後Y1社、Y2社は、X社の要求に対抗するため、業務提携の交渉を開始し、平成元年7月8日、業務提携及び資本提携の合意を行った。

これに基づき同月10日、Y1社及びY2社それぞれの取締役会において、Y1社はY2社に対し、Y2社はY1社に対して新株を割り当てる新株発行を決議した。

その発行価額は、市場価額が極めて高騰していたことを理由に、これを基礎とせず、他の株式価格算定方式を用いて、Y1社は1株1120円、Y2社は1株1580円とした。

これに対してX社は、本件Y1社及びY2社による新株発行の差止仮処分を申請した。

その理由は、大別して以下の2点である。

第1に、本件Y1社及びY2社による新株発行は、特に有利なる発行価額に該当するものであるにもかかわらず、株主総会特別決議がなされていない。

これは、前商法280条の2第2項に違反する。

第2に、Y1社の新株発行により、X社の持株比率は33、34%から26、81%に低下し、またY2社の新株発行により、X社のそれは21、44%から17、24%に低下する。

これは、X社の持株比率を低下させ、現経営陣の支配権を維持する目的でされるものであるから、著しく不公正な方法による新株発行である。

<判決理由>申請認容。

「新株の公正な発行価額とは、取締役会が新株発行を決議した当時において、発行会社の株式を取得させるにはどれだけの金額を払い込ませることが新旧株主の間において公平であるかという観点から算定されるべきものである。

本件のように、発行会社が上場会社の場合には、会社資産の内容、収益力および将来の事業の見通し等を考慮した企業の客観的価値が市場価格に反映されてこれが形成されるものであるから、一般投資家が売買をできる株式市場において形成された株価が新株の公正な発行価額を算定するにあたっての基準になるというべきである。

そして、株式が株式市場で投機の対象となり、株価が著しく高騰した場合にも、市場価格を基礎とし、それを修正して公正な発行価額を算定しなければならない。

なぜなら、株式市場での株価の形成には、株式を公開市場における取引の対象としている制度からみて、投機的要素を無視することはできないため、株式が投機の対象とされ、それによって株価が形成され高騰したからといって、市場価格を、新株発行における公正な発行価額の算定基礎から排除することはできないからである。

もっとも、株式が市場においてきわめて異常な程度にまで投機の対象とされ、市場価格が企業の客観的価値よりはるかに高騰し、しかも、それが株式市場における一時的現象に止まるような場合に限っては、市場価格を、新株発行における公正な発行価額の算定基礎から排除することができるというべきである。

これを本件についてみるに、Y1社の東京証券取引市場における株価の推移は・・・、3000円以上の状態が1年5ヶ月間、4000円以上の状態が1年間と相当長期間にわたって続いており、しかもこのような株価の高騰は、X社がY1社の株式を大量に取得したことにその原因の一があるとともに、Y1社の株式が投機の対象となっていることは否定できないところであると考えられる。

しかし、本件においては、Y1社の株価の推移、特に一定額以上の株価が相当長期間にわたって維持されていることに照らすと、その価格を新株発行にあたっての公正な発行価額の算定基礎から排除することは相当ではない。

したがって、本件新株発行において市場価格を無視してこれを基準とすることなく算定され決定された1120円という発行価額は、当時の市場価格からはるかに乖離したものであることからみて、商法280条の2第2項所定の「特に有利なる発行価額」に該当するというべきである。

よって、それにもかかわらず同条項所定の株主総会決議を経ていない本件新株発行は、その手続に法令違反があるといわなければならない。」

「株式会社においてその支配権につき争いがある場合に、従来の株主の持株比率に重大な影響を及ぼすような数の新株が発行され、それが第三者に割り当てられる場合、その新株発行が特定の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであるときは、その新株発行は不公正発行にあたるというべきであり、また、新株発行の主要な目的が右のところにあるとはいえない場合であっても、その新株発行により特定の株主の持株比率が著しく低下されることを認識しつつ新株発行がされた場合は、その新株発行を正当化させるだけの合理的な理由がない限り、その新株発行もまた不公正発行にあたるというべきである。

これを本件新株発行についてみるに、・・・Y1社とY2社との業務提携の機運は従来からまったくなかったわけではないものの、右両者間でそれが真剣に話し合われたことはなく、本件業務提携は、Y1社、Y2社、A社の三社合併をX社から提案されたことにより、Y1社とY2社が、X社の要求を拒否し、対抗するため具現化したものであるところ、本件業務提携にあたりY1社がY2社に対し従来の発行済株式総数の19、5%もの多量の株式を割り当てることが業務提携上必要不可欠であると認めることのできる十分な疎明はなく、しかも、本件新株発行によって調達された資金の大半は、実質的には、Y2社が発行する新株の払込金にあてられるものであって、差額としてY1社のもとに留保される約50億円についても、特定の業務上の資金としてこれを使用するために本件新株発行がされたわけではないこと、また、X社がY1社の経営に参加することからみると、Y1社がした本件新株発行は、X社の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的とするものであり、又は少なくともこれによりX社の持株比率が著しく低下されることを認識しつつされたものであるのに、本件のような多量の新株発行を正当化させるだけの合理的な理由があったとは認められないから、本件新株発行は著しく不公正な方法による新株発行にあたるというべきである。」

スポンサードリンク

防衛目的の第三者割当増資と発行価額の有利性・・・

東京地決平成16年6月1日(新株発行差止仮処分申立事件)
判時1873号159頁、金法1730号77頁、金判1201号15頁

<事実の概要>

Y社は、東京証券取引所第2部に上場する株式会社であり、発行済株式総数は1630万株である。

X1~X4の4名は、平成16年3月31日現在、それぞれY社株式121万2000株、152万7000株、230万6000株、そして94万3000株を保有する株主である。

X1~X3は、同年4月27日、Y社に対し、同年6月開催予定の定時総会において、取締役5名及び監査役1名の選任を議案とすることを求める株主提案書を送付した。

これに対してY社は、同年5月18日の取締役会において、Bに対して普通株式770万株を割り当てる新株発行を決議した。

その発行価額は、専門的知識を有する第三者の鑑定に基づき、類似業種算定法により算出された252万25銭、売上高・営業利益などの予想値から絶対評価基準として算出された338円、および同年3月31日までの6ヶ月間のY社平均株価589円の三種類の価格を単純に平均し、393円とした。

なお、Y社は、定時総会において権利行使をすることができる株主について、定款上の基準日である平成16年3月31日現在の株主ではなく、同年6月4日の最終株主名簿及び実質株主名簿に記載された株主とする旨の公告を行った。

X1~X4は、以上のY社による第三者割当増資の方式による新株発行に対して、差止仮処分の申立を行った。

その理由は、大別して以下の二点である。

第一に、発行価額が特に有利な発行価額に当るにもかかわらず、株主総会特別決議を経ていない違法がある。

第二に、Y社の現経営陣の地位の維持、保全を目的としたものであり、著しく不公正な方法による新株発行である。

<判決理由>申立認容。

「(1)商法280条の2第2項にいう「特に有利なる発行価額」とは、公正な発行価額よりも特に低い価額をいうところ、株式会社が普通株式を発行し、当該株式証券取引所に上場され証券市場において流通している場合において、新株の公正な発行価額は、旧株主の利益を保護する観点から本来は旧株の時価と等しくなければならないが、新株を消化し資本調達の目的を達成する見地からは、原則として発行価額を時価より多少引き下げる必要もある。

そこで、この場合における公正な発行価額は、発行価額決定前の当該会社の株式価格、上記株価の騰落習性、売買出来高の実績、会社の資産状態、収益状態、配当状況、発行済株式数、新たに発行される株式数、株式市況の動向、これらから予測される新株の消化可能性等の諸事情を総合し、旧株主の利益と会社が有利な資本調達を実現するという利益との調和の中に求められるべきである。

もっとも、上記の公正な発行価額の趣旨に照らすと、公正な発行価額というには、その価額が、原則として、発行価額決定直前の株価に近接していることが必要であると解すべきである(最高裁判所昭和50年4月8日第三小法廷判決・民集29巻4号350頁参照)。

(2)これを本件についてみると、本件発行価額393円は、平成16年5月17日時点の証券市場における1株当たり株価1010円と比較して約39%にすぎない。

また、前記自主ルールは、旧株主の利益と会社が有利な資本調達を実現するという利益との調和の観点から日本証券業協会における取り扱いを定めたものとして一応の合理性を認めることができるところ、本件発行価額は、本件新株発行決議の直前日の価額に0、9を乗じた909円と比較して約43%、本件新株発行決議の日の前日から6ヶ月前までの平均価額に0、9を乗じた650円と比較しても約60%にすぎない。

本件発行価額は、本件鑑定に基づいて決定されたものであるが、上記のとおり、本件新株発行決議の直前日の株価と著しく乖離しており、本件鑑定を精査しても、こうした乖離が生じた理由が客観的な資料に基づいて前記考慮要因を斟酌した結果であると認めることができず、その算定方法が前記公正発行価額の趣旨に照らし合理的であるということはできない。

(3)これに対し、Y社は、Y社の株価は本年1月以降に急激に上昇しており、平成16年5月17日時点におけるY社株式の市場価格1株当たり1010円の数値は、株価の操縦、投機を目的としたXらによる違法な買占めを原因とするものであり、Y社の企業価値を正確に反映したものではないので、本年1月以降の市場価格は公正な発行価額算定基礎から排除すべきであると主張する。

なるほど、・・・Y社の1株当りの株価は、平成15年8月頃は概ね200円台で推移していたところ、同年9月頃から上昇し、平成16年1月に入り概ね500円台に上昇し、同年2月には概ね600円台から700円台で推移し、同年3月800円台を超えて900円台ないし1000円台に上昇し、同年4月には900円台から1000円台で推移し、同年5月には概ね1000円台で推移していることが認められ、・・・Xらによる大量の株式取得が、Y社株式の証券市場における株価に影響を与えていることは否定できない。

しかし、・・・XらはY社へ経営参加や技術提携の要望を有しており、Y社に対する企業買収を目的として長期的に保有するために株式を取得したものであることが窺われ、本件全証拠を精査しても、Xらが不当な肩代わりや投機的な取引を目的として株式を取得したものと認めるに足りる資料はない。

また、・・・Y社の業績も改善していること、証券業界(会社四季報)におけるY社の業績の評価も向上していること、Y社と同様にバルブ事業を営む企業においても、昨年後半から今年にかけて株価が2倍ないし4倍に高騰している事例があることの各事実が認められ、これらの事実に加え、前記のとおりY社の1株当りの株価が今年に入って500円以上で推移している事実を照らせば、Y社株式の株価の上昇が一時的な現象に止まると認めることはできない。

そうすると、本件において、公正な発行価額を決定するに当って、本件新株発行決議の直前日である平成16年5月17日の株価、又は本件新株発行決議以前の相当期間内における株価を排除すべき理由は見だしがたい。

(4)以上によれば、本件発行価額393円は、公正な発行価額より特に低い価額すなわち「特に有利なる発行価額」といわざるを得ず、商法343条の特別決議を経ないで行われた本件新株発行は、商法280条の2第2項に違反するというべきである。」

スポンサードリンク

特別決議を経ない新株の有利発行と会社の損害・・・

東京地判平成12年7月27日(損害賠償請求(株主代表訴訟)事件)
判夕1056号246頁

<事実の概要>

A株式会社の代表取締役Yは、平成2年4月11日、新株20万株を発行し、そのうち10万株についてはY自身に、残りの10万株はYの長男に割り当てた。

当時のA社株式の時価は900円であったが、本件新株発行の発行価額は700円であった。

Xは、A社の株主であるが、以下のように主張して、Yに対し、前商法266条1項5号に基づく取締役の責任を追及する代表訴訟を提起した。

すなわち本件第三者割当による新株発行は、特に有利な発行価額によるものであるにもかかわらず、前商法280条の2第2項に基づく株主総会特別決議を経ていない。

したがって、A社は発行した20万株について、1株当り公正な発行価額との差額200円の損害を被っており、Yにはこれを賠償する責任がある、というのである。

<判決理由>請求認容。

「A社の第三者割当による20万株の新株発行は、当時のA社の株式の時価が1株につき900円であり、1株につき700円の発行価額での第三者割当による新株発行が株主以外の者に特に有利な発行価額をもって新株を発行する場合に当り、したがって商法280条の2第2項により株主総会の特別決議を必要とすることを認識しながら、A社の代表取締役社長であったYが、会長であり大株主であったYの母・・・に知らせずに会社の実質的な支配権を確保するために、あえて株主総会を開催してないで新株発行を決定し、これを実施し、これにより、公正な発行価額である1株につき900円の価額と実際の発行価額である1株につき700円の価額との差額200円について発行株数20万株に相当する合計4000万円の損害を会社に対して与えた事実を認めることができる。

したがって、Yは、商法266条1項5号により、A社に対し、4000万円とこれに対する訴状送達の翌日からの遅延損害金を支払う義務がある。」件においては、本件発行価額が「著しく不公正なる発行価額」であるということはできないのである。」

スポンサードリンク