公正証書遺言の要件・・・
公正証書遺言は、遺言者が公証人に遺言の趣旨を口頭で述べ、これを公証人が公正証書として作成する遺言です。
公正証書とは、法務大臣によって任命された公務員である公証人がその権限に基づいて作成する公文書をいいます。
遺言能力について、公正証書遺言の場合、この点は、公証人によって十分に留意されるとはいえ、それでも遺言時、遺言者に意思能力がなく、したがって遺言能力に欠けていたという争いの例がないわけではありません。
公正証書の作成要件は次の5つです。
(公正証書遺言)
民法第969条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
1.証人2人以上の立会いがあること。
2.遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
3.公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
4.遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を附記して、署名に代えることができる。
5.公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を附記して、これに署名し、印をおすこと。
①証人2人以上の立会いがあることを要します。
②遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授します。
③公証人が、遺言者の口授を筆記し、これを遺言者と証人に読み聞かせ、又は閲覧させます。
④遺言者と証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自署名押印します。
⑤公証人がその証書は①~④に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押します。
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公正証書遺言の証人の立会い・・・
公正証書遺言作成の要件に証人の立会いが要求されているのは、遺言者が当人に間違いないこと、正常な精神状態で遺言を公証人に口授したことを確かめること、遺言証書の筆記の正確なことなどを証明するためです。
同時に公証人の事務を監視するためとされています。
証人の資格については、その欠格事由が法定されています。
(証人及び立会人の欠格事由)
民法第974条 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
1.未成年者
2.推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
3.公証人の配偶者、4親等内の親族、書記及び使用人
判例は、従来から証人欠格者は法定されている者に限ると解していましたが、最高裁も、公正証書遺言における盲人の証人適格を認めています。
民法974条の列挙する証人の欠格事由は制限列挙であると解すべきであり、右条項に列挙されたもの以外は証人適格を有するとして、立会い証人Aは被告から依頼を受けた者であり、同BCも被告側の者であるから証人適格を欠き本件死亡危急時遺言は無効であるとの主張を排斥した事例があります。
推定相続人、受遺者及びその配偶者並びに直系血族は、遺言の証人又は立会人となることができません。
民法974条3号の規定により遺言の証人又は立会人になれないのは受遺者の直系血族ではなく、遺言者の直系血族であるとの主張を排斥した事例があります。
公正証書遺言につき、推定相続人の配偶者が遺言の立会人となることは民法974条3号に当たり、公正証書遺言の方式に反するとしてこの遺言を無効とした事例があります。
被告は、当該証人は遺言の内容に何ら利害関係がなく、かつ、遺言により何物も取得していないから証人となっても差し支えないと主張しましたが認められませんでした。
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公正証書遺言作成中の証人の立会い ・・・
証人は2人以上の立会いが要求されているため、遺言書作成中は、始めから終わりまで間断なく2人以上の証人が立ち会っていないければなりません。
証人の1人がこれに違反して口授する際に立ち会っていなかったときは、方式違背として無効です。
遺言者は甲、乙を証人として公正証書遺言をしたが、遺言者が公証人に遺言の趣旨を口授しているときに立ち会っていたのは甲だけであり、乙は公証人が遺言を読み聞かせるときになって立ち会ったとして、民法969条に反するとして公正証書遺言を無効とした事例があります。
(公正証書遺言)
民法第969条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
1.証人2人以上の立会いがあること。
2.遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
3.公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
4.遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を附記して、署名に代えることができる。
5.公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を附記して、これに署名し、印をおすこと。
証人2名は、遺言者が公証人に口授しているのを7メートル離れた場所で十分聞き取れないまま傍観的に耳にしていた状況では、口授と証書の内容が一致するか否かを確認するに由なく証人立会いの要件を実質的に欠くとされた事例があります。
公正証書遺言がされる場合において、証人は、遺言者が民法969条所定の署名押印をするに際しても、これに立ち会うことを要するが、本件では、証人の1人であるAは遺言者が遺言書に押印をする際に立ち会っていなかったのであるから、遺言公正証書の作成の方式には瑕疵があったが、遺言者は証人2人の立会いの下に筆記を読み聞かされた上で署名をし、比較的短時間の後にB立会いの下に再度筆記を読み聞かされて押印を行い、Aはその直後ころ右押印の事実を確認したものであって、この間に遺言者が従前の考えを翻し、又は本件遺言公正証書が遺言者の意思に反して完成されたなどの事情が全くうかがわれない本件においては、あえて、遺言公正証書の効力を否定するよりほかないとまで解することは相当でないとした事例があります。
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公正証書遺言の欠格証人の立会い・・・
証人2人のうち1人が欠格者であるときは、作成された遺言は無効です。
欠格者の証人を除いて、なお2人以上の証人適格者が立ち会っていれば遺言は有効です。
欠格事由のある者、例えば、受遺者が立ち会った場合は、その受遺者に関する部分だけが無効となるのではなく、遺言全部が無効になります。
遺言公正証書作成に民法974条所定の者(本件の場合、推定相続人・受遺者であるA)が事実上立ち会っていたこと、遺言者は意識もあったが、言葉の音量はかすかであり、その口元に耳を近づけなければ聞き取れない程度であったこと、公正証書遺言の公証人に対する遺言内容の伝達は、前記Aが誰にどれだけということを言って、これでよいかと遺言者に問いかけ、遺言者がうなずいたのに基づいて公証人又はその事務員が録取するという形でされた場合、遺言者が口授したことにならず、かつ、推定相続人・受遺者であるAが事実上立会人となっていた点で、民法969条及び974条3号に該当し、無効とした事例があります。
(公正証書遺言)
民法第969条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
1.証人2人以上の立会いがあること。
2.遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
3.公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
4.遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を附記して、署名に代えることができる。
5.公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を附記して、これに署名し、印をおすこと。
(証人及び立会人の欠格事由)
民法第974条 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
1.未成年者
2.推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
3.公証人の配偶者、4親等内の親族、書記及び使用人
これに対して、公正証書遺言につき、民法974条の者が事実上立ち会っていたとしてもそのこと自体は遺言の効力には何ら影響を及ぼさないと解した事例、死亡危急時の遺言につき、適格証人が3人以上立ち会って方式を遵守してされたものである以上、右証人のほかに欠格者が証人として同時に立会い遺言書に署名押印しても右遺言の方式遵守に影響を及ぼさないとした事例があります。
遺言公正証書作成に当たり、民法所定の証人が立ち会っている以上、たまたま当該遺言の証人となることができない者が立ち会っていたとしても、この者によって遺言の内容が左右されたり、遺言者が自己の真意に基づいて遺言をすることを妨げられたりするなど特段の事情のない限り、当該遺言公正証書の作成手続を違法ということはできず、同遺言が無効となるものではないとされます。
遺言執行者は、当該遺言に利害関係を有するものでなければ証人として立ち会うことができます。
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