特定遺贈の放棄の期間・・・
特定遺贈の受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができます。
(遺贈の放棄)
民法第986条 受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
2 遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
包括遺贈の放棄については民法990条により相続の放棄に関する規定が適用されますから、民法986条には、特定遺贈に関する規定です。
(包括受遺者の権利義務)
民法第990条 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。
受遺者が長期間にわたって特定遺贈の承認又は放棄の意思表示をしないと、その間、相続関係が確定しません。
遺贈義務者やその他の利害関係人は、受遺者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈を承認又は放棄すべき旨の催告をすることができるものとしています。
(受遺者に対する遺贈の承認又は放棄の催告)
民法第987条 遺贈義務者(遺贈の履行をする義務を負う者をいう。以下この節において同じ。)その他の利害関係人は、受遺者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨の催告をすることができる。この場合において、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなす。
催告権者は、遺贈義務者、相続債権者、相続人の債権者、相続財産管理人など遺産について法律上の利害関係を有する者です。
催告期間は遺贈の内容、受遺者の住所その他具体的な事情を考慮して、相当の日数をおいて、催告をする者が定めます。
催告期間について、当事者間に紛争が生じたときは、裁判所に当否を決してもらいます。
催告の内容及びその到達年月日を明確にするため、催告書は配達証明付内容証明郵便により送達します。
受遺者が遺贈の承認又は放棄をしないで死亡した場合、この催告は、受遺者の相続人に対してします。
相続人が数名あるときは、その全員に対して催告します。
(受遺者の相続人による遺贈の承認又は放棄)
民法第988条 受遺者が遺贈の承認又は放棄をしないで死亡したときは、その相続人は、自己の相続権の範囲内で、遺贈の承認又は放棄をすることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
既に、受遺者に対して催告中であるときは、再度の催告をすることなく、受遺者の相続人が、自己のために相続が開始したことを知った時から催告期間を計算し、その期間中に承認又は放棄の意思表示をすることになります。
受遺者の相続人は、自己の相続権の範囲内で、承認又は放棄をすることができます。
遺言者がその遺言に、「受遺者がなくなった場合、当該遺贈は効力を失う」旨、又は「他の者に遺贈する」旨等の意思表示があれば、それに従います。
この意思表示は、必ず遺言でされなければなりません。
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特定遺贈の承認と放棄の取消し・・・
特定遺贈を承認又は放棄する意思表示がされた後は、これを取消すことはできません。
(遺贈の承認及び放棄の撤回及び取消し)
民法第989条 遺贈の承認及び放棄は、撤回することができない。
2 第919条第2項及び第3項の規定は、遺贈の承認及び放棄について準用する。
この規定は、遺贈の承認又は放棄について撤回を禁じたもので、民法の取消事由がある場合には、取消すことができるとされています。
特定遺贈の承認又は放棄の意思表示が、次のような場合には、取消すことができます。
①詐欺又は強迫によってされた場合
②成年被後見人によってされた場合
③法定代理人の同意を得ないで未成年者によってされた場合
④保佐人の同意を得ないで被保佐人によってされた場合
⑤遺贈の放棄が補助人に同意事項とされている場合、その同意又はこれに代わる家庭裁判所の許可を得ないで被補助人によってされた場合
後見人が、被後見人に代わって遺贈を放棄したり、負担付遺贈の承認・放棄をしたり、又は未成年被後見人がこれをすることに同意をするには、後見監督人があるときは、その同意を得ることが必要です。
後見人が民法864条本文の規定に違反してした遺贈の放棄、負担付遺贈の承認・放棄、又は同意を与えた行為は、被後見人又は後見人において、これを取消すことができます。
(後見監督人の同意を要する行為)
民法第864条 後見人が、被後見人に代わって営業若しくは第13条第1項各号に掲げる行為をし、又は未成年被後見人がこれをすることに同意するには、後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。ただし、同項第1号に掲げる元本の領収については、この限りでない。
特定遺贈の承認又は放棄の取消しについては、その方式を定めた規定はありません。
特定遺贈の承認・放棄の意思表示は遺贈義務者に対してされますから、その取消の意思表示も取消権者である制限能力者又はその法定代理人、承継人若しくは同意権者から、遺贈義務者に対してされるべきです。
特定遺贈の放棄の取消権は、追認をすることができる時から6ヶ月間これを行使しないときは、時効によって消滅します。
承認又は放棄の時から10年を経過したときも、時効によって消滅します。
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指名債権の特定遺贈 ・・・
金銭消費貸借契約に基づく貸金債権は指名債権です。
指名債権とは債権者の特定している債権をいいます。
貸金債権については特別の規定はありませんから、これを譲渡することができます。
指名債権の特定遺贈が効力を生じた場合、受遺者が債務者その他の第三者にその権利を主張するには、債権譲渡の場合と同様に対抗要件を備えることを要します。
譲渡禁止の特約のある指名債権を譲受人が特約の存在を知って譲り受けた場合でも、債務者がその譲渡につき承諾を与えたときは、債権譲渡は譲渡の時に遡って有効となり、譲渡に際し債権者から債務者に対し確定日付ある譲渡通知がされている限り、債務者は、右承諾後に債権の差押・転付命令を得た第三者に対しても債権譲渡の効力を対抗することができます。
譲渡禁止の特約のある指名債権について、譲受人が右特約の存在を知り、又は重大な過失により右特約の存在を知らないでこれを譲り受けた場合でも、その後、債務者が右譲渡について承諾を与えたときは、右債権譲渡は譲渡の時に遡って有効となるが、民法116条の法意に照らし、第三者の権利を害することはできません。
債務者の債権譲渡の承諾が右債権に対する国の滞納処分後にされたときは、国に対して債権譲渡の効力を主張できないとされます。
(無権代理行為の追認)
民法第116条 追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
受贈者が受贈建物の賃借人に対して、贈与前の延滞賃料等の支払を請求する場合、民法467条1項所定の通知又は承諾は、債権の譲受人が債務者に対して債権を行使するための積極的な要件ではなく、債務者において通知又は承諾の欠けていることを主張して譲受人の債権行使を阻止することができるにすぎないものと解するのが相当であり、賃借人は原審において右通知又は承諾の欠缺を主張しなかったから、本件建物所有権移転前に発生した延滞賃料及び賃料相当損害金について、譲受人の請求を認容した原審の判断は正当であるとされます。
(指名債権の譲渡の対抗要件)
民法第467条 指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
2 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。
貸金債権の遺贈は、遺言者死亡の時に効力を生じ、その権利は受遺者に移転します。
しかし、債務者は、受遺者が真正な権利者であるか否かを確知できませんから、相続人に対して弁済するおそれもあります。
貸金債権の特定遺贈は、債権譲渡の場合と同様の対抗要件を備えなければ、受遺者はその権利を債務者に対抗できないとされています。
ゴルフクラブ入会預託金の返還請求権の譲渡につき、会則を適用しないで、指名債権譲渡の方法によることを認めた事例があります。
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指名債権の特定遺贈の通知と承諾・・・
債務者その他の第三者に対する対抗要件は、譲渡人の債務者に対する債権譲渡通知又は債務者の承諾です。
(指名債権の譲渡の対抗要件)
民法第467条 指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
2 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。
債権譲渡の通知のされたことが当事者間に争いがないときは、反証のない限り、債権が譲渡されたものと認められます。
債権者が債権譲渡証書に確定日付を受け、これを即日短時間内に債務者に交付したときは、民法467条2項所定の確定日付ある通知があったものと認められます。
民法467条にいう指名債権譲渡の通知は右債権の譲渡人、その包括承継人又はそれらから委任を受けた者がなすべきで、右債権の譲受人が委任を受けないで事務管理として右譲渡の通知をしても、債権譲渡の通知の効力を生じません。
特定遺贈の場合、債務者に対する通知は遺贈義務者がなすべきであって、受遺者の通知では債務者に対抗できません。
遺贈義務者が債権譲渡通知をしない場合には、その通知をするべきことを判決手続で請求することになります。
民法467条の指名債権譲渡の承諾とは債権譲渡の事実を承認することです。
この承諾は意思表示ではなく、観念の通知であり、その相手方は譲渡人、譲受人のいずれでもよいとされます。
受遺者が債務者以外の第三者に対して、遺贈による債権取得を主張するには、右の通知又は承諾は、確定日付ある証書をもってしなければ、これに対抗することができません。
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