小型犬の接近の転落の損害賠償・・・
山田さんの息子の太郎君は、小学生で犬嫌い、ある日、あまり上手ではない自転車に乗って出かけました。
そこに、田中さんは、飼っている体長40センチの小柄なダックスフントを散歩させ、リードを首輪から離したところでした。
リードを離された犬は、歩いて太郎君に近寄っていったところ、太郎君は、その犬をよけて通り抜けようとしてハンドルを左に切った際に、自転車もろとも川に落ちてしまい、それが原因で失明してしまいました。
山田さんは田中さんを損害賠償請求し、最高裁まで争い、最高裁は次のように判断しています。
①7歳の児童には、どのような種類の犬であっても、犬を恐れる者がいることは事実である。
②このような児童が存在する以上、犬が飼い主の手を離れて、自由行動していれば、太郎君のような事故は十分にありうる。
③このような事故があり得ることは、一般に犬の飼い主としても予測不可能と言いきれない。
として、飼い主に対して、太郎君の負傷について損害賠償金の支払を命じた原判決は正当であるとして、犬の飼い主である田中さんの上告を棄却しました。
事故の原因となった何らかの行為と、事故の発生との間には、相当因果関係がなくてはなりません。
それがなければ、行為者は、損害賠償の義務を負いません。
本件では、ダックスフントが道路上を歩いてきたことが、太郎君の川への転落、負傷という事故を起したことは確かですが、この事故は起きない方の蓋然性のほうが高かったのです。
つまり、不幸の積み重ねが重なった場合の事故だったのです。
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無認可保育者で幼児の死亡事故・・・
山田さんは1歳の息子を無認可保育所に預け、担当者は、保母資格のある女性と無資格の女性でした。
ある晩、息子は睡眠中食べたものを吐いて、それをのどにつまらせ、窒息して死亡してしまいました。
山田さんは、無認可保育所の経営者を相手に1000万円の損害賠償請求の訴えをしました。
訴えの理由としては、「微熱があるから注意して」といって預けたのに、消化のよくないコンニャクを食べさせたり、乳幼児は風邪のときは、食べたものを吐く恐れがあるのに、2時間以上も寝かせたまま放置していたことに過失があると主張しました。
これに対して、無認可保育所は、預かったときも「熱はない」といっており、子供も異常は認められず、食事も残さず、元気に遊んでいたのであるから、食べた物を吐くような事態は予測不可能であったと主張しました。
裁判所は、山田さんが熱があるから注意してといった事実は認めず、特に注意を要する状態で預かったものであるし、夜間は担当者1人で8人にも及ぶ乳幼児を見ていたのであるから、異常に気づかなかった点に過失はないとしました。
しかし、8人の乳幼児を1人の者が十分注意して保育するのはほとんど不可能で、もう1人、保母の心得のある者が保育に当たっていたら、息子の窒息死を防止できたという蓋然性は高いとし、不法行為責任は否定されても、乳幼児を預かった保育所として、息子の窒息死については、保育委託契約上の債務不履行責任があるとし、173万円の損害賠償を命じました。
本件では、過失相殺を85%とした点で、山田さんと内縁の夫は、経済的に2人で働きに出る緊要性もないのに保育所に預けっぱなしで働きに出ていた点、無認可で人的にも十分でないことを知りつつ預けていたこと、息子の健康チェックがいい加減だったことを指摘し、育児態度があまりに安易であった点に過失があるとしました。
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放課後の自習中の事故の損害賠償・・・
太郎君は小学5年生で、担任の田中先生の許可を受けて、クラスの生徒10人と、放課後も教室に残って自習することになりました。
太郎君は勉強にも飽きて、紙飛行機を作り、その先端に重みをつけるため、画鋲をつけて飛ばして遊び始めました。
そのうち、全員が遊び始め、太郎君が飛ばした紙飛行機が五郎君の左目に命中してしまい、五郎君は左目を失明してしまいました。
五郎君の両親は、この事故は担任の田中先生が教室におらず、勝手に生徒たちに教室を使用させたことから起きたといい、田中先生の監督義務違反だとして、五郎君の両親は、太郎君の両親と市を相手取って、1800万円の損害賠償訴訟を起こしました。
一審の裁判所は、太郎君の両親に対しては、親として子供に対する一般的な監督義務を怠っていたことを認めて、損害賠償責任を認めましたが、担任の田中先生に対しては、小学校高学年ともなると、一応学校生活にも適応し、相当の自立能力、判断力もあるから、危険の発生を予測できる特別の事情がない限り、担任の先生は、放課後の学習までつきっきりで監督する義務はない、として棄却し、太郎君の両親だけに325万円の支払を命じました。
五郎君の両親が、この一審判決を不服として控訴しましたが、太郎君の両親に対して1200万円の損害賠償を認める判決をしましたが、田中先生には監督義務違反はないとし、市に対する訴えは棄却しました。
教師には一般的な監督責任があるとしても、事故発生の危険性の予見が不可能な突発事故に対してまで、教師の監督義務は及ばないと解されます。
放課後の学習のための教室使用を許した田中先生に、太郎君が画鋲つきの紙飛行機を飛ばすことは、予見不可能であることは明らかです、
また、同じような判決して、中学生徒の課外クラブ活動中の、生徒同士の喧嘩から失明した事故について、クラブ顧問の先生が立ち会わなかったとしても、このような喧嘩は予見できなかったとして、監督義務を否定しています。
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体育の授業中の事故の損害賠償・・・
中学3年生の太郎君は、体育の水泳の時間に先生の指導の下、飛び込みの訓練を受けていました。
太郎君は助走をつけて、プールに飛び込んだのですが、飛び込んだ角度が直角だったので、頭をプールの底に打ちつけ、先生は異変に気づき、救急車を呼びました。
しかし、太郎君は全身麻痺の寝たきりとなってしまい、太郎君の両親は学校側の過失を主張し、損害賠償請求をしました。
裁判所は、文部省の学習指導要領によると、中学校ではプールの飛び込み練習をするときは助走をつけた飛び込みは認められないこと、プールの水深が1メートルしかなく、普段より浅かったこと、先生の指導の下飛び込んだのだから指導と事故の間に因果関係があり、また、太郎君には責められるような過失は認められとしました。
裁判所は、損害賠償額を次のように認定しました。
①18歳から67歳になるまでの逸失利益 約5300万円
②付き添い看護人費用 5800万円
③医療費 約500万円
④療養のための自宅改造費 約590万円
⑤慰謝料 2000万円
合計約1億4000万円でした。
このように重度の後遺障害を受けた人に対する逸失利益は、死亡事故より高額と認められたのです。
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