婚姻の破綻と夫婦間の契約取消権・・・

婚姻の破綻と夫婦間の契約取消権・・・

最判昭和42・2・2民集21巻1号88頁

<事実>

X女とY男とは、婚姻後10年ほどからいさかいが続くようになり、Xは実家に帰ったが、子のないXの老後の慰安と生活保証にあてる目的で、Yは田畑のほか山林を2筆をXに贈与することとして、「夫婦相互協約覚書」を作成したことによりXはYのもとに戻った。

ところがYは、山林の一部についてはXに所有権移転登記をしたものの、一部は他に譲渡し、その旨の登記手続を了してしまったので、XがYに対して残りの原野と山林について、前記各贈与契約に基づいて、所有権移転登記手続をなすべきことを求めて本訴を提起した。

これに対してYが離婚反訴を提起し、1審口頭弁論期日に、右贈与契約を取り消す旨の意思表示をした。

2審は、夫婦関係が破綻に瀕している時期になされた取消しの意思表示は、民法754条の法意に照らし無効であるとして、1審判決を取消し、Xの請求を認容した。

Yは上告した。

<争点>民法754条による夫婦間の契約取消しの意思表示は、夫婦間に離婚訴訟が係属し、夫婦関係が破綻に瀕している場合でも有効にすることができるか。

<判旨>上告棄却

「民法754条にいう「婚姻中」とは単に形式的に婚姻が継続していることではなく、形式的にも、実質的にもそれが継続していることをいうものと解すべきであるから、婚姻が実質的に破綻している場合には、それが形式的に継続しているとしても、同条の規定により、夫婦間の契約を取消すことは許されないものと解するのが相当である」。

スポンサードリンク

不貞と第三者に対する損害賠償請求・・・

最判昭和54・3・30民集33巻2号303頁

<事実>

Yはホステスとしてアルバイトサロンに勤めていたが、昭和32年頃Aと知り合い、Aに妻子があることを知りながら情交関係をもつに至り、昭和35年11月にはAとの間の子訴外Bを出産、Aは昭和39年4月に認知した。

昭和39年2月になってYとAとの関係およびBの出生が妻Xの知るところとなり、Aは、同年6月Xらと別居、昭和42年からはYの居宅で同棲している。

そこで、妻Xは、Aとの不貞行為を理由としてYに対して本件慰謝料請求訴訟を提起した。

原審は、「AとYとは、Aの誘いかけから自然の愛情によって情交関係が生じたものであり、Yが子供を生んだのは母親として当然のことであって、・・・別居はAがXに責められ愛情を全く喪失したため敢行されたもの・・・であって、Yに直接責任があるとすることはできない」として、Xの請求を棄却した。

Xは上告した。

<争点>第三者が配偶者の一方と肉体関係をもった場合に、その第三者は、他方の配偶者に対し不法行為責任を負うかどうか。

<判旨>破棄差戻し

「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意または過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫または妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被った精神上の苦痛を慰藉すべき義務があるというべきである」。

スポンサードリンク

居住用建物についての配偶者の占有権・・・

東京地判平成6・8・23判時1538号195頁

<事実>

XとYは、共有名義で本件建物を購入した。

Yは、平成3年7月頃無断で別居したが、Xの留守中にYが本件建物内に立ち入って家財等を持ち出すので、Xはその後実家に帰り、本件建物をほとんど使用していなかった。

Yは、平成5年3月、Xの留守中に本件建物の鍵を付け替えた。

そこで、Xは、YがXの占有を排除して侵害したとして、占有権に基づいて明け渡しを求めた。

<争点>Xは自己の占有権に基づいてYに対して建物引渡を求めることができるか。

<判旨>請求棄却

「Xの本件建物に対する事実的支配が、占有訴権により保護されるには、XY間における本件建物の占有使用に関する攪乱が一応収まり、本件建物の占有に関する社会的な秩序が確立したと認められる事実関係の存することが必要である」が、YがXに無断で本件建物から出て別居し、その後Xが本件建物を占有していたことをもって、直ちにYの占有が消滅したとはいえないこと、Xの事実的支配状態はYの立ち入りを排除する態様と方法で取得されたこと、X・Yは本件建物の占有権限の有無を争っていることなどに照らし、「本件建物の占有に関する秩序の攪乱が一応収まるとか消滅する等して、Xが社会的な秩序として保護されるべき確立した事実的支配を有するに至ったものと認めることはできない」。

スポンサードリンク

民法762条1項の「自己の名で得た財産」の意義・・・

最判昭和36・9・6民集15巻8号2047頁

<事実>

Xは、昭和32年分確定申告の際に、X名義で取得した総所得のうち、給与所得と事業所得は妻の家庭における協力によって得られた所得であり、夫婦に平分して帰属すべきものとして、右2所得を均分した額に、自己固有の配当所得を加算した金額を総所得額として確定申告した(妻も同じ方法で申告)。

ところが所轄税務署長は、妻の申告分をXの申告分に加算した総額をXの所得金額とする更正処分をした。

XはY(国)に審査請求をしたが、Yが棄却したので、Xは本訴を提起して審査決定の取り消しを求めた。

1・2審は請求棄却した。
<争点>所得税法が前提とする民法762条1項は、婚姻中の夫の所得が夫婦の協力によって得られた夫婦の所得であるという事実を無視するものであり、憲法24条に違反するか。

<判旨>上告棄却

「この規定(民法762条1項)は夫と妻の双方に平等に適用されるものであるばかりでなく、所論のいうように夫婦は一心同体であり一の協力体であって、配偶者の一方の財産取得に対しては他方が常に協力寄与するものであるとしても、民法には、別に財産分与請求権、相続権ないし扶養請求権等の権利が規定されており、右夫婦間相互の協力、寄与に対しては、これらの権利を行使することにより、結局において夫婦間に実質上の不平等が生じないよう立法上の配慮がなされているということができる。

しからば、民法762条1項の規定は、前記のような憲法24条の法意に照らし、憲法の右条項に違反するものということができない」。

スポンサードリンク