老人性痴呆者の遺言の有効・・・

老人性痴呆者の遺言の有効・・・

一審原告らの「遺言者は判断能力を失い、精神能力が著しく衰退し、老人性痴呆、精神の幼児化が進み、本件自筆証書遺言書作成当時、その意味、効果を理解する意思能力を失っていた」との主張に対して、遺言者の主治医であった**病院****医長は、当時遺言者は、「遺言作成の精神的能力を有していたと思われる」、その理由として、「言語状態もしっかりしていること、全身状態もよくなってきたため、4月1日御退院と話したのが3月29日であり、その後退院準備のため外泊を許可した」と証言していること、3月30日に帰宅した際、遺言者は、自己名義の預金通帳を見て、毎月1回8万円払い戻されているはずであるのに、3月に限り25日と29日の2回それぞれ8万円が払い戻されているのを発見し、一審被告にその理由をただした結果、間違って払い戻されたことが判明したこと等に照らすと、遺言者の精神的能力は当時さほど低下していなかったと考えられること、また本件書面は遺言者が自ら書いたものであり、その内容は簡明なもので、その意味、効果を理解するためにそれほど高度の意思能力を必要でないことからすれば、その主張は採用できないとした事例があります。

遺言者の最初の痴呆症状の出現は昭和63年3月頃からで、同年7月頃には医師にも痴呆症状の出現が確認されているが、同年7月頃は痴呆症状の程度はそれほどひどくないもので、意識は清明で受け答えもはっきりしており、遺言者が本件遺言時に事理を弁識する能力に欠けるところがなかったとして昭和63年7月7日付け公正証書遺言を有効とした事例があります。

遺言者は高齢のうえ、パーキンソン症候群にかかって言語障害、幻覚、妄想の症状もみられ、通常人に比べその精神能力が相当程度低下していたことは認められるが、認定事実によれば、遺言の作成に要求される意思能力まで欠いていたとは認められないとして、公正証書遺言を有効とした事例があります。

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老人痴呆者の遺言の無効・・・

遺言者は昭和62年3月5日脳梗塞で入院し、同年8月6日退院、同10月15日再入院、同年11月28日退院以後自宅療養、平成元年には遺言者に対する禁治産宣言申立がされ、平成2年8月30日84歳で死亡したが、昭和63年3月22日及び1989年8月3日付自筆証書遺言は、作成当時、その内容と効果を理解した上でこれを書く能力がなかったとしてその無効を確認した事例があります。

遺言者は、本件公正証書遺言作成当時、中等度以上の痴呆状態にあったと認められ、精神医学上の精神能力の点からも、本件遺言作成経過及びその当時の遺言者の言動等からも、本件遺言の内容を理解し、本件遺言をすることから生じる結果を弁識判断する能力はなかったと認めるのが相当であり、遺言者の意思能力の欠如により本件遺言は無効であるとした事例があります。

遺言者は、生前専門医の診断を受けていなかったが、本件遺言当時は正常な判断力・理解力・表現力を欠き、老人特有の中等度ないし高度の日常会話は一応可能であっても、表面的な受け答えの域を出ないものであり、**園長が本件遺言書作成の翌日遺言者に対して昨日の出来事を尋ねても、本件遺言をしたことを思い出せない状況であったこと、同園入園に際し、**係長の出発を促しても反応がなく、うつろ状態であったこと、遺言者は控訴人とこれまでほとんど深い付き合いがなかったので、本件不動産35筆を含む全財産を同人に包括遺贈する動機に乏しいし、全財産を遺贈し、遺言者姉弟の扶養看護から葬儀まで任せることは重大な行為であるのに姉には何らの相談をしていないのみならず、控訴人から話が出てわずか5日の間に慌しく改印届をしてまで本件遺言書を作成する差し迫った事情は全くなかったこと等を総合して考えると、本件遺言当時、遺言行為の重大な結果を弁識するに足りるだけの精神能力を有しておらず、意思能力を有しておらず、意思能力を欠いていたものと認めるが相当であるとして、特別養護老人ホームに入所していた遺言者がした公正証書遺言を無効とした事例があります。

遺言者は、遺言時、老人性痴呆の改善がなかったこと、遺言の重要部分の趣旨も明確であるとはいえないことなどから、遺言者は遺言を行なう意思能力を欠いていたとして、76歳の女性の自筆証書遺言を無効とした事例があります。

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制限能力者の遺言能力 ・・・

遺言は、遺言者の死亡後に効力を生ずるので、制限能力者の利益を保護する制度をそのまま遺言に適用する必要はなく、民法は、未成年者、成年後見人、被保佐人及び被補助人の行為の能力の制限に関する第5条、第13条、第17条は遺言に適用されないものとし、制限能力者も意思能力のある限り単独で遺言をすることができるものとしました。

民法第962条 第5条、第9条、第13条及び第17条の規定は、遺言については、適用しない。

(未成年者の法律行為)
民法第5条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3 第1項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。

(成年被後見人の法律行為)
民法第9条 成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。

(保佐人の同意を要する行為等)
民法第13条 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第9条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
1.元本を領収し、又は利用すること。
2.借財又は保証をすること。
3.不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
4.訴訟行為をすること。
5.贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(平成15年法律第138号)第2条第1項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
6.相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
7.贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
8.新築、改築、増築又は大修繕をすること。
9.第602条に定める期間を超える賃貸借をすること。
2 家庭裁判所は、第11条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により、被保佐人が前項各号に掲げる行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、第9条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
3 保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。
4 保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。

(補助人の同意を要する旨の審判等)
民法第17条 家庭裁判所は、第15条第1項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求により、被補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、その審判によりその同意を得なければならないものとすることができる行為は、第13条第1項に規定する行為の一部に限る。
2 本人以外の者の請求により前項の審判をするには、本人の同意がなければならない。
3 補助人の同意を得なければならない行為について、補助人が被補助人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被補助人の請求により、補助人の同意に代わる許可を与えることができる。
4 補助人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。

未成年者は、満15歳に達し、意思能力がある限り、法定代理人の同意なしに、単独で有効な遺言をすることができ、その同意ないことを理由にして、その遺言を取消すことはできません。

成年被後見人は、事理を弁識する能力を一時回復しているときは、成年後見人の同意なしに単独で遺言をすることができ、その遺言を取消すことはできません。

ただし、成年被後見人が遺言をするには、事理を弁識する能力を一時回復したことを証明する医師2人以上の立会いを必要とします。

(成年被後見人の遺言)
民法第973条 成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師2人以上の立会いがなければならない。
2 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に附記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。

被保佐人は、保佐人の同意なしに、単独で有効な遺言をすることができます。

被補助人は、単独で遺言をすることができます。

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自筆証書遺言の自書・・・

自筆証書遺言が、全文の自書を要求しているのは、遺言者の真意を判定するためと、遺言書の加除変更の危険を防止するためです。

自書とは自らが書くことです、

両手がない者は、口、腕、足で書いても構いません。

遺言者が自筆証書遺言に図面等を用いた場合であっても、図面等の上に自筆の添え書きや指示文言等を付言し、あるいは自筆書面との一体性を明らかにする方法を講じることにより、自筆性はなお保たれ得るものと解されるとして、第三者作成の耕地図を利用して作成された遺言書が自筆証書遺言としての方式を欠くことの遺産分割の審判をした原審判を取消して差し戻した事例があります。

自筆証書遺言が有効に成立するためには、遺言者が遺言当時自書能力を有していたことを要し、「自書」は、遺言者が自筆で書くことを意味するから、遺言者が文字を知り、かつ、これを筆記する能力を有することを前提とするものであり、自書能力とはこの意味における能力をいい、したがって、全く目の見えない者であっても、文字を知り、かつ、自筆で書くことが出来る場合には、仮に筆記について他人の補助を要するときでも自書能力を有するというべきであり、逆に、目の見える者であっても、文字を知らない場合には、自書能力を有しないというべきであり、そうとすれば、本来読み書きのできた者が、病気、事故その他の原因により視力を失い又は手が震えるなどのために、筆記について他人の補助を要することになったとしても、特段の事情がない限り、右の意味における自書能力は失われないとされています。

自書かどうかが争われた場合は、筆跡鑑定を基本とし、遺言者の自書能力、遺言の内容、その他の事情などの諸般の情況証拠を考慮して判断されます。

判例には、第一審の鑑定人と第二審の鑑定人との間の鑑定が相反したが、諸般の情況証拠から判断したもの、第一次的には鑑定を重視し、第二次的に諸般の情況証拠によるべきだとして鑑定だけで判断したもの、筆跡鑑定の結果、遺言者が自書した有効な自筆証書遺言と認めた事例、数個の筆跡鑑定により遺言書の真否を検討し、私的鑑定の結果を採用して遺言書が遺言者の自筆によるものであると認め、原判決を取消した事例、私的鑑定と裁判所の鑑定により遺言書の真否を検討し、裁判所の鑑定結果を採用して遺言書を偽造と判断した事例などがあります。

遺言書の筆跡であることを裏付ける証拠は当事者である被告の供述ないし陳述記載のみであること、筆跡鑑定の結果、その他の事情から全文遺言者が作成したものであることを確定することは難しいとして自筆証書による遺言の無効を確認した事例があります。

筆跡鑑定は、科学的検証を経てないという性質上、証明力に限界があり、特に異なる者の筆になり旨を積極的にいう鑑定の証明力については、疑問なことが多く、他の証拠に優越する証拠価値が一般的にあるのでないことに留意して、事案の総合的な分析検討をゆるがせにすることはできないとして、遺言者の亡き夫、遺言者と控訴人との生活状態からすれば、本件遺言がされる動機があること、その内容にも合理性が認められること、証人甲の本件遺言作成当時の手帳にこれとはほぼ同文の記載があることを総合すれば、本件遺言は遺言者の自筆によるものと認めるのを相当として、主として筆跡鑑定によって遺言書を無効として一審判決の認定をくつがえして、遺言書を有効とした事例があります。

認定事実によると、被告が本件第二遺言書を発見したという経緯は、極めて不自然、不合理な被告の言動や事象を伴っており、このことは、被告自身が右遺言書を偽造したとの事実を無理なく推認させるとして、遺言無効及び被告は、被相続人の相続財産につき相続権を有しない旨を確認した事例があります。

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