「相続させる」旨の遺言・・・

「相続させる」旨の遺言・・・

判例上「特定の財産を特定の相続人に相続させる」旨の遺言の解釈について、次のように分かれています。

①遺贈と解する判例

②遺産分割の方法の指定と解する判例

②の立場では、遺言により「相続させる」旨の指定を受けた共同相続人が所有権を取得するには、これまで、共同相続人全員による遺産分割協議の成立を要すると解されていましたが、右指定を受けた相続人は優先的に当該遺産を取得する権利を有し、その優先権を主張したときは、相続時に遡って当該遺産を取得すると解する判例が出て、これが上告審で争われ、その結果、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人に単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきであり、当該遺言において相続による承継を当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに当該相続人に相続により承継されるとの判断が示されました。

特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、特段の事情のない限り、何らの行為を要せず、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継され、「相続させる」趣旨の遺言による権利の移転は、法定相続分又は指定相続分の相続の場合と本質的に異なるところはなく、そして法定相続分又は指定相続分の相続による権利の取得については、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができるのであるから、本件においても被上告人は、本件「相続させる」趣旨の遺言によって取得した不動産又は共有持分を、登記なくして上告人らに対抗することができるとして、被上告人らに対する第三者異議事件の請求を認めて上告を棄却した事例があります。

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「相続させる」旨の遺言の特段の事情・・・

特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、特段の事情のない限り、何らの行為を要せず、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されます。

遺言が「相続人A所有建物が存在する本件土地を短冊状に4つに分け、西側から年長順にそれぞれ4人の子に相続させる。」というものである場合、A所有建物の敷地使用権の処置については何ら意思表示がないこと、A所有建物の建築については遺言者の承諾があったのであるから、本件土地を4つに分割するとA所有建物の処置について共同相続人間に紛争の生ずることは遺言当時高度の蓋然性をもって予測できる状態にあったこと、自分の子らの間に紛争を生ぜしめるような遺言の効果をあえて欲っして遺言したものと解することは不合理というべきであるとして、本件遺言は、遺言の効力発生時に直ちに本件土地につき遺産分割がされたのと同様の遺産の承継関係を生じさせるものではなく、本件土地を4人の子が平等に分けて欲しいという遺言者の意思を十分汲みいれた遺産分割の協議又は審判をまって遺産の承継関係を生じさせる趣旨のものであると解するのが相当であるとした事例があります。

この判決は、控訴審で取消されています。

控訴審の判断は、本件遺言は「本件土地を4分割し、控訴人甲にA土地を、控訴人乙にB土地をそれぞれ相続させる」というものであり、その記載上遺贈と解するべき特段の事情も認められないから、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解するのが相当であり、この場合、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせるなど、「特段の事情」があるとは認められず、遺言の解釈として、遺産分割の協議、審判を経るまではA土地、B土地の所有権が控訴人らに承継されないと解する余地はないというものでした。

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「相続させる」旨の遺言の関連事例・・・

特定の相続人に特定の財産を相続させる遺言がある場合、遺産確認請求の対象財産が、被相続人の死亡当時、同人の財産であったとしても、本件遺言で指定された者に当然に承継され、遺産共有の状態にならず、遺産分割の余地もないから、右財産について、遺産分割の前提として相続財産に属することの確認を求める利益はないとして、この請求を却下した事例があります。

被相続人の遺言で取得分はないとされた相続人を除くその余りの相続人全員が、遺言の解釈及び遺産全部をその解釈に基づいて遺産分割手続き中で分割することに合意している場合に、既に遺言中で取得者が定められている物件についても遺産分割の対象とすることができ、また、相続人の一部の者がした遺留分減殺請求によって取り戻された遺産を含めて分割することに合意している場合には、その合意に沿って審判することが許されるとした事例があります。

法定相続分の額を下回る価額の特定物の遺産を「相続させる」旨の遺言は、相続分の指定を伴うものではなく、当該特定の遺産を取得した相続人は、法定相続分の額に満つるまで他の遺産を取得することができると解した事例があります。

「相続させる」旨の遺言による特定の遺産の承継についても、民法903条1項の類推適用により、特別受益として持ち戻し計算の対象となるとされた事例があります。

(特別受益者の相続分)
民法第903条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前3条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。

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遺産の額に比べて取得額が小額・・・

遺産価額が時価数百万円であるのに、成立した遺産分割協議の結果、取得したのは3万円に過ぎないとして、原告は、要素の錯誤、詐欺、公序良俗違反を理由として相続回復を請求しましたが、協議は有効であるとされた事例があります。

要素の錯誤の主張に対しては、原告は被告との対談から被相続人の遺産に相続分があり、それ故3万円を代償として遺産の単独相続に同意を求められることをさとったに違いないから相続に関する主要の法律効果を理解していたといえること、遺産の分割は共有物の分割と異なり、等価交換が支配する利益社会とは平面を異にする親族間の共同社会において情義を旨として処理されるべき事項であるところから民法の定める均等相続の原則から程遠いものがあるとはいえ、これを違法とすべきでないことは勿論、その間の不均衡をとらえて直ちに不公正と断ずべきでないこと、原告は、父死亡後幼少の頃から母の再婚先にいて長年音信不通、所在不明となっていたこと、亡き父には原告の相続分から控除されるべき特別受益があることなどを考えると3万円の額は不当に甚だしく小額といえないこと、原告は祖父死亡による遺産の相続分があることを予期しなかったので、被告の提示した分割の条件に喜んで同意し、遺産の内容、価額に関心がなかったことが明らかであること、そうするとその当時においては原告に錯誤があったといえないのみならず、たとえ遺産の内容、価額について原告の認識に事実と不一致があったとしても本件意思表示を決定する動機となったとは認められないから、右の錯誤はその意思表示の要素に関するものではないとされました。

詐欺の主張に対しては、被告が原告に本件遺産としては古い家屋と農地があるだけと申し向けた発言は、殊更遺産を秘匿し僅少なように装い原告を騙すためのものと認めるには十分ではなく、本件のような方法で遺産の分割をするには必ずしも遺産の種類、数量等の具体的内容やその価格を明白にしなければ協議できないものではないし、また、原告も被告の説明を盲信して本件協議に応じたとの証拠もないこと、かえって原告はその気になりさえすれば同席する母に相談するなり、即答を保留し遺産の内容を十分調査するなりして、その態度を決定することも可能であったはずであるのに、遺産の内容、価額に関心を持たず本件協議に応じたものと認められるとして、協議が被告の詐欺によるものとする証拠はなんらないとしました。

公序良俗違反の点も、原告の無経験、無思慮、軽率、窮迫に乗じ、被告が不当の利を博そうとしたとは到底認められないとして、その主張を排斥しました。

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