除斥期間と時効の完成猶予とは・・・

除斥期間と時効の完成猶予とは・・・

除斥期間というのは、権利行使という意味では消滅時効と似ていますが、それと違う点は、当事者の援用を必要としないことです。

ですので、裁判所は、除斥期間が過ぎていれば当事者の援用がなくてもその権利は消滅したとして裁判ができます。

そして、除籍期間には、更新がありません。

どういうものが除斥期間であるのかといいますと、民法の時効編に規定されているものは時効ですが、その他の条文に規定されたものはその文中に「時効により消滅する」と明記されたものは時効、そのように書かずに単に権利行使期間を定めてあるものは除斥期間だといわれています。

「時効により」と書かないで権利行使期間を定めてある条文は、次になります。

・盗品・遺失物の回復請求権 2年

・物の売主に対する買主の契約解除権・損害賠償請求権・代金額請求権 1年

・不動産の買戻権 5年と10年

・請負契約の場合の注文者の解除権・瑕疵修補請求権・損害賠償請求権 1年、5年、10年

・婚姻取消権 3ヶ月

・養子縁組取消権 3ヶ月、6ヶ月

時効の完成猶予とは、時効を更新する事が困難な事由があるときに、一定期間だけ時効を完成猶予するものです。

一定期間だけ時効を完成猶予するとは、事実上その一定期間だけ時効期間が延長される事になります。

時効の更新は、更新時からまた新たに時効が進行しますから、10年の時効期間なら更新した時からまた10年となりますが、その点が完成猶予と更新は違います。

時効完成猶予事由は民法158条から161条までに法定されています。

時効満了時に未成年者または成年被後見人であったとき、夫婦が離婚したとき、相続開始したが相続人が確定しなかったとき、天災の発生したときには2週間から6ヶ月の期間、時効が完成猶予されるのですが、このうち、「夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から6ヶ月を経過するまでの間は、時効は、完成しない」と規定されていますので、気をつける必要があります。

時効完成猶予は消滅時効期間にも取得時効期間にも適用されます。

時効の完成猶予はすでに完成してしまった時効には適用はなく、もうすぐ時効が完成しそうな時に役立つものです。

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裁判上の請求による時効更新の判例・・・

①訴えの提起による時効更新の効力を生ずる時期は、訴状の受理の時であって、訴状が相手方に送達された時ではない。

②1個の債権の数量的な1部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えを提起した場合、訴え提起による消滅時効更新の効力は、その1部の範囲においてのみ生じ残部には及ばない。

③債権者が時効の受益者を相手として詐害行為取消権を提起しても、その前提となる債権の消滅時効を更新しない。

④1個の債権の1部についてのみ判決を求める趣旨を明らかにして訴えを提起した場合、訴え提起による消滅時効更新の効力は、その1部についてのみ生じ、残部には及ばない。

しかし、そのような趣旨が明示されていないときは、請求額を訴訟物たる債権全部として訴求したものと解すべきである。

したがって、その場合には、訴えの提起により、右債権の同一性の範囲内においてその全部につき時効更新の効力を生ずるものと解する。

⑤手形権利者が手形を所持していないのに、手形債務者に対し裁判上の請求をした場合でも時効更新の効力がある。

⑥手形所持人が受取人欄白地のままで手形金請求の訴えを提起した場合でも、時効更新事由となる。

⑦原告が所有権に基づく移転登記手続請求訴訟を起こし、その裁判で被告が自分に所有権がある旨を主張して被告のその主張が認められたときは、この主張は裁判上の請求に準ずるものとして原告の取得時効を更新する効力がある。

⑧債権者が債務者に対し破産手続開始決定の申立をしたときは、その債権の消滅時効の更新事由たる裁判上の請求となる。

⑨公正証書に関する請求異議訴訟において、債権者がその訴訟上において債権の存在を主張したとしても、右証書作成上の代理権欠如を理由に請求異議が認容され、右債権自体の存否が判断されなかったときは右債権についての裁判上の請求に準ずる消滅時効更新の効力は生じない。

⑩約束手形の所持人Aが、手形振出人Bの連帯保証人Cに手形の支払を求めた。

Cは、Bの手形振出責任は訴訟の審理中に時効で消滅したと主張したが、Bの振出責任の消滅時効は連帯保証人Cに対するAの訴訟で更新される。

その理由は連帯保証人に対する請求は、主たる債務者に対してもその効力を生ずるから、連帯保証人に対する裁判上の請求は主たる債務についても消滅時効を更新する。

主たる債務が手形債務でも異ならない。

手形債務を主たる債務とする連帯保証契約で、連帯保証人に対し裁判上の請求がなされれば、手形債務についても消滅時効は更新する。

⑪裁判上の請求は、訴訟が却下又は取下げられた場合には時効更新の効力が生じないが、ただし、二重訴訟を解消するために前訴が取り下げられてもその取下げが権利主張をやめたものではなく、権利についての判決による公権的判断を受ける機会を放棄したものでもないときは、訴訟を取り下げても訴訟の提起による時効更新の効力が存続する。

⑫原告が自動車事故による損害賠償請求訴訟を提起したところ、被告がその裁判上で相殺の抗弁を出し、しかる後、不法行為に基づく債権を受動債権とする相殺は禁じられているため、それを取り下げて別訴で被告から反訴を起こした。

相殺の抗弁は民法149条所定の裁判上の請求と認められ、それを取り下げたとき一般に時効更新の効力がなくなるが、別に反訴の形式で同一請求をし、相殺の抗弁も反訴も裁判上の請求という点では継続性を有するから、消滅時効は更新されたままになっていると解するのが相当である。

⑬抵当権に基づく任意競売申立は被担保債権の消滅時効更新事由となる。

⑭原告(従業員)が雇用契約上の地位確認及び未払賃金支払請求訴訟を提起し、二審段階でベースアップによる増加賃金分や一時金の請求拡張をした場合、基本的法律関係たる地位確認を求めた段階で派生的なベースアップ分等の請求権についても時効は更新したものと認められる。

⑮原告は被告に対し小切手支払の確定判決を既に得ているが、被告行方不明なので時効更新のため再訴を提起することは、他に時効更新の簡易な方法がないときは、この再訴を認めてもよい。

⑯主たる債務につき確定判決があって消滅時効期間が10年に延長されたときは、それに附従する保証債務の時効期間も10年となる。

しかし、附従姓のない連帯債務の場合には連帯債務者の一人について時効期間が延長されても他の連帯債務者のそれが10年に変ずることはない。

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催告や承認による時効更新の判例とは・・・

①手形債権の時効更新のためにする催告につき、従来は手形の呈示を必要としたが、その後、判例も従来の見解を変更し、手形の呈示を要せず、内容証明による催告でも手形債権の時効を更新するとした。

②民法300条には「留置権の行使は債権の消滅時効の進行を妨げず」とあるが、所有権に基づく引渡請求訴訟において被告が留置権の抗弁を提出したとき、この抗弁は訴訟提起に準ずる更新の効力があるとはいえないが、請求としての効力があり、その訴訟係属中はずっと更新の効力が存続すると認められる。

③債権者から債務履行の催告を受けた債務者が、その請求権の存否について調査するため猶予を求めた場合には、民法153条の6ヶ月の期間は、債務者から何らかの回答があるまで進行しない。

④訴訟上、相殺の主張をすることは、受動債権について承認があったものと認められるので、その後、相殺の主張が撤回されても、すでに承認の効力は失われない。

⑤債務の一部弁済として小切手が振り出され、それが支払人によって支払われた時は、債務の一部弁済として債務の承認たる効力を持ち銀行が支払ったときに時効更新する。

⑥会社の代表取締役たる者が長期間にわたって会社から金銭の貸付を受け、かつ、その代表者が作成に関与した会社の決算報告書に右貸付金を記載し、その決算報告書を会社に提出し、その際、とくに異議も述べなかったときは、右代表者は決算報告書に記載された自己の債務の存在を承認したことになり時効は更新し、すでに消滅時効期間の過ぎたものについて時効利益の放棄となる。

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差押、仮差押、仮処分による時効更新の判例とは・・・

①債権に基づく差押があったとき、その債権の消滅時効は、差押の継続中、その進行が更新される。

②債権者から委任を受けた執行官が、債務者の有体動産を差押えに行ったが債務者の所在不明のため執行不能に終わったときは、その債権につき時効更新の効力は生じない。

③動産執行による金銭債権の消滅時効更新の効力は、債権者が執行官に対してその執行の申立をしたときに生ずる。

④抵当権実行による任意競売の場合、裁判所が競売開始決定し、その決定正本を当該債務者に送達した場合に当該被担保債権の消滅時効の更新の効果を生ずる。

⑤時効更新事由としての差押えとは、時効の対象とされている権利の権利者自らが行った場合に限られるから、国がAの国税滞納処分としてAのBに対する請負代金債権を差押えたとしても、AのBに対する右請負代金請求権の消滅時効を更新するものではない。

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