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社債と相殺・・・
最判平成15年2月21日(損害賠償請求事件)
金判1165号13頁、金法1678号61頁
<事実の概要>
長期信用銀行であるY銀行は、昭和52年10月1日、A証券会社との間で、手形貸付、証書貸付その他一切の取引に関して生じた債務の履行に適用されるものとして、銀行取引約定を締結した。
本件約定には、A社について会社更生手続開始の申立等があったときは、Y銀行から通知催告等がなくてもY銀行に対する一切の債務について当然に期限の利益を失う旨(5条1項1号)、A社が期限の利益の喪失等の事由によって、Y銀行に対する債務を履行しなければならない場合には、Y銀行はその債務とA社の預金その他の債権とをいつでも相殺することができる旨(7条1項)の定めがある。
A社は、平成9年11月3日に会社更生手続開始の申立をしたが、この時点で、平成6年から平成8年にかけてY銀行が発行した金融債を保有していた。
本件金融債は、Y銀行を登録機関とする登録債であり、A社は社債権者として登録を受けていた。
なおA社は、平成11年12月21日に会社更生手続開始の申立が棄却された後、同月28日に破産宣告を受け、Xが破産管財人に選任されている。
Y銀行は、平成9年12月2日の時点で、A社に対し、上記会社更生手続開始の申立前の原因に基づき、貸付元金5億8559万円余及びその遅延損害金628万円余、並びに保証債務履行請求権163億751万円余を有していた。
そこでY銀行は、本件約定7条の定めに基づき、同日、A社に対する上記債権の一部と、本件金融債の同日時点の償還元金及び既発生の未払利息合計7億498万円余とを、同日を計算実行の日として、対等額で相殺する旨の意思表示をした。
そこでXは、Y銀行に対し、主位的に本件金融債の償還等を求め、予備的に、Y銀行が無効である本件相殺をすることによって、本件金融債の換価を事実上不可能としたことが違法であるとして、不法行為に基づく損害賠償を求めた。
これに対してY銀行は、本件相殺により同償還請求権は消滅したと主張して争った。
原審は、次のように述べて、Xの主位的請求を認容した。
すなわち、社債について相殺できるとすると、1つの社債が他の社債と異なる性質を持つものになることを容認することになって、大量性、集団性、公衆性という社債の本来の性質に反することになる。
ひいては、社債権者の団体的保護を害する結果となる。
したがって、社債の一種である金融債の償還請求権を受働債権とする相殺の意思表示は、償還期間の到来の前後にかかわらず、許されない、というのである。
また原審は、本件約定の中に、社債の償還請求権を受働債権として発行会社が相殺をすることができる旨の定めがあるとすれば、その約定は公序に反し、無効であり、本件相殺の効力は認められないとしている。
これに対して、Y銀行が上告した。
<判決理由>破棄自判、請求棄却。
「相殺の受働債権が金融債の償還請求権であることをもって、相殺ができないとする理由はないというべきである(最高裁平成・・・13年12月18日第三小法廷判決・裁判集民事204号157頁参照)。
受働債権が金融債の償還請求権である場合に、相殺が許されない根拠として、原審の判示する理由は、いずれも相殺を否定するべき根拠となり得るものとはいえない。
そうだとすると、Y銀行発行の金融債の償還請求権を受働債権として相殺ができる旨の本件約定の中の定めが公序に反して無効であるということはできず、他に本件相殺を無効とすべき事情もうかがわれない。
したがって、本件相殺は有効というべきであり、論旨は理由がある。」
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重要財産の譲渡と特別決議・・・
最大判昭和40年9月22日(建物並びに土地明渡所有権確認、同移転登記手続、同反訴請求事件)
民集19巻6号1600頁、判時421号20頁、判夕183号104頁
<事実の概要>
X株式会社は、営業不振を理由に昭和28年12月に全営業を休止してたが、昭和30年9月、Y組合に対し、X社の求めに応じて返還するという条件で、X社保有の工場の土地建物・設備を無償で貸与し、Y組合はそれを占有・使用していた。
昭和31年11月、X社の代表取締役Aは、X社の株主総会の決議も取締役会の決議も経ないまま、上記土地建物等をY組合に譲渡し、その代金の支払を受けた。
同年12月、X社が本件土地建物等の返還を求めたところ、Y組合がこれに応じなかったため、X社は物件の明け渡しと損害賠償を求めて提訴した。
X社の主張は、本件土地建物等はX社の唯一の営業用財産であるからその譲渡は前商法245条1項1号の営業譲渡に該当し、X社の株主総会特別決議を経ることが必要であるにもかかわらず、これを経ていないからY組合への譲渡は無効であるというものである。
これに対しY組合は、本件売買が営業譲渡には該当しないと反論した上、本件土地建物等は売買によりY組合に帰属した旨主張し、所有権確認及び売買契約関係の確認を求める反訴を提起した。
第1審、原審ともにX社の請求を棄却。
X社は上告した。
<判決理由>論旨理由なし。
多数意見は以下の通り。
「商法245条1項1号によって特別決議を経ることを必要とする営業の譲渡とは、同法24条以下にいう営業の譲渡と同一意義であって、営業そのものの全部又は重要な一部を譲渡すること、詳言すれば、一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部または重要な一部を譲渡し、これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に同法25条に定める競業避止義務を負う結果を伴うものをいうものと解するのが相当である。」
松田裁判官の反対意見(4裁判官同調)は以下の通り、
「商法総則において論じられる営業譲渡について、かかる見解をとること自体に是非の論があるのみならず、商法245条1項1号の「営業譲渡」を商法24条以下の営業譲渡と必ずしも同一に解しなければならないものではない。」
「多数意見は、会社企業の存立の基礎たる全財産の処分を代表取締役の恣意に委ねることすら生ぜしめるものであって、「企業維持」の点より見て、極めて危険な考えであるといわざるを得ない。」
「次に、多数意見は、株主保護の点より見ても、到底是認し得ない。
けだし、多数意見によるときは、営業的活動の承継のない限り、会社の全財産の譲渡も株主総会の決議を経ることを要しないから、譲渡会社の株主の全くの不知の間に、その処分が行われ得ることとなるからである。
そして、その結果として、商法245条1項1号の営業譲渡に反対する株主の有する株式の買取請求権(商法245の2)のごときも、著しくその機能を失うこととなるのである。」
「例えば、製造業を営む株式会社が数個の工場を有する場合、その会社企業全体の見地よりする価値判断において「重要」と認められる工場を譲渡することは、まさに「営業の重要なる一部」の譲渡である。
問題となるのは、その工場における重要な機械を他に譲渡することをいかに解すべきかということである。
思うに、その機械がその重要工場の機能を発揮するため、きわめて重要性を有するものであれば、その機械の譲渡は、決して1個の機械の譲渡と解すべきものでなく、実質上、その譲渡はその工場自体の価値-工場が有機的のものとして有する高度の価値-を破壊することとなろう。
すなわち、会社の見地よりすれば、その機械の譲渡によって蒙る価値の変動は、その機械のすえつけられている工場自体の譲渡によって蒙る価値の変動と異ならないものといい得るのである(その機械の売却は、その企業の製品の売却とは全く趣を異にする。)
そしてこのように解することによって、会社企業は維持され、また株主の利益も保護されるのである。
この見地に立つとき、重要工場の重要な機械の譲渡は、代表取締役の専権に委ねられたものでなく、その譲渡には株主総会の特別決議を要すると解することが、むしろ当然であると思われるのである。」
「株式会社は、その営業上の商取引(例えば製品たる商品の売買)においては、相手方保護のため、取引の安全が強く要請されるべきことは当然である。
しかしながら、会社の営業自体は、本来、譲渡されることを目的とするものではなく、その譲渡は、むしろ、例外的な事例である。
従って、その譲渡については、商取引におけるがごとき取引の安全を強調すべきでなく、却って譲渡会社自体の利益の保護を高度に考えなければならないのである。
いわば、動的安全よりも静的安全を重視すべきものといえよう。」
「さらに、「営業の一部の譲渡」の場合には、たとえ多数意見に従っても、必ずしも取引の安全に役立つものでないことを指摘したい。
けだし、営業の一部の譲渡に当っては、それが「重要」なる一部であるか否かが、会社企業全体の見地よりする価値判断によって決せられるから、「重要」の有無は個々の具体的場合によって異なることとなり、あるいは株主総会の特別決議を必要とし、あるいはこれを不必要とするからである。」
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解散判決における業務執行上の著しい難局・・・
東京地判平成元年7月18日(株式会社解散請求事件)
判時1349号148頁、金判843号46頁、商事1223号1590頁
<事実の概要>
Y社は、発行済株式総数6万株の株式会社であり、A家とB家のそれぞれが3万株ずつを有している。
両家は、約15年間にわたり、同数の役員を出し、役員報酬の形でY社の利益を平等に分配してきた。
ところが、A家側の代表取締役であったA1の死後、B家側の代表取締役Z(補助参加人)は、A1から2000株を取得したことによりY社の過半数の株式を保有したと主張し、A家側の役員を解任してB家側で役員ポストを独占するに至った。
さらにZは、自らが代表取締役であるC社に対しY社の不動産を譲渡し、また、Y社からC社に対し多額の貸付をしながら元利金の支払をしないといった行為にでたため、Y社は支払不能に陥っている。
そこで、A家側の株主Xらは、改正前商法406条の2に基づきY社の解散を請求した。
<判決理由>請求認容。
「Y社は、A家とB家が半額ずつ出資し、その経営及び利益配分も両家平等という前提で経営されてきた株式会社であるところ、A家側の代表取締役であったA1の死後、B家側の代表取締役であるZがA1の生前に本件係争株式を同人から譲渡されたのでB家側が過半数を有しているとの虚偽の事実を主張して、A家側をY社の経営からも、また、Y社の経営による利益の享受からも排除していることになる。
ところで、右に認定した事実に弁論の全趣旨を総合すると、XらA家側のB家側に対する不信は極めて強度なものと認められるので、今後、両家が共同してY会社を経営することは到底期待することはできず、A家側が3万株、B家側が3万株と両家がY社の株式を5割ずつ保有している状況の下においては、株主総会における取締役の選任によりY社の業務執行の決定機関である取締役会を新たに構成することはできないというべきである・・・。
そうすると、前示のようにZがA家側を排除し、自己の経営するC社のために恣意的にY社の経営をし、支払不能の状況に陥らせている状況からすれば、Y社は業務の執行上、著しい難局に逢着しており、また、Y社に回復することができない損害が生ずるおそれがあることは明らかといわなければならない。」
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合併比率の不当と会社の損害・・・
大阪地判平成12年5月31日(損害賠償請求事件(株主代表訴訟))
判時1742号141頁、判夕1061号246頁
<事実の概要>
XはA株式会社の株主であり、A社の代表取締役であるY1らの責任を追及する本件株主代表訴訟を提起した。
なお、Xは、本件訴えの日の6ヶ月前から継続してA社の株式を保有している。
Y1はA社の代表取締役であり、Y2・Y3は同社の監査役である。
A社は、平成10年8月28日、B社との間で、①A社を存続会社、B社を解散会社とする吸収合併を行い、②A社は、合併に際し、合併期日前日最終のB社の株主名簿に記載された株主が所有する株式数に0、2を乗じた数の合計に相当する数(ただし、1株未満の端数は切り捨てる)の額面普通株式(1株の額面金額50円)を発行し、各株主に対し、その所有するB社の株式1株につき、A社の株式0、2株を割り当てるなどの約定を含む合併契約を締結した。
Xは、A社がB社を不公平な合併比率により吸収合併したため、B社の株主には時価総額119億5400万円のA社の株式が割当発行され、他方B社から引き継いだ正味財産は26億600万であるから、A社に少なくとも93億円の損害が発生しており、これはA社の取締役及び監査役であるYらがA社に対する忠実義務及び善管注意義務に違反したため生じた損害である、と主張した。
<判決理由>
「仮に、合併比率が合併当時会社であるA社とB社の資産内容からみて不合理、不公平であり、消滅会社であるB社の株主に対し同社の資産内容に比して過当な株式(存続会社であるA社の株式)が割り当てられたとしても、合併により、消滅会社であるB社の資産及び負債はすべて包括的に存続会社であるA社に引き継がれており、合併交付金の支払という形での資産の流出もなく、また、新たな債務負担はないのであるから、消滅会社であるB社の株主が不当に利得する反面、存続会社であるA社の株主が損失を被ることになるとしても、存続会社であるA社自体には何ら損害は生じないものと解される(なお、存続会社であるA社株主が、合併比率が不合理、不公平であり合併により損害を受けると信じたのであれば、商法が定める手続を践み、株式買取請求権を行使することにより、その損害を回避することができたものである)。」
「株主代表訴訟は、会社のいわば所有者たる株主が、会社が受けた損害の回復を通じ、株主自身の利益の回復を図るために認められた手段であるから、会社に損害が発生しない以上、合併比率の当、不当について判断するまでもなく、Xの請求は、主張自体理由がないものといわざるを得ない。」
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