死亡危急者遺言の口授の判例・・・
家屋敷、家財、預金などをやるという遺言者の妻甲の依頼を受けた弁護士が遺言者の意を甲から聞いて遺言書の草案をあらかじめ作成し、病院の医師3名を立会い証人とし、立会い証人Aが、遺言者に「遺言をなさるそうですね」と言うと遺言者は「はい」と答え、その後、Aが「読み上げますからそのとおりであるかどうか聞いていって下さい」と言って、前記草案に基づいて1項目ずつゆっくりと読み上げ、遺言者はその都度うなずきながら「はい」と返事し、最後にAが「これで遺言書を作りますけれどいいですね」と確かめると、遺言書は「よくわかりました。よろしくお願いします」と述べている場合、甲の現在の生活を保持させようとする点で一貫した、しかも比較的簡単な内容で、当時の遺言者の病状に照らしてみても遺言者が口述をもって遺言の要件としての口授があったと認めました。
入院先の担当医師は、遺言日の午後3時ごろ、「遺言者は、病名肺がん、骨転移、上記病名のため現在の病状は極めて危険な状態であるが、**年**月**日現在、思考・判断等については異常は認められないものと思われる」旨の診断書を作成したこと、遺言者は、同日午後3時30分ころから午後4時10分ころまでの間に、病室において、証人3名立会いのもとで、弁護士である証人Aに本件遺言書にある内容を立会い者らに聞こえる程度の声でしゃべり、これが証人Aらに十分聞取ることができたこと、証人Aは遺言者の発語した内容を紙に書き取り、最後に遺言者と立会い者らにその内容を読み聞かせ、遺言者にその内容で遺言することを確かめ、立会い者にも書き取りの正確なことを確認した後、自らがその末尾に署名捺印するとともにその余りの立会い者らにも同様署名捺印を得たことが認められ、これらを要するに遺言者はその当時、事の善悪を判断するに足る精神能力を保持していたものであり、遺言能力を有した上で自らの意思により、本件遺言内容を口授したと認められるとした事例があります。
(死亡の危急に迫った者の遺言)
民法第976条 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2 ロがきけない者が前項の規定によって遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3 第1項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4 前3項の規定によってした遺言は、遺言の日から20日以内に、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
スポンサードリンク
死亡危急者遺言の口授の判例・・・
死亡危急者遺言書作成当時、遺言の趣旨を口授する能力のない者のなした口授は、遺言者の真意に出たものとは認められませんから、その遺言は無効です。
遺言当時の遺言者の病状は極めて重篤であり、遺言の趣旨を口授する能力を有していたか否か甚だしく疑問であるなどとして遺言の確認請求を棄却した例があります。
遺言者には遺言の趣旨を口授する能力がなかったとして死亡危急時遺言を無効とした事例があります。
死亡危急時遺言については遺言者の精神的、肉体的能力の低下がある程度認められるので、遺言者の口授能力は緩やかに解されています。
死亡危急時遺言の遺言者が老衰のため補聴器を使用して応答した場合でも、未だ遺言をなし得る精神状態にあれば真意によったものと解されています。
遺言の確認審判に対する即時抗告事件において、遺言の際における遺言者の遺言の趣旨を理解する能力及びその趣旨を口授する能力の存否につき、さらに審理を尽くす必要があるとして遺言の確認をした原審判を取消して差し戻した事例があります。
死亡危急時遺言の際、遺言者は止血のため脱脂綿を口中に含んでいて発生が困難であったが、
①遺言内容が極めて単純であったこと、
②遺言内容を記載した証人が以前から遺言者の遺言したい内容を承知していてその作成方法の助言などもしていたこと、
③遺言者は意識及び遺言したい意欲や意思能力を備えていたこと、
④証人が遺言書作成の前後に記載内容を遺言者に読み聞かせた上、遺言者が遺言することを含めてその内容を理解したことを手指やうなずくなどの方法で明確にしていることから、口授がない不適法な遺言として申立を却下するのは相当ではないとして遺言の確認をした事例があります。
(死亡の危急に迫った者の遺言)
民法第976条 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2 ロがきけない者が前項の規定によって遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3 第1項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4 前3項の規定によってした遺言は、遺言の日から20日以内に、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
スポンサードリンク
死亡危急者遺言の筆記、読み聞かせ、閲覧 ・・・
民法976条1項の遺言者及び他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の主旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言又は他の証人に伝えて、読み聞かせに代えることができます。
(死亡の危急に迫った者の遺言)
民法第976条 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2 ロがきけない者が前項の規定によって遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3 第1項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4 前3項の規定によってした遺言は、遺言の日から20日以内に、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
口授方式による危急時遺言でも、遺言者の口授がそのまま遺言にはなりません。
遺言者の口授を受けた証人がこれを筆記しなければなりません。
筆記は、遺言者の意思に忠実でなければなりませんが、口授そのままでなくても、その意味が口授の趣旨に合致していればよいとされます・
読み聞かせは、筆記の内容が正確であることを遺言者及び他の証人に知らせるためのものですから、筆記した遺言の全文にわたらなければなりません。
筆記証人が遺言書を清書作成した後、遺言者や他の証人に対して読み聞かせをしていないという理由で遺言の無効が主張されることがあります。
全く同内容の草案に基づいて証人Aがこれを逐一読み上げる形で遺言者の意思を他の証人立会いの下に確認捺印している経緯に照らせば、草案の内容、遺言者の口授した内容、Aが作成した遺言書の内容はいずれも全く一致していると認められ、本件遺言は実質的には証人による筆記と読み聞かせとが前後したにすぎないということができ、読み聞かせの要件は充足しているとした事例があります。
スポンサードリンク
死亡危急者遺言の承認、署名押印・・・
死亡危急者遺言の各証人は筆記が正確である場合に、これを承認します。
しかし、承認したことを遺言書に記載する必要はありません。
承認するのは、公正証書遺言と異なり証人だけです。
遺言者に要求されないのは、死亡の危急が迫っているので、筆記が正確が否かの判断ができない場合が多いとされているからです。
署名押印するのは証人だけです。
遺言者に要求されないのは、死亡の危急が迫っているので、筆記が正確が否かの判断ができない場合が多いとされているからです。
(遺言関係者の署名及び押印)
民法第980条 第977条及び第978条の場合には、遺言者、筆者、立会人及び証人は、各自遺言書に署名し、印を押さなければならない。
証人の署名押印のない遺言は無効です。
証人は自ら署名することを要し、代署又は記名は許されないとされています。
押印は拇印でもよいとされています。
死亡危急時遺言についても、自筆証書遺言や公正証書遺言と同様に、他人に代わりに押印させてもよいとされています。
証人の署名押印は、遺言者の現在しない場所でされてもよいとされています。
判例は、証人の署名押印は遺言者の生存中になされなければならないとされます。
(死亡の危急に迫った者の遺言)
民法第976条 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2 ロがきけない者が前項の規定によって遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3 第1項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4 前3項の規定によってした遺言は、遺言の日から20日以内に、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
スポンサードリンク