取締役の監視義務と第三者に対する責任・・・

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取締役の監視義務と第三者に対する責任・・・

最判昭和48年5月22日(損害賠償事件)
民集27巻5号655頁、判時707号92頁、判夕297号218頁

<事実の概要>

電気製品修理業を営むA株式会社では取締役会も開催されず、業務は代表取締役Bが独断専行し、会計帳簿も決算書類もほとんど作成されていなかった。

Bは他の取締役であるY1及びY2に相談することなく自動車修理部門まで事業を拡張することを計画し、その資金を得るためにA社を代表してCに対し何通もの融通手形を振り出したが、Cに騙され手形金支払義務のみが残る結果となり、A社は倒産した。

Bが振り出したこれらの手形の一部の権利者であるX1~X3が、手形金の支払を受けられず損害を被ったとしてY1及びY2に対して損害賠償を求めて控訴。

原審は「もしY1らにおいて、取締役会の開催を要求し積極的に会社業務の遂行に意を用いたならば、・・・Bの手形乱発行為を阻止することができたものと思われるからY1らも商法266条の3第1項・・・の責任を免れることはできない」としてXの請求を認めた。

Y1及びY2が、本件手形の振り出しは取締役が予見し、その発生を阻止しうる防止措置がとれるようなものではなく、Y1及びY2の任務懈怠との間の相当因果関係を欠くと主張して上告。

<判決理由>上告棄却。

「株式会社の取締役会は会社の業務執行につき監査する地位にあるから、取締役会を構成する取締役は、会社に対し、取締役会に上程された事柄についてだけ監視するにとどまらず、代表取締役の業務執行一般につき、これを監視し、必要があれば、取締役会を自ら招集しあるいは招集することを求め、取締役会を通じて業務執行が適正に行なわれるようにする職務を有するものと解すべきである。

そして、原審の確定した事実関係のもとにおいて、Y1らに右職務を行なうにつき重大な過失があり、そのためX1らに本件損害を生じたとする原審の認定・判断は正当として肯認することができる。」

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選任決議を欠く登記簿上の取締役と第三者に対する責任・・・

最判昭和47年6月15日(損害賠償事件)
民集26巻5号984頁、判時673号7頁、判夕279号199頁

<事実の概要>

A株式会社はYの娘婿Bの発案に基づき設立された会社で、Y他6名が発起人として名を連ねていたが、実質上の設立事務は専らBが行い、設立後もBが営業部長としてその経営全般を取り仕切っていた。

YはA社の設立に際してもBから名目上代表取締役に就任するように頼まれてこれを承諾した。

Yが取締役並びに代表取締役に就任した旨の登記がなされ、さらにその後も重任した旨の登記がなされたが、Yの取締役並びに代表取締役への就任はA社の設立総会、株主総会ないし取締役会の決議に基づいたものではなく、全く名目上のもので、YはA社の業務には一切関与していなかった。

A社が倒産し、A社に対してコマーシャルフィルム作成代金債権等を有していたXがYに対して前商法266条の3第1項に基づく損害賠償を求めて提訴。

Yは、前商法266条の3にいう「取締役」には、選任決議を経ておらず、従って法律上取締役の地位にいない者は含まれないと主張して争った。

原審はこのようなYの主張を認めながらも、Yは就任登記に承諾を与えている以上、前商法14条により自己が取締役ないし代表取締役ではないことを善意の第三者に対抗できないとし、Bの放漫経営を拱手傍観していた点に重大な過失があったとしてXの請求を認めた。

Yが登記義務者ではないYについて前商法14条を適用したことは法律解釈の誤りである等と主張して上告。

<判決理由>上告棄却。

「商法14条は、「故意又は過失に因り不実の事項を登記したる者は其の事項の不実なることを以て善意の第三者に対抗することを得ず」と規定するところ、同条にいう、「不実の事項を登記したる者」とは、当該登記を申請した商人(登記申請者)をさすものと解すべきことは論旨のいうとおりであるが、その不実の登記事項が株式会社の取締役への就任であり、かつ、その就任の登記につき取締役とされた本人が承諾を与えたのであれば、同人もまた不実の登記の出現に加功したものというべく、したがって、同人に対する関係においても、当該事項の登記を申請した商人に対する関係におけると同様、善意の第三者を保護する必要があるから、同条の規定を類推適用して、取締役として就任の登記をされた当該本人も、同人に故意または過失があるかぎり、当該登記事項の不実なことをもって善意の第三者に対抗することができないものと解するのを相当とする。

YがA社の取締役に就任した旨の登記につき、同人が承諾を与えたことは、前示のとおりであり、同人が右登記事項の不実であることを少なくとも過失によって知らなかったことは原審の適法に確定するところであるから、同人は、右登記事項の不実であること、換言すれば同人がA社の取締役でないことをもって善意の第三者であるXに対抗することはできず、その結果として、原審の確定した事実関係のもとにおいては、YはXに対し同法266条の3にいう取締役としての責任を免れ得ないものというべきである。

・・・Yの同条に定める責任を肯定した原判決の結論は正当として首肯することができる。」

本判決には、前商法266条の3第1項によってはいわゆる間接損害賠償を請求することはできないとする旨の一裁判官の反対意見がある。

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辞任登記未了の辞任取締役と第三者に対する責任・・・

最判昭和62年4月16日(損害賠償請求事件)
判時1248号127頁、判夕646号104頁、金判778号3頁

<事実の概要>

鋲螺(びょうら)類の製造販売業を営むA株式会社は代表取締役Bとその家族が役員を務める同族会社であった。

Y1~Y3はA社の取引先であるC株式会社の取締役であったが、C社がA社に対して資金援助を行なったのを契機にA社の取締役に就任し、その旨の登記がなされた。

その後A社が倒産状態となり第1回目の債権者集会が開かれたが、そこでY1らはBに対してA社取締役を辞任する旨の意思表示をなし、以後A社の取締役としての行為を一切行わなかった。

しかし、BはY1らの辞任登記手続をしないまま放置していた(Y1らの辞任登記は本件訴訟提起後になされた)。

債権者集会ではA社を清算せずに事業を継続されることとなった。

X株式会社はメッキ材料販売業を営む会社であるが、債権者集会でA社の事業継続が決まった後にA社と直接取引を行なうようになった。

X社はA社との取引開始に当り、A社が倒産会社であって債権者集会の管理の下に事業継続中であることを認識していた。

その後A社は資金繰りが悪化して再び倒産し、X社はA社に対する売掛金を回収することができなくなった。

そこで、X社がY1らに対し、未払代金債権相当額を損害として前商法266条の3に基づく損害賠償を求めて提訴。

X社はY1らが既に辞任していて取締役でないとしても、前商法14条の類推適用により商法266条の3に基づく責任を免れないと主張した。

第1審は、辞任取締役が「自己の辞任登記がなされておらず不実の登記が残存していることを知りながら過失で不実登記のままこれを放置していたときに限り、その登記につき登記義務者と同様の責任を負担させ、その者は右の登記が不実である旨を善意の第三者に対抗し得ないと解すべき」とし、Y1らはA社の取引先であるC社の取締役としてA社の現状についても経済的関心を持っていたといえるから、「取締役辞任の登記が既になされたか否かは極めて容易に確かめ得たものというべきであって、それを確かめることなく就任登記が残存していることを知らなかったとしても、それは重大な過失に基づくものといわざるを得」ないとした。

そして、過失相殺の上でX社の請求を一部認容した。

X社・Y1らがともに控訴。

第2審は、(「辞任」登記の遅延は単なる遅延であって、これによって不実の登記がなされた訳ではないから、この場合は商法第14条には該当せず、従ってY1らが同条によって・・・辞任した旨の主張をすることができないとはいえない。

・・・Y1らの辞任登記の遅延については、むしろ商法第12条の適用の有無が問題であるが、もともと同条は登記当事者である商人・・・とその取引の相手・・・との関係を律することを目的とする規定であることは明白で、かつ商業登記の申請当事者は商人自体・・・であって登記事項に関係する個々の人間・・・は登記申請の権利も義務もなく、右法条により登記の遅延によって不利益を帰せしめられるいわれはない」等として、第1審判決中Y1ら敗訴の部分を取消し、取消しにかかる部分のX社の請求を棄却し、X社の控訴を棄却した。

X社が、原判決には前商法14条や12条の解釈に誤りがあるとして上告。

<判決理由>上告棄却。

「株式会社の取締役を辞任した者は、辞任したにもかかわらずなお積極的に取締役として対外的又は内部的な行為をあえてした場合を除いては、辞任登記が未了であることによりその者が取締役であると信じて当該株式会社と取引した第三者に対しても、商法・・・266条の3第1項前段(前商法266条の3第1項)に基づく損害賠償責任を負わないものというべきである・・・が、右の取締役を辞任した者が、登記申請権者である当該株式会社の代表者に対し、辞任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情が存在する場合には、右の取締役を辞任した者は、同法14条の類推適用により、善意の第三者に対して当該株式会社の取締役でないことをもって対抗することができない結果、同法266条の3第1項前段(前商法266条の3第1項)にいう取締役として所定の責任を免れることはできないものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、Y1、Y2、Y3が、A社の代表取締役であるBに対し、取締役を辞任する旨の意思表示をした際ないしその前後に、辞任登記の申請をしないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情の存在については、原審においてなんら主張立証のないところである。

そうすると、Y1らはX社に対し商法266条の3第1項前段(前商法266条の3第1項)に基づく損害賠償責任を負うものではないとした原審の判断は、結論において是認することができる。」

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計算書類の虚偽記載と取締役の第三者に対する責任・・・

名古屋高判昭和58年7月1日(損害賠償請求事件)
判時1096号134頁、判夕510号193頁、金判688号41頁

<事実の概要>

A株式会社は大阪証券取引所第2部上場の中堅商社であったが、業績が悪化して慢性の欠損状態に陥ったため、虚偽の計算書類を作成し、経営状態の悪化を粉飾決算によって隠蔽しながら経営の建て直しを図っていた。

手形割引を業とするXは同業者のBからA社振出にかかる約束手形の割引依頼を受けた。

XはA社に対して振出の有無を確認したほか、企業情報誌「会社四季報」(上場会社について会社別のその概要、株価動向、役員名、業績、配当率等の情報を提供する季刊誌であり、その記事のうち業績欄の記載は各社が公表する計算書類に基づき作成される。)によってA社の営業成績等を調査した上で割引依頼に応じることとし、割引金を支払って本件手形を取得した。

しかし、A社はついに資金繰りが行き詰って倒産し、Xは本件手形を支払場所に呈示したが資金不足を理由に支払を拒絶された。

そこで、Xが、A社の代表取締役Y1、取締役Y2~Y9に対し、昭和56年改正前商法266条の3第1項後段(前商法266条の3第2項)に基づく損害賠償を求めて提訴。

原審敗訴を受け、Xが控訴。

<判決理由>控訴棄却。

「Xが第1次的に帰責の根拠としている昭和56年法律第74号による改正前の商法266条の3第1項後段の規定の趣旨とするところは、その挙示する各書類の記載に虚偽がある場合において、これを信頼して会社と直接の取引関係に入った者あるいは会社と直接の取引関係はなくとも当該会社の株式又は社債を公開の流通市場において取得した者(その大多数を占める一般投資家としては前記各書類を信頼する以外に投資活動に伴う危険から自己を防衛する手段を有しない。)等を保護することにあり、これを確実なものにするため取締役に対し個人責任として故意・過失の存在を要しない極めて重い責任を負担させていると解されるのであり、従って会社以外の者との間の取引において生じた必要から会社の資力、業績等を判定する資料として右各書類を閲読したにとどまる第三者一般について右規定による保護を及ぼすことは、時として右規定による責任を無過失責任とした本来の趣旨を超えて取締役に過大の犠牲を強いることになり、相当でないといわなければならない。

このことは、同条2項(前商法266条の3第3項)により計算書類の承認決議に賛成したことのみを理由に責任を問われる取締役の場合において特に顕著である。

本件についてみるに、Xは手形割引業者として同業者であるBとの間に本件手形の割引契約と締結し、対価を支払って本件手形を取得するに当り、A社の業績を調査しても本件手形に経済的価値を判定するため会社四季報を閲読したにすぎないものであることは・・・明らかであるところ、右によればX社は会社と直接取引関係に入った者でないことはもちろん、有価証券を取得した者とはいっても公開市場における株式、社債の取得者とは著しく趣を異にするというべきであるから、その被ったとする損害は前記規定による保護の範囲外にあると解するのが相当である。

従って、・・・計算書類虚偽記載の事実が存在することを帰責原因とするXの主張は、この点において失当として排斥を免れない。」

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