死亡危急者遺言の死亡の危急・・・

死亡危急者遺言の死亡の危急・・・

「死亡の危急に迫った」というのは、必ずしも医学的、客観的に死亡の危急が切迫していることは必要ではなく、遺言者が主観的に自己の死亡に危急が迫っているものと自覚したときでも、また、周囲の者が遺言者の病状、負傷、老衰の程度などから死期が近いと判断したときでもよいとされます。

その原因は、病気、負傷、老衰など何であるかを問わないとされます。

原告は、死亡危急者遺言は、遺言者自身が死期を感じたのみでは足らずある程度客観的にも死亡の危急にある状態でなければ許されないと解すべきであり、遺言者は遺言当時死亡の危急に迫った状態でなかったから特別方式による遺言の要件を欠き、遺言は無効であると主張しましたが、遺言者は遺言当時危篤状態ではなかったが、高齢かつ重態で何時死亡するかもわからない状態であったこと、遺言者は自ら死期の切迫を感じて本件遺言をしたこと、民法976条の特別方式による遺言は必ずしも遺言者が危篤の状態になくても自ら死亡の危急な危険を感じた場合にもこれをなしうるものと解するを相当とするとして遺言無効を認めなかった事例があります。

(死亡の危急に迫った者の遺言)
民法第976条 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2 ロがきけない者が前項の規定によって遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3 第1項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4 前3項の規定によってした遺言は、遺言の日から20日以内に、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。

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死亡危急者遺言の証人3人以上・・・

死亡危急者遺言の証人の数を他の特別方式の遺言の場合より多くしたのは、口頭遺言の弊害を防ぎ、遺言者の真意をより一層確保しやすくするためと、難船危急時遺言におけるほど緊迫した事情にないため証人を探すことが可能ですから、証人の数を3人以上としても、遺言の機会を不当に奪うことにならないという考慮によるものです。

証人の欠格事由については、普通方式の遺言の場合と同じです。

(普通の方式による遺言の規定の準用)
民法第982条 第968条第2項及び第973条から第975条までの規定は、第976条から前条までの規定による遺言について準用する。

(証人及び立会人の欠格事由)
民法第974条 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
1.未成年者
2.推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
3.公証人の配偶者、4親等内の親族、書記及び使用人

証人は、筆記の正確なことを承認して署名押印しなければなりませんから、署名押印のできない者は証人となることはできません。

死亡危急時の遺言につき、適格証人が3人以上立ち会って方式を遵守してされたものである以上、右証人のほかに欠格者が証人として同時に立会い遺言者に署名押印しても右遺言の方式遵守に影響を及ぼさないとした事例があります。

証人は、全員がそろって終始継続して立ち会っていなければなりません。

証人が中座して1人しか立ち会っていない場合に筆記がなされたときは、方式違背として無効となります。

法定の適格者である証人が3人以上立ち会っていれば、ほかに欠格者の証人が立ち会っていても、遺言は有効です。

3人の適格者のほかに、推定相続人や受遺者といった遺言に直接利害関係のある証人欠格者が立ち会って、口述を筆記したり、読み聞かせたりして、その遺言全般にわたって主導的な働きをしたような場合は、この欠格者によって遺言者や他の証人が牽制される危険性が大きいから、その遺言を無効とする説があります。

遺言内容に実質的影響を与えるような立場にある者は証人欠格者になるとして受遺者の姉が立ち会った遺言を無効とした審判例があります。

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死亡危急者遺言の口授 ・・・

口授とは、口頭の陳述であり、言語による意思表示をいいます。

民法976条にいう口授には、単なる首肯定等の動作は含まれないものの、「遺言の趣旨を口授」すれば足りるので、遺言者が遺言書の文言どおり口授する必要はないとされます。

(死亡の危急に迫った者の遺言)
民法第976条 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2 ロがきけない者が前項の規定によって遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3 第1項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4 前3項の規定によってした遺言は、遺言の日から20日以内に、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。

口が聞けない者が、死亡危急者遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、口授に代えなければなりません。

「口がきけない者」の中には、言語機能障害のため発語不能である場合だけでなく、聴覚障害や老齢のために発語が不明瞭で、発語の相手方にとって聴取が困難な場合も含まれるとされています。

「通訳人の通訳」には、手話通訳以外に、読話、解読、指点字等の方法による通訳も含まれます。

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死亡危急者遺言の口授の判例・・・

遺言者に「遺言の趣旨を口授」させるのは、作成された遺言書が遺言者の真意と合致するか否かを立会い証人に確かめさせるには口頭による意思の表示が最も妥当であるからであり、「遺言の趣旨の口授」があるといえるためには、立会い証人が、遺言者において真に特定内容の遺言をする意思があることを確かめるに足る程度の口述が必要であるが、遺言者の口述によってそれが明らかになる以上、遺言者の発する言葉自体の中に遺言の骨子が全て含まれている必要はなく、立会い証人と遺言者との口頭による問答から遺言者において特定の内容の遺言をする意思があることが明らかになれば「遺言の趣旨の口授」があったと解すべきであるとされています。

立会人Aは、他の証人BC及び担当医師立会いのもと、遺言者に対し、

「おばあちゃん遺言するんですか」

「はい」

「どういう遺言をするんですか」

「お松にやる」

「何をお松にやるの」

「家」

「家というのは麹町のおばあちゃんの住んでる家ですか」

「はい」

「お松というのは**松子のことですか」

「はい」

「おばあちゃんの住んでる家を**二郎にやるの」

「いや、いいえ」

「おばあちゃんの住んでる家を**夏子にやるの」

「いや、いいえ」

「おばあちゃんの住んでる家を**一郎にやるの」

「いや、いいえ」

の問答の後、立会い証人Aは、他の証人BC及び担当医師に対し、いかがですかと聞いたところ3人とも大丈夫ですと答えたので、Aは事前に用意してきた本件遺言書の原稿を読み上げ、遺言者に「間違いないですか」と聞いたところ、同人は「はい」と答えたので、Aはその場で署名押印し、他の証人BCも続いて署名押印して、遺言書が作成された。

この場合、この遺言書は遺言者が遺言をする前にAがあらかじめ遺言者から直接あるいは被告を通じて遺言者の意向を聞いて作成しておいたものであるが、これは民法976条に定める口授と筆記の順序が前後したにとどまるものであって、それがあって遺言者の真意を確保し、その正確を期するため遺言の方式を定めた法意に反するものでなく、同条に定める方式に違反するものでないとして、遺言無効の主張を排斥しました。

(死亡の危急に迫った者の遺言)
民法第976条 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2 ロがきけない者が前項の規定によって遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3 第1項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4 前3項の規定によってした遺言は、遺言の日から20日以内に、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。

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