贈与の撤回・・・
書面による贈与の撤回をめぐる紛争の多くは、受贈者の恩を忘れたような行為、背徳的事由によります。
①受贈者が贈与者の妻に暴力を振るい、その妻の左背部に全治2週間の打撲傷を負わせた場合、法律上、受贈者の背徳的行為に基づく贈与者の取消権に関する規定がなく、このような事実があるからといって、直ちに贈与の撤回事由とはなり得ないとした事例があります。
②贈与の履行が終わった後に、贈与者に不信行為をした受贈者は、受贈者としての保護を奪われるかどうかは、受遺欠格(民法965・891)に準ずる事由が存する場合に限り、贈与者が贈与を撤回することができると解しました。
第965条
第886条及び第891条の規定は、受遺者について準用する。
第891条
次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
③養親の養子に対する不動産の贈与は、養親子関係を前提とし、その関係がなくなったとき、所有権は養親に復帰する旨の明示又は黙示の合意があったとの主張に対し、養子縁組の解消とともに所有権は養親に復帰した旨の合意の成立があったとの十分な証拠があるわけではないとした事例があります。
④夫婦間の贈与契約が受贈者の強迫に基づいてなされたものとして、その取消が認められた事例があります。
⑤農地の贈与が詐害行為として取り消された場合の所有権の復帰については、農地法の規定による知事の許可は不用と解されています。
債権者は債務者がその債権者を害することを知ってした贈与の取消を、裁判所に請求することができます。
これを詐害行為取消権といいます。
スポンサードリンク
贈与者の担保責任・・・
贈与は無償ですから、贈与者は目的物件である不動産の瑕疵又は不存在につき担保責任を負わないことを原則とします。
第551条
1. 贈与者は、贈与の目的である物又は権利の瑕疵又は不存在について、その責任を負わない。ただし、贈与者がその瑕疵又は不存在を知りながら受贈者に告げなかったときは、この限りでない。
2. 負担付贈与については、贈与者は、その負担の限度において、売主と同じく担保の責任を負う。
ただ、これは、当事者の意思の推測に基づく規定ですから、当事者が担保責任の特約をした場合は、その特約に従うことになります。
贈与者がその瑕疵又は不存在を知りながら、その旨を受贈者に知らせなかったときは、例外として担保責任を負うことになります。
この担保責任は、瑕疵又は不存在であることを知らなかった受贈者を救済するためです。
ですので、受贈者が瑕疵又は不存在を知っていたときには、贈与者の責任は生じないことになります。
この責任の存続期間については、売買に関する民法566条3項を類推して、損害を知ったときから1年間の除斥期間にかかると解されています。
第566条
1. 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は、質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2. 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
3. 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。
スポンサードリンク
受贈者の賃料請求・・・
受贈者が受贈建物の賃借人に対して、贈与前の延滞賃料等の支払を請求する場合があります。
その場合、民法467条1項所定の通知又は承諾をする必要があり、譲受人のこれがなかったことを理由に、賃借人は延滞賃料等の支払を拒みました。
判例は、民法467条1項所定の通知又は承諾は、債権の譲受人が債務者に対して債権を行使するための積極的な要件ではなく、債務者において通知又は承諾の欠けていることを主張して、譲受人の債権行使を阻止することができるにすぎないものと解するのが相当であり、この通知又は承諾の欠けているからといって、この建物の所有権移転前に発生した延滞賃料及び賃料相当損害金について支払義務がないとはいえないとしました。
第467条
1. 指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
2. 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。
スポンサードリンク
贈与による所有権移転登記・・・
不動産贈与契約のよって、その目的物である不動産の所有権は贈与者から受贈者へ移転します。
しかし、所有権移転の登記を受けなければ、第三者に対抗することができません。
この所有権移転の登記は、贈与者が登記義務者、受贈者が登記権利者となって共同で申請します。
登記申請前に贈与者又は受贈者が死亡した時は、その相続人が申請人の地位を承継します。
スポンサードリンク