胎児認知調停・・・
胎児認知調停申立は、非嫡出子の出生前に、その子の父に胎児認知の届出をすることを家事調停で求めるものです。
父は胎児を認知することができます。
民法第783条
1. 父は、胎内に在る子でも、認知することができる。この場合においては、母の承諾を得なければならない。
2. 父又は母は、死亡した子でも、その直系卑属があるときに限り、認知することができる。この場合において、その直系卑属が成年者であるときは、その承諾を得なければならない。
胎児認知は、婚外子の出生後の任意認知が不可能となるおそれがある場合にされ、これにより、出生時から父子関係が形成され、出生届により戸籍に父の氏名が記載されます。
胎児認知をするには、母の承諾を得なければなりません。
母の承諾は、母の名誉利害に影響することが大きいので、母の意思人格を尊重するためと、認知の真実性を保証するためです。
母の承諾を欠いた胎児認知の届出は、受理されず、誤って承諾を欠く届出が受理されたときは、承諾権者は認知取消の訴えを提起することができます。
胎児認知の方式は、戸籍法の定めるところによる届出若しくは遺言によることを要します。
民法第781条
1.認知は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによってする。
2.認知は、遺言によっても、することができる。
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胎児認知調停申立手続・・・
胎児認知の申立は、一般調停事項です。
①申立人
母です。
ただし、胎児認知の訴えを母その他の者が提起することはできないとされています。
②相手方
認知を求められている父です。
③管轄
相手方の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所です。
④添付書類
申立人・相手方の戸籍謄本
診断書
⑤調停手続
調停委員会は、当事者の主張を聴くとともに、職権で必要な事実の調査及び証拠調べなどを行ないます。
その結果、当事者間に胎児認知につき合意が成立し、これを調書に記載したときは、胎児認知の調停が成立します。
しかし、調停調書に胎児認知の記載がされても、これにより、認知の効力は生じないから、これを添付した母からの届出に基づく戸籍の記載は戸籍法24条2項により職権で消除されます。
戸籍法第24条
1.戸籍の記載が法律上許されないものであること又はその記載に錯誤若しくは遺漏があることを発見した場合には、市町村長は、遅滞なく届出人又は届出事件の本人にその旨を通知しなければならない。但し、その錯誤又は遺漏が市町村長の過誤によるものであるときは、この限りでない。
2.前項の通知をすることができないとき、又は通知をしても戸籍訂正の申請をする者がないときは、市町村長は、管轄法務局又は地方法務局の長の許可を得て、戸籍の訂正をすることができる。前項ただし書の場合も、同様である。
3.裁判所その他の官庁、検察官又は吏員がその職務上戸籍の記載が法律上許されないものであること又はその記載に錯誤若しくは遺漏があることを知つたときは、遅滞なく届出事件の本人の本籍地の市町村長にその旨を通知しなければならない。
調停委員会は、事件が性質上調停をするのに適当でないと認めるとき、又は当事者が不当な目的で調停の申立をしたと認めるときは、調停をしないことができます。
調停をしない措置に対して、不服申立を許す規定がないので、即時抗告は認められません。
調停委員会は、当事者間に合意が成立する見込がない場合、調停が成立しないものとして、事件を終了させることができます。
調停不成立として事件を終了させる処分は審判ではないので、これに対して即時抗告及び非訟事件手続法による抗告をすることができません。
また、裁判所書記官が家事審判規則141条に基づき当事者に対して行なう通知も調停手続における審判に該当しないので、同様に解されます。
家事審判規則第百四十一条
第百三十八条又は第百三十八条の二の規定により事件が終了したとき、又は法第二十五条第二項の規定により審判が効力を失つたときは、裁判所書記官は、当事者に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならない。
胎児認知調停事件について、調停が不成立に終わった場合、胎児には認知請求権はなく、母による胎児認知の訴えも認められませんから、胎児の出生後に認知請求します。
胎児認知の届出は、父がします。
届出書には、一般的記載事項のほか、胎児認知である旨、母の氏名及び本籍を記載し、母の本籍地にこれを届け出なければなりません。
この届出書に母の承諾書を添付しなければなりません。
承諾書に代えて、母が届出書の承諾する旨を附記し署名押印することもできます。
胎児認知があった場合、母の本籍地の市町村長は、直ちに記載をせず、後に出生届があるまでこれをそのまま保存し、出生届がされたときに出生事項とともに胎児認知の旨を戸籍に記載します。
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認知無効調停・・・
認知無効調停申立は、任意認知が無効であることを主張して、当初から法律上の認知としての効力を消滅させることを家事審判で求めるものです。
認知によって生じた親子関係を否定するには、認知無効の裁判によらなければならず、親子関係存在確認の裁判によることはできません。
親子関係は身分関係の基本となる法律関係であり、認知に係る親子関係が真実に反するときは、認知によって生じた法律効果について存在する現在の法律上の紛争の解決のために、被認知者には、当該親子関係が存在しないことを確定する法律上の利益があるから、認知者が死亡した後であっても認知無効の訴えを提起することができ、この場合、認知無効の相手方となる地位は、婚姻の無効・人事訴訟手続法2条3項の規定を類推適用して、認知者が死亡した後の認知無効の訴えは検察官を相手方とするとされています。
人事訴訟手続法第二条
1.夫婦ノ一方カ提起スル婚姻ノ無効又ハ取消ノ訴ニ於テハ其配偶者ヲ以テ相手方トス
2.第三者カ提起スル前項ノ訴ニ於テハ夫婦ヲ以テ相手方トシ夫婦ノ一方カ死亡シタル後ハ其生存者ヲ以テ相手方トス
3.前二項ノ規定ニ依リテ相手方トスヘキ者カ死亡シタル後ハ検察官ヲ以テ相手方トス
4.検察官カ当事者ト為リタル後相手方カ死亡シタルトキハ本案ノ訴訟手続受継ノ為メ裁判所ハ弁護士ヲ承継人トシテ選定スルコトヲ要ス
5.前項ノ場合ニ於テハ裁判所ハ弁護士ニ報酬ヲ与ヘシムルコトヲ得其額ハ裁判所ノ意見ヲ以テ之ヲ定ムヘシ
6.第一項及ヒ前三項ノ規定ハ離婚ノ取消ノ訴ニ之ヲ準用ス
認知の無効原因は、認知が認知者の意思によらないこと、認知が真実に反し認知者と被認知者との間に血縁関係がないことです。
血縁上の父子関係がないのにされた認知の無効は、認知者自身も主張することができます。
認知無効の対象となるのは、任意認知だけです。
判決又は審判による認知が無効である場合は、再審の手続で争うのは格別、もはや認知無効の訴えを提起し又は認知無効の調停を申し立てることはできません。
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認知無効調停手続・・・
民法786条に基づく認知無効の申立は、特殊調停事項です。
民法第786条
子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張することができる。
この申立は、本質的には訴訟事項であって調停前置の対象となります。
①申立人
子その他の利害関係人です。
子が訴訟行為につき能力の制限を受けた者であっても意思能力があれば法定代理人の同意はいりません。
利害関係人として判例では、子の母、認知者の妻・妹・父・母、認知によって相続権を害された者、認知しようとする者などとされています。
②相手方
子が申立人のときは認知者、認知者が申立人のときは子、第三者が申立人の場合は認知者及び子、その一方が死亡しているときは生存者だけです。
③管轄
相手方の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所です。
④添付書類
申立人・相手方及び法定代理人の戸籍謄本
認知届出書の記載事項証明書
⑤調停手続
当事者に認知無効の合意が成立し、その無効の原因について争いがない場合、家庭裁判所は、さらに必要な事実を調査した上、当該調停委員会を組織する家事調停委員の意見を聴き、その合意を正当と認めるときに認知無効の審判を行ないます。
認知無効の審判は、適法な異議の申立がないとき、また、異議の申立を却下する審判が確定したときは、確定判決と同一の効力を有します。
その結果、認知は遡及的に効力を失い、認知者と被認知者との間の父子関係の不存在が確定し、その効力は第三者に及ぶ対世的効力を有します。
利害関係人は家庭裁判所に対し、当事者が認知無効の審判の告知を受けた日から2週間以内に異議の申立をすることができます。
異議の申立があれば、審判は当然にその効力を失います。
異議申立人は、異議の申立を却下する審判に対して即時抗告をすることができます。
異議の申立によって認知無効の審判が失効した場合に、当事者がその旨の通知を受けた日から2週間以内に訴えを提起したときは、調停の申立の時に、その訴えがあったものとみなされます。
調停委員は、事件が性質上調停するのに適当でないと認めるとき、又は当事者が不当な目的で調停の申立をしたと認めるときは、調停をしないことができます。
調停をしない措置に対して、不服申立を許す規定はないので、即時抗告は認められません。
民事調停でも調停をしない措置につき同じ規定がありますが、この措置に対して不服申立は認められません。
調停委員会は、当事者間に合意が成立する見込がない場合又は成立した合意が相当でないと認める場合において、家庭裁判所が審判をしないときは、調停が成立しないものとして、事件を終了させることができます。
調停不成立として事件を終了させる処分は審判ではないので、これに対して即時抗告や非訟事件手続法による抗告をすることができません。
また、裁判所書記官が当事者に対して行なう通知も、調停手続における審判に該当しないので、同様に解されます。
調停委員会が、調停を不成立としたときは、事件は終了し、この紛争は訴訟手続で解決することになります。
調停が不成立に終わると時効中断の効力を生じないことになりますが、申立人は調停不成立の通知を受けた日から2週間以内に訴えを提起したときは、調停申立の時に、その訴えの提起があったものとみなされます。
裁判所書記官は、認知無効の審判が確定した場合は当事者の本籍地の戸籍事務管掌者に対し、当事者間に合意が成立したが認知無効の審判をしない場合又は異議の申立によってその審判が失効した場合には当事者に対し、それぞれ遅滞なくその旨を通知しなければなりません。
認知無効の審判が確定したときは、申立人は、その審判が確定した日から1ヶ月以内に、審判書の謄本及び確定証明書を添付して、戸籍訂正の申請を当事者の本籍地又は届出人の所在地にしなければなりません。
申立人が前記申請をしないときは、相手方から戸籍訂正の申請をすることができます。
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