内縁関係で勝手に婚姻届・・・
内縁関係の夫婦の妻が、勝手に婚姻届を出してしまった場合、どうなる可能性があるのでしょうか。
法律上、結婚が成立するためには、結婚をする意思と、婚姻届という所定の届出があることが要件となっていますので、結婚式をあげるとか、結納のやりとりとは、結婚の成立とは全く関係がありません。
結婚の意思があり、夫婦としての実態を備えているような夫婦を、内縁の夫婦といい、法律上正式な結婚をした夫婦と区別しています。
婚姻届を提出すれば、正式の夫婦となりますが、この届は夫の意思とは無関係になされていることが問題になります。
届けというのは、必要な箇所を記入して届け出ればよいわけではなく、その届に記載された人の意思によってなされることが必要で、本人に結婚の意思がないのに、届出のみがされているような場合には、無効になるとされています。
また、無断で届け出るような場合は、文書偽造、公正証書等原本不実記載罪などの刑法上の責任を問われる場合もあります。
もし、夫が納得すれば、法律上は無効な行為の追認といって、これを有効なものとして扱うことが認められます。
夫がこの届出を認めないときは、結婚は無効になりますが、夫に対して婚約の不履行、内縁の不当破棄などの請求をすることができる可能性はあります。
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内縁の夫の死亡後の妻の権利・・・
民法の規定では、婚姻届を出さない限りは、内縁関係であっても、夫あるいは妻としての権利義務関係は生じないのが原則です。
ただし、判例ではこのような男女の関係を「婚姻に準ずる関係」として保護しています。
労災保険関係などでは、法律的にも内縁の妻に保険金受領権を認められています。
また、法律婚で認められる氏の変更、子の嫡出性、相続以外の結婚の効果は、全て内縁にも認められます。
内縁関係にも、民法760条婚姻費用分担の規定は準用されますので、婚姻により生じる費用は、夫婦で分担しなければなりません。
(婚姻費用の分担)
民法第760条 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
夫が交通事故などで死亡したときには、婚姻届を出している妻と同様に内縁の妻にも加害者に対する損害賠償請求権がありますし、労災保険による遺族補償給付の受給権もあります。
しかし、内縁の妻には、死亡した夫の遺産についての相続権はないので、夫の遺産を相続することはできないのです。
相続するためには、婚姻届を出してもらえばよいのですが、これに同意してもらえなければ、夫に遺贈を内容とする遺言書を作成してもらうのがよいのですが、これもなく夫が死亡したときには、夫に相続人がいない場合に限って、特別縁故者として家庭裁判所に相続財産の全部又は一部の分与を求める申立ができます。
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内縁関係の夫の死後の賃借権・・・
内縁関係の配偶者である内縁の夫又は妻には、それぞれの相手に対する相続権はないとされています。
内縁の夫が家屋を賃借している場合、その家屋賃借権は相続財産に含まれ、相続の対象になります。
しかし、内縁の妻には相続権がありませんから、家屋賃借権は内縁の夫の法定相続人が相続することになります。
しかし、相続人から内縁の妻に対して家屋の明渡請求があっても、これに応じる必要はないとされます。
判例では、相続人と内縁の妻との建物使用状況及び必要度などの事情を考慮した上、相続人の請求は権利の濫用として許されるべきではないとしております。
また、家屋の家主から、内縁の妻には相続権がないとの理由で明け渡しを求めてきた場合にも、内縁の妻は、相続人の賃借権を援用することによって、明渡請求を拒否することができます。
ただ、借地借家法では、内縁の者に相続人がいないときに限り、その内縁配偶者は原則として賃借人の権利義務を承継すると定めています。
(居住用建物の賃貸借の承継)
借地借家法第36条 居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。ただし、相続人なしに死亡したことを知った後一月以内に建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
2 前項本文の場合においては、建物の賃貸借関係に基づき生じた債権又は債務は、同項の規定により建物の賃借人の権利義務を承継した者に帰属する。
内縁の夫が借地権をもっていたような場合には、家屋の所有権とその借地権が相続財産となり、相続の対象となりますが、借家の場合と異なり、家屋の所有権が相続人に移るために、内縁の妻の立場としては相続人と話し合って家屋を譲り受けるか、使用する契約をすることが必要になります。
しかし、相続人が承諾せず、相続人から内縁の妻に対して家屋明渡請求がなされたとしても、借家の場合と同様に権利の濫用として許されないことが推測できますので、家屋に継続して居住できると考えられます。
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