遺産分割の方法の指定の委託の諾否・・・

遺産分割の方法の指定の委託の諾否・・・

遺産分割の方法を委託された第三者は、遺言に拘束されないから、委託に応ずるか、これを辞退するか随意ですが、その意思決定は遅滞なくされるべきです。

(遺言執行者の指定)
民法第1006条 遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
2 遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。
3 遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。

意思決定がされないまま日が経過する場合には、相続人は、相当の期間を定めて、その期間内に被相続人の委託に応ずるか否か回答すべきことを第三者に対して催告することができます。

(無権代理の相手方の催告権)
民法第114条 前条の場合において、相手方は、本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、本人がその期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなす。

催告書は、配達証明付き内容証明郵便によって郵送しておくと、催告書の内容及びその配達年月日を明確にすることができます。

第三者が委託を拒絶した場合、死亡その他の事由により委託を実行することが不可能となった場合には、第三者に対する委託は効力を失い、共同相続人は、民法907条に定める方法によって遺産の分割をすることになります。

(遺産の分割の協議又は審判等)
民法第907条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
3 前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

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遺産分割を禁止する遺言・・・

被相続人は、遺言で、相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産分割を禁止することができます。

(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
民法第908条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。

被相続人が遺産の分割を禁ずる場合、格別の事由の存することを要しません。

家庭裁判所が遺産分割を禁ずる場合には特別の事由のあることを要しますが、その具体的事情としては、相続人又は遺産の状態が即時の分割に適しない場合、相続人又は遺産の範囲が未確定な場合などがこれに当たるをとされています。

(遺産の分割の協議又は審判等)
民法第907条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
3 前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

被相続人甲は債務者乙に対する貸金請求の訴訟中、全財産をABCDに包括遺贈し、遺産分割を4年間禁止する遺言を残して死亡しました。

禁止期間中に包括受遺者Aは遺産取得分について訴えを取り下げ、その後期間は経過している前記訴訟につき、裁判所は、遺産分割禁止の制限はなくなったから、甲の有した本件金銭債権は包括受遺者ABCDの4名に4分の1ずつ分属するにいたったとものというべきであり、Aは同人の取得に帰した分の訴えを取り下げ、被告はこれに同意したことは裁判所に顕著であるとして、被告は原告BCDに対して債権額の各4分の1ずつ支払うべきことを命じた事例があります。

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遺産分割を禁止する調停・・・

遺産分割の申立があった場合、特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産に全部又は一部について、分割を禁止することができます。

(遺産の分割の協議又は審判等)
民法第907条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
3 前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

「特別の事由があるとき」とは、遺産の全部又は一部を当分の間分割しない方が共同相続人らの全体にとって利益になると考えられる特別な事情をいいます。

遺産の範囲について相続人間で争いがあり、その一部財産について民事訴訟が係属しているというのみの場合、遺産分割の前提となる相続財産の範囲についての民事訴訟が現に提起されている事実が認められない場合、右特別な事由があるとは言いがたいとして、分割禁止を命じた原審判を取消した事例があります。

主要な遺産である不動産全部につき遺産性が争われ、訴訟手続による確定を待つことに当事者間の合意がある場合には、分割禁止の措置を採ることが相当であるとして、遺産全部につき3年未満の期間を定めて分割禁止の審判をした事例があります。

分割禁止の期間は5年を超えることができません。

(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
民法第908条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。

遺産分割の禁止については共同相続人間に協議が調わないとき、遺産分割禁止の申立ができるかについて、規定上明らかではありませんが遺産分割に関する処分にはこの申立も含まれるとされます。

家庭裁判所は、事情の変更があると認めるときは、相続人の申立によって、いつでも、遺産分割の禁止の審判を取消し、又は変更することができます。

不動産の分割禁止を第三者に対抗するには、その旨の登記を要します。

共有者の間で、本件土地をたがいに双方が所有している奥の駐車場への自動車の通路として使用する合意は、共有物分割禁止の契約と同様の効果を生ずる共有物に関する債権的合意であり、この合意は、不動産登記法所定の登記をして初めて共有者の特定承継人に対抗でき、しかも、その登記をしても、その不分割の契約は5年を超えることはできないというべきであり、また、分割請求が信義則に反し許されないとする特別の事情も認められないとして、共有持分譲受人の共有物分割請求を認めた事例があります。

分割禁止の登記は、まず、相続登記をしたのち、相続人全員による共有物不分割の特約を原因とする所有権の変更登記申請に基づいて行います。

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遺産分割を禁止した遺言の取消審判・・・

家庭裁判所は、遺産分割の申立がされた場合、一定期間遺産の分割を禁ずる審判をすることができます。

(遺産の分割の協議又は審判等)
民法第907条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
3 前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

その後、事情の変更があると認めるときは、相続人の申立によって、いつでも、遺産分割を禁じた審判を取消又は変更することができます。

遺言によって、遺産の分割が禁止されている場合も、同様の理由によって、その遺言を取消し又は変更することができると解されます。

遺産分割を禁じた遺言の取消し・変更の申立は、家事雑事件です。

①申立権者

相続人です。

相続人全員を当事者とすべきです。

②管轄

相続開始地の家庭裁判所です。

③添付書類

申立人・相続人・被相続人の各戸籍謄本

遺言書の写し

④審判手続

遺産分割を禁止した遺言を取消し・変更できるのは、次のような場合です。

①被相続人が分割禁止の事由を明示しているときは、その事由が消滅している場合

②被相続人が分割禁止の事由を明示していないときは、遺言書作成時の事情に変更し、現状では、被相続人でも分割を禁止しなかったであろうことが客観的に推測できる場合

遺産分割を禁じた遺言の取消し・変更の裁判は、家事雑事件であるから家事調停に親しまず、申立の当否は、必ず、審判の形式によりされなければなりません。

申立を認容し又はこれを却下する審判に対して、相続人又は利害関係人は、即時抗告をすることができます。

遺産分割を禁じた遺言を取消す審判が確定したときは、相続人は、遺産分割をすることができます。

遺産分割を禁じた遺言を変更する審判が確定したときは、相続人は、その形成効に拘束されます。

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