発行差止仮処分違反の新株発行の効力・・・

自分で会社設立しますか?
ご自分で会社を設立するならまずはクリック!!

発行差止仮処分違反の新株発行の効力・・・

最判平成5年12月16日(新株発行差止請求事件)
民集47巻10号5423頁、判時1490号134頁、判夕842号131頁

<事実の概要>

Y株式会社は、昭和59年8月23日の取締役会において、第三者割当の方法による新株発行を決議した。

Y社の株主であるXらは、同年9月12日、本件新株発行につき差止仮処分命令を得た。

そして、同月20日、本件新株発行は、現在の取締役会の方針に反対する株主の持株比率を減少させ、Y社の支配確立を目的としたものである等主張して、新株発行差止請求の訴えを提起した。

Y社は、本件新株発行をそのまま実施し、その後昭和60年10月31日、本件新株発行差止請求の訴えの第1審第8回口頭弁論期日において、本件新株発行はすでに実施されていることから、訴えの利益がなくなったとの主張を行った。

そのためXらは、同年12月2日付けの準備書面において、本件仮処分命令に違反する新株発行は効力を生じない、仮に効力を有するとすれば、予備的に、本件新株発行差止請求訴訟を新株発行無効訴訟に変更する旨の申立をした。

原審は、Xらの予備的請求を認容。

Y社が上告した。

<判決理由>上告棄却。

「本件新株発行に対する差止請求の訴えと右訴えを本案とする本件仮処分命令に違反してされた新株発行に対する無効の訴えとは、事前と事後の違いはあるが、ともに本件新株発行により不利益を受けるとするXら株主がその新株発行を阻止し、若しくはその効力を否定しようとするものであって、同一の経済的利益を追求するものということができる上、新株発行差止請求の訴えの訴訟資料、証拠資料を新株発行無効の訴えの審理に利用することが期待できる関係にあるということができるから、旧訴である新株発行差止請求の訴えと新訴である新株発行無効の訴えとの間には請求の基礎に同一性があるものというべきである。

・・・訴えの変更は、変更後の新請求については新たな訴えの提起にほかならないから、変更後の訴えにつき出訴期間の制限がある場合には、出訴期間の遵守の有無は、原則として、訴えの変更の時を基準としてこれを決すべきであるが、変更前後の請求の間に存する関係から、変更後の新請求に係る訴えを当初の訴えの提起時に提起されたものと同視することができる特段の事情があるときは、出訴期間が遵守されたものとして取り扱うのが相当である。(最高裁昭和・・・61年2月24日第二小法廷判決・民集40巻1号69頁参照)。

これを本件についてみるに、・・・本件新株発行に対する差止請求の訴えは、Xが本件仮処分命令を得た後、新株発行がされることにより持株比率の減少等の不利益を受けるとするXらによって、本件新株発行を阻止する目的の下に提起されたものであって、Xらは、右訴えの提起により、万一右仮処分命令に違反して新株が発行された場合には右新株発行の効力を争い、仮処分命令違反をその理由とする意思をも表明していると認められるから、本件で変更された新株発行無効の訴えについては、新株発行差止請求の訴え提起の時に提起されたものと同視することができる特段の事情が存するものというべきである。」

「商法280条の10に基づく新株発行差止請求訴訟を本案とする新株発行差止の仮処分命令があるにもかかわらず、あえて右仮処分命令に違反して新株発行がされた場合には、右仮処分命令違反は、同法280条の15に規定する新株発行無効の訴えの無効原因となるものと解するのが相当である。

けだし、同法280条の10に規定する新株発行差止請求の制度は、会社が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正な方法によって新株を発行することにより従来の株主が不利益を受けるおそれがある場合に、右新株の発行を差し止めることによって、株主の利益の保護を図る趣旨で設けられたものであり、同法280条の3の2は、新株発行差止請求の制度の実効性を担保するため、払込期日の2週間前に新株の発行に関する事項を公告し、又は株主に通知することを会社に義務付け、もって株主に新株発行差止の仮処分命令を得る機会を与えていると解されるのであるから、この仮処分命令に違反したことが新株発行の効力に命令を得る機会を株主に与えることによって差止請求権の実効性を担保しようとした法の趣旨が没却されてしまうことになるからである。」

「新株発行差止請求権と新株発行無効の訴えとは、相関連する制度として創設されたものではなく、右請求権の行使として提起される差止請求の訴えと新株発行無効の訴えは、訴えの性質、原告適格、請求原因、判決の効力等を異にすることが明らかであるから、新株発行差止請求の訴えを新株発行無効の訴えのいわば前駆的訴訟であるとしたり、両者を制度的に同一の目的を有する関連した訴えとしてとらえたりすることはできないものといわなければならない。」

「株主がこの差止請求権を行使しても、その効力は個々の株主と会社との間の債権債務を形成するにとどまり、仮に株主が勝訴判決を得たとしても、同様であることからすれば、右請求権に係る訴えを本案とする仮処分命令の効力もまた、会社に当該株主に対する不作為義務を課するにとどまるものといわなければならず、それ以上の効力を有するとすることは、理にもとることが明らかである。

・・・このように、会社の有する新株発行権限は、新株発行差止請求権に係る訴えを本案とする差止仮処分命令によっていかなる制約をも受け取ることはないから、会社が右命令に違反しても、それが新株発行無効の訴えにおける無効原因となり得ないことは明らかである。

・・・もともと新株発行差止請求は、それだけでは新株発行の無効原因とはなり得ない程度の瑕疵があるのにすぎない場合にも、その発行により不利益を受けるおそれのある個々の株主がその差止を求めることができる権利として創設されたものであって、当該株主が自己の権利保全のために仮処分命令を得ているからといって、それに違反してされた新株発行を全体として無効としてしまうことは、一般に新株発行無効の訴えにおける無効原因が取引の安全保護の見地から制限的に解されてきている傾向に背馳し、本来無効原因とはならない瑕疵をも無効原因としてしまうのと同様の結果となり、かえって、不当な結果をもたらすというべきであろう。」

「付言するに、一般的にいって、単純な不作為のみ命ずる仮処分命令は、その実質において、当該当事者における債務者の不作為義務を確認する意味を有するにとどまり、それを無視する債務者に対してはその実効性を確保することは困難なのである。

それは仮処分命令によって形成された不作為義務の強制的実現のための方策が現行法上不十分であることによる共通の結果であって、新株発行差止仮処分命令についてのみ、その実効性が確保されていないわけではない。」

スポンサードリンク

新株の著しい不公正発行・・・

最判平成6年7月14日(取締役会決議無効確認、新株発行無効等請求事件)
判時1512号178頁、判夕859号118頁、金判956号3頁

<事実の概要>

Y株式会社の取締役Aは、創業以来の代表取締役で発行済株式の過半数を有するXと不仲になり、その信頼を失っていた。

そこで、専らY社の支配権を奪い取る目的をもって、昭和61年9月16日、取締役会を開催して自らを代表取締役に選任する決議を行った。

さらに、同年11月14日、当時入院中であったXに招集通知をせずに取締役会を開催し、新株発行の決議を行った。

これに基づいて発行された新株は、その全部をAが引き受け、保有している。

これに対してXは、以下のように主張して、本件新株発行につき無効の訴えを提起した。

第1に本件新株発行にかかるY社取締役会決議は、Xに対する招集通知がなされておらず不適法であり、当該瑕疵ある取締役会決議に基づく本件新株発行は無効である。

第2に、本件新株発行は、A自らがこれを全部引受け、Y社を支配できるようにする目的の下にしたものであり、著しく不公正な方法によりされたものであるから無効である、というのである。

原審は、Xの第2の主張を取り上げ、著しく不公正な方法による新株発行は特別の事情がある場合に限って無効になると解すべきところ、本件においては、新株がすべてその発行を計画したAによって引き受けられ、保有されており、取引安全のために新株発行を無効とすることを特に制限する事情はなく、Y社が小規模で閉鎖的な会社で、本件新株発行が以上の目的でされたことを併せ考えると、以上の特別の事情があり、本件新株発行は無効であるとした。

これに対して、Y社が上告した。

<判決理由>破棄自判、請求棄却。

「新株発行は、株式会社の組織に関するものであるとはいえ、会社の業務執行に準じて取り扱われるものであるから、右会社を代表する権限のある取締役が新株を発行した以上、たとい、新株発行に関する有効な取締役会の決議がなくても、右新株の発行が有効であることは、当裁判所の判例(最高裁昭和・・・36年3月31日第二小法廷判決・民集15巻3号645頁)の示すところである。

この理は、新株が著しく不公正な方法により発行された場合であっても、異なるところがないものというべきである。

また、発行された新株がその会社の取締役の地位にある者によって引き受けられ、その者が現に保有していること、あるいは新株を発行した会社が小規模で閉鎖的な会社であることなど、原判示の事情は、右の結論に影響を及ぼすものではない。

けだし、新株の発行が会社と取引関係に立つ第三者を含めて広い範囲の法律関係に影響を及ぼす可能性があることに鑑みれば、その効力を画一的に判断する必要があり、右のような事情の有無によってこれを個々の事案ごとに判断することは相当ではないからである。」

スポンサードリンク

新株発行不存在確認の訴えの出訴期間・・・

最判平成15年3月27日(新株発行不存在確認請求事件)
民集57巻3号312頁、判時1820号145頁、判夕1120号84頁

<事実の概要>

Y株式会社は、平成元年8月12日の取締役会で、払込期日を同月29日として3万株の新株を発行する旨の決議を行い、発行済株式の総数が15万株から18万株に変更された旨の登記を受けている。

さらに、平成2年9月30日の取締役会で、払込期日を同年11月7日として7万株の新株を発行する旨の決議を行い、発行済株式の総数が18万株から25万株に変更された旨の登記を受けている。

Y社株主Aは、平成4年11月12日、以上2回の新株発行につき、代表取締役の不関与、取締役会決議の不存在、新株発行事項の通知の欠如、そして新株発行条件の不公正等を主張して、新株発行不存在確認の訴えを提起した。

原審は、新株発行不存在確認の訴えの出訴期間につき、これが新株発行無効の訴えに準ずるものとし、したがって本件訴えは出訴期間経過後の訴えであるとして不適法却下した。

これに対して、A死亡後、株式を相続して訴訟を承継したXらが上告。

<判決理由>破棄差戻し。

「新株発行不存在確認の訴えについては、商法に何ら規定がないが、新株発行の実体がないのに新株発行の登記がされているなどその外観が存する場合には、新株発行が無効である場合と同様に、対世効のある判決をもって新株発行の不存在を確定し、不実の外観を除去する必要があると認められるから、商法280条の15以下に規定されている新株発行無効の訴えに準じて新株発行不存在確認の訴えを肯定すべきである(最高裁平成・・・9年1月28日第三小法廷判決・民集51巻1号40頁参照)。

そして、明文の規定がないにもかかわらず、新株発行無効の訴えに準じて新株発行不存在確認の訴えを認めるのであるから、同訴えについては、その性質に反しない限り新株発行無効の訴えに関する規定を類推適用するのが相当である。

しかし、新株発行無効の訴えの出訴期間に関する規定については、これを類推適用すべきでなく、新株発行不存在確認の訴えに出訴期間の制限はないものと解するのが相当である。

新株発行不存在確認の訴えに出訴期間の制限はないものと解するのが相当である。

新株発行不存在確認の訴えは、新株発行に瑕疵があるためにこれを無効とすることを求める新株発行無効の訴えと異なり、外観にかかわらず新株発行の実体が存しない場合にその不存在の確認を求めるものであるが、新株発行の不存在確認の訴えの出訴期間を制限しても、同期間の経過により新株発行の存否が終局的に確定することにはならないのであり、新株発行の効力を早期に確定させるために設けられた出訴期間に関する規定を類推適用する合理的な根拠を欠くというべきだからである。」

スポンサードリンク

名義書換未了株主と異議催告手続・・・

最判昭和52年11月8日(異議申述催告公告請求事件)
民集31巻6号847頁、判時875号101頁、判夕357号223頁

<事実の概要>

X1とAは、Y株式会社の株式を2000株ずつ所有していた。

Aは昭和44年1月5日に死亡し、X1~X10らがA所有の株式を共同相続した。

Y社は、昭和48年10月1日の臨時株主総会において、Y社の株式を譲渡するには取締役会の承認を要する旨の定款変更の決議をした。

Y社は、前商法350条1項所定の公告手続をし、X1とAに対し同年12月1日までに株券を提出すべき旨、通知した。

ところが、X1~X10らは株券の所在が不明であるとして、Y社に対し前商法350条3項に基づく異議催告の公告を求めて本件訴えを提起した。

第1審継続中に、Aの共同相続人であるX1~X10は、前商法203条2項に基づきX1を共有株式の権利行使者とし、Y社にその旨を通知した。

Y社は、①X1らがAの株式を相続したとしても、株主名簿の名簿書換を経ていない以上その取得をY社に対抗できず異議催告公告を請求し得ない、②異議催告手続を了しても、Xらは除権判決を得なければY社に対して、新株券の交付を請求できないこと等を主張した。

第1審は、X1の請求を容認しX2~X10の訴えについては、X1のみが権利行使者であるとして訴えを却下した。

原審は、第1審判決を引用して、Y社の控訴を棄却した。

Y社は上告し、①異議催告公告を請求することができるのは株主名簿上の株主であり、相続後、相当期間が経過しており除権判決を得るなどして名義書換をすることもできたのだからそのように解しても衡平を失しない、②異議催告公告請求において旧株券を提出できないことにつき何ら合理的理由を開示せず、これを証明する必要もないとすることは法の安定性を害すると主張した。

<判決理由>上告棄却。

「商法350条3項によって準用される同法378条(改正前商法では216条)規定は、株式会社がその設立後に定款を変更して株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定めを設けた場合において、株式譲渡制限の文言の記載されていない旧株券を回収してその文言を記載した新株券を発行するにあたり、旧株券を提出することができない株主の保護と会社の旧株券回収・新株券発行事務の迅速な処理をはかるために、公示催告手続に比して簡便な異議催告手続を設けたものである。

このような法の趣旨にかんがみると、会社に対して異議催告公告を請求することができる者は必ずしも株主名簿上の株主であることを要せず、株券提出期間の経過前に株式を譲り受けた株主もまたこれを請求することができ、その経過前の譲受により株式が名義書換を経ていない数人の共有に属することとなった場合には、株主の権利を行使すべき者の指定が株券提出期間経過後にされたときであっても、その者においてこれを請求することができるものと解するのが、相当である。」

「異議催告公告を請求する者において旧株券をその所在が不明であるとの事由により会社に提出することができない場合においては、異議催告手続の制度の性質上・・・株券が所在不明となった理由を具体的事実に基づいて確定する必要はない。」

スポンサードリンク