公正証書遺言の公証人の付記・・・
(公正証書遺言)
民法第969条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
1.証人2人以上の立会いがあること。
2.遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
3.公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
4.遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を附記して、署名に代えることができる。
5.公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を附記して、これに署名し、印をおすこと。
公証人が、その証書は民法969条1号から4号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押します。
遺言公正証書の原本に公証人の署名押印の有無が争われた事案で、原審は、本件公正証書の原本は8年謄本が作成された日まで、公証人の署名押印を欠くものであったことが認められるとして、本件遺言は民法960条、969条の方式を欠き無効としましたが、上告審は、原審が説示する事情を基に、公務員が職上作成した公文書たる本件遺言公正証書の原本について、それが作成された時点はもとより、8年謄本が作成された時点においても、公証人の署名押印がなかったと認定することは、他にこれを肯定するに足りる特段の事情の存しない限り、経験則又は採証法則に反するというべきであるとして、特段の事情の存否等について更に審理をつくさせるため、原審判決を破棄して差し戻した事例があります。
(遺言の方式)
民法第960条 遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
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公正証書遺言の一般的記載事項・・・
公正証書遺言に記載する事項のうち、本旨以外の記載事項については公証人法36条にその定めがあります。
公証人法第36条 公証人ノ作成スル証書ニハ其ノ本旨ノ外左ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス
1.証書ノ番号
2.嘱託人ノ住所、職業、氏名及年齢若法人ナルトキハ其ノ名称及事務所
3.代理人ニ依リ嘱託セラレタルトキハ其ノ旨並其ノ代理人ノ住所、職業、氏名及年齢
4.嘱託人又ハ其ノ代理人ノ氏名ヲ知リ且之ト面識アルトキハ其ノ旨
5.第三者ノ許可又ハ同意アリタルトキハ其ノ旨及其ノ事由並其ノ第三者ノ住所、職業、氏名及年齢若法人ナルトキハ其ノ名称及事務所
6.印鑑証明書ノ提出其ノ他之ニ準スヘキ確実ナル方法ニ依リ人違ナキコトヲ証明セシメ又ハ印鑑若ハ署名ニ関スル証明書ヲ提出セシメテ証書ノ真正ナルコトヲ証明セシメタルトキハ其ノ旨及其ノ事由
7.第32条第2項但書ノ場合ハ其ノ旨及其ノ事由
8.急迫ナル場合ニ於テ人違ナキコトヲ証明セシメサリシトキハ其ノ旨
9.通事又ハ立会人ヲ立会ハシメタルトキハ其ノ旨及其ノ事由並其ノ通事又ハ立会人ノ住所、職業、氏名及年齢
10.作成ノ年月日及場所
公正証書に嘱託人の住所を記載するのは、その他の事項とあいまって嘱託人の同一性を確保するためであるから、住所の記載を欠いても他の記載から嘱託人の同一性を認識しうる以上その公正証書を無効であるということはできず、本件遺言公正証書はその要件を完備していて嘱託人の同一性の認識になんら欠けるところがないから仮に遺言者の住所の記載を欠くものであるとしても遺言公正証書の効力には全然関係がないとした事例があります。
公証人が嘱託人の氏名を知らず、面識もない場合において印鑑証明書を提出させるのは、公証人がこれによって真実嘱託人本人の嘱託であるか否か、人違いの有無を認識するためであるから、**区長が区長として作成し、その証明した印鑑は遺言者が自己の印鑑として届け出た同人の真実の印鑑であり、その印鑑の届出に瑕疵があっても、人違いのないことの認識についての信憑力において欠くとことはないとして、**区長が権限なくして作成した印鑑証明書により人違いのないことを証明させて作成した遺言公正証書無効の主張を排斥した事例があります。
公証人が遺言者の氏名を知りかつ面識があって、人違いでないことが明らかである場合には、遺言公正証書に公証人が遺言者を知らないときの記載がされ、印鑑証明書を欠いていても公正証書全体を無効とすべきではないとした事例があります。
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公正証書遺言の作成手続 ・・・
公正証書遺言は、普通の公正証書と異なり、必ずしも全国主要地に設けられている公証役場で作成しなくてもよいとされます。
遺言者の入院先の病院や自宅などに公証人の出張を求めて作成することもできます。
公証役場の設けられていないところでは、法務局又は地方法務局の支局に勤務する法務事務官が公証人の職務を行ないます。
国外において公正証書遺言を作成する場合には、日本の領事が公証人の職務を行ないます。
(外国に在る日本人の遺言の方式)
民法第984条 日本の領事の駐在する地に在る日本人が公正証書又は秘密証書によって遺言をしようとするときは、公証人の職務は、領事が行う。
遺言者が、公正証書遺言をするに当たって、公証役場に持参すべきものは、次になります。
①遺言者の実印・印鑑証明書
遺言者を確認するための本人の実印と印鑑証明書。
印鑑証明書がない場合は、運転免許証、外国人登録証明書、旅券、船員手帳、乗員手帳、入国許可書をもって代えることができます。
②証人の認印
証人には、印鑑証明書は必要ないとされています。
しかし、証人欠格事由に未成年者かどうかを確かめるために必要になる場合もあります。
③遺言者・受遺者の戸籍謄本
受遺者が法人の場合は、法人の登記簿謄本。
④不動産の登記簿謄本
遺産が土地・家屋の場合は、その登記簿謄本又は抄本。
⑤固定資産税評価証明書
遺産が不動産の場合は、作成手数料算出の参考とするための固定資産税評価証明書又は評価通知書。
⑥作成の手数料
公正証書遺言作成の手数料は、遺贈する財産の時価が目的価格となり、一定の率で算出されますが、その額は公証人手数料令に定められています。
一通の遺言書で、数人に相続させる遺言をしたときは、各相続人ごとに一行為として各行為ごとに手数料が計算されます。
出張して遺言書を作成した場合は、割増料として公証人手数料令により算出した手数料の半額が加算されるほか、日当及び旅費も加わります。
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公正証書遺言の効力・・・
民法969条1号から4号までの手続が完了すれば、これらの要件が具備した後に、遺言者が死亡しても、公証人が同条第5号の手続を完結することによって、その遺言は有効と解されています。
(公正証書遺言)
民法第969条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
1.証人2人以上の立会いがあること。
2.遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
3.公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
4.遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を附記して、署名に代えることができる。
5.公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を附記して、これに署名し、印をおすこと。
公正証書は、公文書ですから、成立については完全な証拠力を有します。
しかし、遺言者の口授の内容の真実性を保障しませんから、利害関係人は反対の事実を立証することによって、遺言の内容を争うことができます。
遺言の効力が争われている訴訟において、証言を求められた公証人の証言拒絶は理由がないとした決定に対して公証人がした即時抗告を「遺言者の死亡後に公正証書遺言によってされた財産の帰属に関する遺言者の意思表示の効力を巡って紛争が生じ、この点に関する事情について、当該公正証書を作成した公証人の証言を得るほかこれに代替し得る適切な証拠方法がない場合、右紛争について実体に則した公正な裁判を実現するために、右紛争の争点に対する判断に必要な限度で遺言者に秘密に属する事実が開示されることになってもやむを得ないというべきである」などとして棄却した事例があります。
公正証書遺言は、通常、原本のほか、正本・謄本の合計3通が作成されます。
原本は公証役場で20年間保管され、正本は遺言執行者が執行のために保管し、謄本は遺言者が保管します。
遺言執行者の指定がない場合には、通常、正本は遺言者が保管し、謄本は相続人の1人が保管します。
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