取締役の競業避止義務・・・

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取締役の競業避止義務・・・

東京地判昭和56年3月26日(損害賠償請求事件)
判時1015号27頁、判夕441号73頁

<事実の概要>

X株式会社は、関東一円を販売区域とするパン類の製造販売を営むトップメーカーである。

YはX社の設立以来その代表取締役の地位にあり、ワンマン社長として同社を取り仕切ってきた。

昭和38年9月、千葉県でパン類の製造販売を営んでいたA株式会社の株式のうち、25万8000株をYが、3万2000株をX社が取得し、翌年残りの株式をYの妻が取得した。

この際、YによるA社株式取得代金は全てX社からの借入によるものであった。

A社は、X社の千葉工場と商号を変更した上で、後にX社に吸収合併されたが、その間、Yは、X社傘下の販売店をA社に移管させる等の行為を行っていた。

他方、X社は、全国規模でのパン類の製造販売の展開を志し、関西地域をその目標地域の1つとして調査を行ってきた。

その中で、X社のメインバンクであるB銀行が、Yに対し大阪の土地の売却話を持ち込んできたため、社内や大株主の反対にもかかわらず、Yはこれを取得して関西に進出することを決意した。

大阪の土地はX社が購入したが、Yは、この土地を使い、自ら全額資本金を調達して大阪工場C株式会社を昭和41年に設立した。

C社の発行済株式総数9万株のうち、Yが5万株、Yが全株式を保有するD社が3万9200株を保有しており、YがC社の代表取締役であった。

D社は、X社の機械設備、X社からの借入及びX社の連帯保証の下での金融機関からの借入をもとにパン類の製造販売を展開するなど、実態においても外見においてもX社の完全子会社的存在だった。

YのX社等の代表取締役退任後の昭和51年5月、X社の監査役が同社を代表し、競業避止義務違反等を理由に損害賠償又はYらの保有していたA社株式について割り当てられたX社株式及びC社株式の引渡(又はそれに代わる填補賠償)を求めて提訴。

<判決理由>請求認容。

「Yの右行為は、第三者であるA社のために、X社の営業の部類に属する取引をしてきたことに外ならず、このことは、X社に対し、前記認定の技術指導料を支払ったことにより左右されるものではないから、X社に対する競業避止義務に違反する」。

「X社がかねてより関西市場への進出を企図し、昭和41年当時既に具体的にその市場調査等を進めていたことは、先に認定したとおりである。」

C社「の運営に当っては、X社の資金、信用、ブランド、技術、従業員が投入されてきたのであって、C社が初期の成功を収めることができたのは、YがX社の調査結果を含む有形無形の資源を利用しえたからに外ならず、仮に若し、C社が行き詰った場合を想定したとしても、X社が負担すべきリスクは、C社がX社の一部門であった場合と比べ、全く変わらず、反面、C社の経営に成功すれば、Y、その妻子及びD社は、・・・X社の負担により、その資産を増やすことになる状況にあったと認められる。

したがって、X社が・・・吹田の土地を取得した時点において、YがC社をX社の一部門として建設することを決意さえすれば、X社は直ちに関西に進出しえたのあるのみならず、前記状況の下では、他にC社をX社の資本関係の強い別会社として発足させるべき特段の事情のない限り、これをX社の一部門として建設すべきであり、それ以外の途はなかったというべきであるから、その時点におけるX社の関西地区における進出計画の具体性、市場及びその侵害による損害の範囲を検討するに当っては、X社がC社を自己の一部門として建設、運営することを決意してたのと同視して差し支えないと解すべきである。」

「然るに、YがX社の代表取締役でありながら、C社・・・の代表取締役として、前記認定の期間これらの会社を経営したことは、第三者であるこれらの会社のために、X社の営業の部類に属する取引をしてきたことに外ならず、・・・X社に対する競業避止義務に違反する」。

「X社とYとの関係は、あたかもX社の取締役会がある会社の株式を買収し、又は完全子会社を設立することを決定し、これを実行するため、Yに対し、必要な資金を交付して、その事務を委任したところ、Yが株式を買収し、又は会社を設立しながら、その株式をX社のものとはせず、自己やその家族等のものとしたような場合には、X社はYに対し、委任の本旨に従い、その株式の移転を求めることができるのと同様に、本件の場合においても、X社は、その株式がYにおいてX社に移転することがなお不可能とはみられない限り、委任又はその類推により、Yに対し、その移転を求め、既にこれらの株式につき取得した配当金はこれを返還し、またその移転義務の履行が将来不可能になる場合には、その填補賠償を求めることができると解するのが相当であり、この方法こそが競業避止義務、善管注意義務及び忠実義務違反を理由とする損害賠償請求よりもはるかに直接的でかつ根本的な救済を得る結果となるものというべきである。」

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取締役の利益相反取引と株主全員の合意・・・

最判昭和49年9月26日(会社解散請求上告事件)
民集28巻6号1306頁、判時760号93頁、判夕315号224頁

<事実の概要>

A株式会社は、B・X・Cの兄弟及びD・Eの計5名の共同事業として運営されていた同族株式会社であるが、簿外資産をもってF株式会社ら6社を設立した。

F社は、株式・資産の全てをG株式会社に譲渡し、その譲渡代金によってY株式会社が設立された。

Y社は、A社の100%子会社であり、不動産の保有によるA社の簿外資産の保全増殖を目的としたBら5名の共同事業の一部であったが、昭和36年、国税庁の査察を契機にBら5名の間でA社を中心とする共同事業関係を解消する旨の協定が成立した。

そして、Y社については、発行済株式総数1万8000株のうち、A社の取締役であったXにA社からY社株式7000株が配分される事となった(もっとも、Y社においては、これまで株券が発行されたことはない)。

ところが、協定成立後に、資産分配の遅延・Y社の名義上の取締役によるY社資産の勝手な名義変更・遠隔地の不動産の処理・新たな簿外預金の発見等による紛争がBら5名の間で発生した。

最終的に昭和39年8月、BがXに対して金員の支払を請求しない代わりに、XがY社に関する全ての権利を放棄する旨の合意がX・B間でなされた。

ところが、Xは、自らがY社の7000株を保有する株主であることを前提に、Y社の営業が完全に停頓していること、及び、株主X・B間の対立によってY社の業務執行が著しい難局に逢着していること等を理由にY社の解散判決を求める訴えを提起した。

原審判決は、A社は、Bら5名の共同事業であって実質が民法上の組合だから、前商法265条も204条2項・206条も適用されず、結局Y社株式7000株はA→X→Bと移転していることになってXはY社の株主ではなく、XにはY社の解散を求める原告適格がないとして訴えを却下した。

Xは上告した。

<判決理由>上告棄却。

「法律上会社はすべて法人とされているところ、その法人格が全くの形骸に過ぎない場合、またはそれが法律の適用を回避するため濫用される場合のように、法人格を認めることがその本来の目的に照らして許されるべきでないときには法人格を否認することができることは、当裁判所判例(昭和・・・44年2月27日第一小法廷判決民集23巻2号511頁)とするところであるが、右法理の適用は慎重にされるべきであって、原審認定の会社の設立の経緯、株式、資産の所有関係、経営の実体等前記事実によって直ちに前記各会社の法人格を否認し、これを民法上の組合であるとした原審の判断は、にわかに首肯することはできない。」

「商法265条が取締役と会社との取引につき取締役会の承認を要する旨を定めている趣旨は、取締役がその地位を利用して会社と取引をし、自己又は第三者の利益をはかり、会社ひいては株主に不測の損害を被らせることを防止することにあると解されるところ、原審の適法に確定したところによると、AからXへの株式の譲渡は、Aの実質上の株主の全員であるXら前記5名の合意によってなされたものというのであるから、このように株主全員の合意がある以上、別に取締役会の承認を要しないことは、上述のように会社の利益保護を目的とする商法265条の立法趣旨に照らし当然であって、右譲渡の効力を否定することは許されないものといわなければならない。」

「また、Y社の株券は未発行であるから、前記各株式の譲渡は商法204条2項にいう株券発行前の譲渡にあたるが、原審認定の事実関係のもとにおいては、同社は不当に株券の発行を遅滞しているものと認められるから、株券発行前であることを理由に株式譲渡の効力を否定することは許されないものというべきである(最高裁昭和・・・47年11月8日大法廷判決民集26巻9号1489頁参照)。」

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利益相反取引 手形行為・・・

最大判昭和46年10月13日(約束手形金請求事件)
民集25巻7号900頁、判時646号3頁、判夕270号113頁

<事実の概要>

Y株式会社は、約束手形2通を振り出し、両者ともにBから白地式裏書がなされ、Xが保有している。

これらの手形は、Y社がBに金融を得させるために振り出した融通手形が何度も書き換えられた最終の手形である(以前の手形はY社において手形振出の権限を与えられていた専務取締役CからB、BからXに交付されていた)。

手形①は、金額・満期・振出日・受取人欄が白地のまま、Cによって作成され、Bに交付されたものだが、振出日以外については白地補充権を与えられたBが補充し、振出日についてはXが補充した。

手形②は、受取人欄のみを白地にしてCが作成した上でXに交付され、Xが白地補充権のあるBに受取人欄を補充させた上で、白地式裏書をさせたものである。

Xは、この2通の手形の取得時において、BがY社の取締役であることを知っていたが、本件手形及び以前の手形に関してBに対する交付に関するY社の取締役会の承認がなかったことについては知らなかった。

Xが、本件手形を満期に呈示して支払を求めたが拒絶されたので、手形金の支払を求めて提訴した。

原審判決は、前商法265条は手形の作成行為とは区別された交付行為についてのみ適用され、交付行為については手形法16条2項の適用があるとした上で、手形①のBへの交付は無効だがXは善意無過失であるし、手形②についてはY社からXへ直接交付されているので、手形の記載ではなく現実の交付を基準として考えれば商法265条の適用はないとして、請求を認容した。

Y社は上告した。

<判決理由>上告棄却。

「およそ、約束手形の振出は、単に売買、消費貸借等の実質的取引の決済手段としてのみ行われるものではなく、簡易かつ有効な信用授受の手段としても行われ、また、約束手形の振出人は、その手形の振出により、原因関係におけるとは別個の新たな債務を負担し、しかも、その債務は、挙証責任の加重、抗弁の切断、不渡処分の危険等を伴うことにより、原因関係上の債務よりもいっそう厳格な支払義務であるから、会社がその取締役に宛てて約束手形を振出す行為は、原則として、商法265条にいわゆる取引に当り、会社はこれにつき取締役会の承認を受けることを要するものと解するのが相当である。」

「手形が本来不特定多数人の間を転々流通する性質を有するものであることに鑑みれば、取引の安全の見地より、善意の第三者を保護する必要があるから、会社がその取締役に宛てて約束手形を振り出した場合においては、会社は、当該取締役に対しては、取締役会の承認を受けなかったことを理由として、その手形の振出の無効を主張することができるが、いったんその手形が第三者に裏書譲渡されたときは、その第三者に対しては、その手形の振出につき取締役会の承認を受けなかったことのほか、当該手形は会社からその取締役に宛てて振り出されたものであり、かつ、その振出につき取締役会の承認がなかったことについて右の第三者が悪意であったことを主張し、立証するのでなければ、その振出の無効を主張して手形上の責任を免れないものと解するのを相当とする(この判旨に反する大審院明治42・・・年12月2日民事総合部判決、民録15号926頁は、これを採らない。)。

したがって、この場合には、手形法16条2項の適用はなく、その解釈適用につき所論のような論議をなす余地はないのである。」

「手形①については、XはBから右手形を取得するに際しその手形の振出につき取締役会の承認がなかったことを知らなかったことは、原審の確定するところであるから、Y社がXに対しその振出の無効を主張して手形上の責任を免れ得ないことは、右の説示に照らして明らかである。

また、手形②自体の振出については、会社は取締役会の承認を受けることを要しないが、その書替前の約束手形の振出につきこれを必要とすることはさきに述べたとおりであって、もしこの手形につき、Y社が、取締役会の承認を受けなかったことを理由として、Xに対しその振出の無効を主張しうるとするならば、ひいてこれを抗弁として、手形②についてもその支払を拒むことができることとなるべきところ、原審の確定するところによると、XはBから書替前の手形を取得するに際しその振出につき取締役会の承認がなかったことを知らなかったというのであるから、Y社は書替前の手形についてXに対し手形上の義務を負担していたものであり、したがって、手形②についても、その支払を拒む理由は存しない」。

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利益相反取引 間接取引・・・

最大判昭和43年12月25日(売掛代金請求事件)
民集22巻13号3511頁、判時541号6頁、判夕229号93頁

<事実の概要>

Y株式会社は、Aとその夫Bが営んでいた電気製品の小売販売業を、Bが代表取締役となって法人成りさせたものである。

XはY社設立時点でB個人に対する売掛代金債権265万円余りを有していたが、Y社は、設立の際にA・B他2名であり、設立以来取締役会が招集されたことはないが、設立後の第1期決算報告において本件債務を会社債務の一部として計上していた。

Y社が売掛代金債権を支払わないため、Xがその支払を求めて提訴した。

原審判決は、Y社がその代表取締役Bの債務を引き受けることは、両者の利害が対立しYに損害を与える恐れある取引だから取締役会の承認を要するところそれがなされていないから、本件債務引受は無効であるとして、Y社設立後に新たに負担した買掛代金債務55万円余りについてのみ請求を認容した。

Xは上告した。

<判決理由>破棄自判(上記売掛代金債権265万円余りの請求が認容された)。

「商法265条は、取締役個人と株式会社との利害相反する場合において、取締役個人の利益を図り、会社に不利益な行為が濫りに行われることを防止しようとする法意に外ならないのであるから、同条にいわゆる取引中には、取締役と会社との間に直接成立すべき利益相反の行為のみならず、取締役個人の債務につき、その取締役が会社を代表して、債権者に対し債務引受をなすが如き、取締役個人に利益にして、会社に不利益を及ぼす行為も、取締役の自己のためにする取引として、これに包含されるものと解するべきである(当裁判所第三小法廷判決昭和・・・39年3月24日裁判集72号619頁の趣旨は、右の限度で、変更されたものというべきである。なお、同小法廷判決昭和・・・33年10月21日裁判集34号303頁は本件に適切でない。)。

そして、取締役が右規定に違反して、取締役会の承認を受けることなく、右の如き行為をなしたときは、本来、その行為は無効と解すべきである。

このことは、同条は、取締役会の承認を受けた場合においては、民法108条の規定を適用しない旨規定している反対解釈として、その承認を受けないでした行為は、民法108条違反の場合と同様に、一種の無権代理人の行為として無効となることを予定しているものと解すべきであるからである。

取締役と会社との間に直接成立すべき利益相反する取引にあっては、会社は、当該取締役に対して、取締役会の承認を受けなかったことを理由として、その行為の無効を主張しうることは、前述のとおり当然であるが、会社以外の第三者と取締役が会社を代表して自己のためにした取引については、取引の安全の見地より、善意の第三者を保護する必要があるから、会社は、その取引について取締役会の承認を受けなかったことのほか、相手方である第三者が悪意(その相手方である第三者に主張し得るものと解するのが相当である。」

本件債務引受「に関しY社の取締役会の承認の決議の不存在についてXが悪意であったことについては、主張・立証がなく、したがって、Y社は、Xに対し、その無効を主張し得ないのである。

それゆえ、本件債務引受債務の履行を求めているXの本訴請求は、原判決が適法に確定した事実のもとでは、すべて正当であり、これを認容すべきである。」

大隅裁判官補足意見。

多数意見は「取引は直接取締役と会社との間に行われたが、後に第三者がその取引の目的物を譲り受けた場合のように、第三者がその取引につき利害関係を有するにいたった場合においても、その第三者が同様の保護を受くべきかどうかについては、何ら言及するところがない。

しかしながら、取引の安全の見地から、善意の第三者を保護する必要があることにおいては、本件における債務引受契約の相手方である第三者と、取締役と会社の間の取引の目的物を譲り受けた第三者のごときとで異なるところがないことはいうまでもないのみならず、実際上はこの後の場合にいっそうその保護の必要が大きいといえる。」

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