相続分の譲渡の方式・・・

相続分の譲渡の方式・・・

相続分の譲渡については方式に関し明文の規定はありませんので、何らの方式も必要ではなく口頭ですることも差し支えありませんが、後日の紛争を防止するため合意の内容を書面にしておきます。

相続分の譲渡がありますと、共同相続人以外の譲受人は遺産全体の上に譲渡相続人が有する包括的持分を取得し、その限度で相続人と同一の地位に立つと解されています。

調停中に家裁調査官がした相手方に対する意向確認の際における「傍系の者は相続すべきでないと思うので自分には相続する意思がない、裁判所のいかなる決定にも異存ない、相続する意思がない以上、裁判所には出頭しないし、書面による回答もしない」旨の回答を相続分の放棄と認定し、相手方の相続分は申立人に帰属すると解して遺産分割の審判をした事例があります。

審問期日の呼び出しに出頭しない共同相続人の1人が上申書及び家裁調査官に対する陳述中において、他の共同相続人の1人に対して自己の相続分を譲渡する旨の意向を示したことをもって相続分の譲渡と認定し、遺産分割の審判をした事例があります。

遺産分割前に相続分が二重に譲渡されている場合、先になされた共同相続人に対する相続分譲渡が有効である以上、後になされた他の共同相続人に対する相続分譲渡は無効とした事例があります。

審判期日において成立した当事者全員の相続分譲渡の合意に従い、譲渡人がその対価を受領しながら相続分譲渡を撤回した場合、履行完了後の申出としてこれを認めないで、遺産分割の審判をした事例があります。

スポンサードリンク

相続分譲渡の遺産分割・・・

相続分譲渡があった場合、譲受人のほかに、譲渡人も他の共同相続人とともに遺産分割の当事者となるとの立場もありますが、譲受人と譲渡人を除く共同相続人が当事者となると解すべきです。

この点を裁判例で見ますと、調停事件の処理を含めて譲渡人は申立人・相手方としないとされているようです。

しかし、その場合も、相続分譲渡に伴う権利関係の変動をも含めて一括して解決するのが望ましい処理方法であるところから、譲渡人を含めた共同相続人名義の登記がしてある場合や譲受人が第三者である場合には、手続中に相続分譲渡がされたときにも譲渡人を脱退させずに残したり、譲渡人が手続に入っていないときには利害関係人として参加させて、譲受人に対する登記義務の履行を命ずる配慮がされています。

調停で遺産分割の内容につき当事者間に合意が成立したが、既に相続分を譲渡して期日に出頭しない相続人に対して不動産の共有持分移転の登記手続きを命ずる必要があることから、審判手続に移行した上で、相続分譲渡人を利害関係人として加え、遺産分割の審判をした事例があります。

スポンサードリンク

相続分の譲渡と登記手続・・・

相続分の譲受人は譲受人としての遺産全体に対する包括的持分権者の地位から遺産分割協議に参加し、その結果遺産中の特定の財産の所有者となりますが、その過程で遺産中の不動産について譲受人の権利関係を登記面に反映する方法は以下のようになります。

①相続財産を構成する個々の不動産について相続分を譲渡した相続人を含めて共同相続人登記をした後、譲渡人から譲受人へ持分移転登記をするのが原則です。

譲受人が共同相続人の一部の者であれば、相続を証する書面の一部として相続分の譲渡を証する書面を添付することによって、被相続人から直接相続分譲渡後の相続分の割合による登記をすることも可能とされています。

②譲受人が第三者である場合には、相続人でない譲受人を加えて共同相続人登記をすることはできないと解されていますので、共同相続登記をしてから、譲渡人が譲受人に持分移転登記を申請することになります。

③譲受人が数名の場合、帰属する持分の割合を定めずに譲渡したときは、登記の実務は、相続分は平等の割合で譲受人に帰属する取扱がされています。

④登記名義人が被相続人の場合、譲受人が共同相続人の一部の者であるときは、譲受人は相続による所有権移転登記によって直ちに自己名義とすることができます。

遺産分割が当事者間の協議で成立した場合には登記申請の際、協議に参加しない譲渡人についての相続分の譲渡関係を証する書面の添付を要します。

⑤譲受人が第三者であるとき、被相続人から直接取得者である譲受人に移転登記することを認めた登記の先例は見当たりません。

共同相続人による共同相続登記を経た上で譲渡人の持分を譲受人に移転する登記をしたのち遺産分割による持分移転の登記をすることを予定していると思われますが、遺産分割については第三者である譲受人と同一の地位に立ち、分割の効果は相続開始時に遡るのであり、譲受人を譲渡人と区別する理由はなく、直ちに取得者である第三者に登記する方法も許されると解すべきです。

⑥共同相続人の共同相続登記がしてあるときは、まず、譲受人を登記権利者、譲渡人を登記義務者として相続分譲渡に基づく持分移転の登記、次いで、譲受人を登記権利者、譲渡人を除いた共同相続人を登記義務者として遺産分割に基づく持分移転の登記をします。

⑦登記簿の表題部被相続人が所有者として記載してあるが、所有権の登記がしてない場合、譲受人が共同相続人のうち一部の者であるときは、単独取得した譲受人は、直接、所有権保存登記をすることができると解されています。

⑧登記簿の表題部被相続人が所有者として記載してあるが所有権の登記がしてない場合、譲受人が第三者であるときは、まず、譲渡人を含む共同相続人全員による所有権保存登記をし、次いで⑥の登記をします。

なお、遺産分割の調停又は審判で譲受人が未登記の不動産を単独取得したときは、直接所有権保存登記によって自己名義にすることができます。

スポンサードリンク

相続分譲渡の取戻し・・・

共同相続人の1人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができます。

この相続分取戻権の行使期間は1ヶ月です。

民法第905条

1 共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
2 前項の権利は、1箇月以内に行使しなければならない。

スポンサードリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする