火災の建物の抵当権の保険金差押・・・
山田さんは、田中さんに山田さん所有の建物を担保にお金を貸しました。
ところが、その建物が隣家の火事で類焼して丸焼けになってしまったのです。
その担保家屋には火災保険が掛けてあったので、山田さんは田中さんのところに行き、保険金で返済してくれるように言ったのですが、あまり良い返事をしてくれず、他にも借金があるから、などと言い出しました。
このような場合には、保険金の支払前に差押をした場合に限り、その保険金の上に抵当権を及ぼし、抵当権の順位どうりに取立てをすることができます。
判決その他の債務名義はありませんから、その必要はなく、抵当権を証する証書によって差押をすることができます。
差押手続きは、請求債権と差押債権とを明らかにし、抵当権も明確にして差押申請書を作成して申請することになります。
抵当権は登記してなくてもかまわず、登記の有無は当事者間の抵当権の効力に関係なく、単に第三者への対抗要件にすぎないからです。
ただし、保険金が支払われる前に差押えなければなりないとされます。
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譲渡担保物の他の債権者の強制執行・・・
山田さんは、田中さんに500万円を貸し、田中さんの工場の工作機械を譲渡担保にとっていました。
譲渡担保というのは、担保にしようとする工作機械の所有権そのものを山田さんに移し、一定の期間内に弁済すれば、この工作機械を再び田中さんに返還させるという担保制度です。
この制度が利用されるのは、占有を移さないで、使用できることです。
しかし、別の債権者である斉藤さんが公正証書を債務名義とし、この工作機械に強制執行をしてきたのです。
これに対して、山田さんは第三者異議の訴訟を起こしました。
第三者異議の訴訟というのは、田中さん名義の工作機械に対し、斉藤さんが強制執行をかけたところ、山田さんがこの工作機械の真の所有者は山田さんであって、田中さんは真の所有者ではないから強制執行を中止せよ、といって申し立てる訴えのことをいいます。
山田さんが第三者ですから、第三者訴訟といいます。
しかし、譲渡担保権者が第三者異議の訴訟を起こせるかどうかが問題になってきます。
判例では、このような立場にあるときでも第三者異議訴訟を起こせるとしました。
従来、このような事件では学説上は、譲渡担保権者は、真に所有者ではないのだから、第三者異議訴訟は起こせず、優先弁済請求の訴訟ができるにとどまるとされていました。
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古い仮登記附記登記と新仮登記・・・
山田さんは、田中さんから、500万円を借りて、山田さんの土地を担保とし、田中さんのために売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記をしていましたが、弁済期である期日に、500万円を返済していました。
その2ヶ月後に、今度は斉藤さんから500万円を借りて、この土地を担保として、先に仮登記権利者であった田中さんの仮登記について、権利譲渡を原因とする仮登記移転の附記登記をしていました。
附記登記とは、権利に関する登記のうち、既にされた権利に関する登記についてする登記であって、当該既にされた権利に関する登記を変更し、若しくは更正し、又は所有権以外の権利にあってはこれを移転し、若しくはこれを目的とする権利の保存等をするもので当該既にされた権利に関する登記と一体のものとして公示する必要があるものをいう。
本来なら、田中さんから借りた500万円を、山田さんが返済した時点で、田中さんのためにした担保としての所有権移転請求権保全の仮登記は抹消されて、あらためて斉藤さんのために同様の登記手続きをとります。
しかし、貸借金額が同額であること、担保の目的物件も同一であるところから、抹消登記に必要な書類として、田中さんから渡されていた、権利証、印鑑証明証、白紙委任状を利用して、斉藤さんのために附記登記により新仮登記としました。
その後、高橋さんが300万円を山田さんに貸して、売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記をし、弁済期に山田さんが支払えなかったため、高橋さんは所有権移転登記をしました。
では、高橋さんがした所有権移転登記に、斉藤さんの仮登記は対抗できるかが問題になります。
判例では、実体上の権利関係と登記関係が一致する限り有効であるとしています。
この場合、斉藤さんは山田さんに500万円を貸していて、その担保としてとった目的不動産は、山田さんの所有する土地ですから、斉藤さんを権利者とする仮登記移転附記登記は、現在の実体上の権利関係と一致することになります。
このような経緯と内容をもった事件にあっては、たとえ不動産物権変動の過程を如実に反映していなくても、仮登記の附記登記が現実の状態に符合するかぎり、当事者の間はもちろん、右附記登記後にその不動産上に利害関係を取得した第三者は、特別の事情のない限り、右附記登記の無効を主張するについて正当な利益を有しないものであるとしています。
したがって、高橋さんは、斉藤さんに対して、その附記登記の無効を主張して、抹消を請求しても認められないのです。
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債権者の担保喪失の連帯保証人の責任・・・
山田さんは、銀行から2000万円の融資を受け、所有の漁船3隻を譲渡担保とし、また、田中さんに連帯保証人になってもらいました。
山田さんは2年前に亡くなり、連帯保証人になったことも忘れていたときに、銀行から田中さん宛てに内容証明郵便が届き、残額の300万円を支払って欲しいと言ってきたのです。
調べてみると、銀行に譲渡担保に差し入れた3隻の漁船は、所有名義が金融機関に移転手続きがとられていなかったこと、3隻の漁船はすでに事故で沈没し保険が掛けられていなかったことなどが判明しました。
田中さんは、今頃になって請求してきたこと、譲渡担保になって3隻の漁船の登録変更の手続きがされず、保険にも入っていないことなど、納得がいきませんでした。
返事をしないでいると、銀行から訴訟を提起されました。
判決は、連帯保証人が将来債務者に代わって支払をした場合には、保証人は、債権者が債務者に対して持っている請求権、担保物に対する権利を行使することができるから、債権者の怠慢で担保が喪失したり減少したりしたときには、保証人が債務者に対し満足な権利請求ができないのだから、その限度で責任を免れるとしました。
(債権者による担保の喪失等)
民法第504条 第500条の規定により代位をすることができる者がある場合において、債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し、又は減少させたときは、その代位をすることができる者は、その喪失又は減少によって償還を受けることができなくなった限度において、その責任を免れる。
3隻の漁船の価値が、貸付残高の300万円を上回ると判断されて、田中さんの保証責任を訴えた原告の請求は棄却されました。
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