死亡危急者遺言の確認審判手続・・・
死亡危急者遺言の確認審判の方法には別段の定めがありませんから、家庭裁判所は、職権で、遺言が遺言者の真意に出たものであるかどうかについて、事実を調査し又は必要があると認める証拠調べをします。
申立書及び遺言書を閲覧し、これを審査しただけでは、その遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得ることができないのが通常です。
そこで、家庭裁判所は、遺言者の遺言等の病状、意識その他の精神状態、平素の性行などを中心に、立会い証人、医師、看護婦、同居者、その他の親族などを審問又は証人尋問することが必要になります。
遺言の確認は、遺言者の口授の内容が遺言書記載の趣旨と一致するか否かの判断をしただけでは足りず、真実遺言者がこのような遺言をなす意思を有したとの心証を得られない場合には、確認の請求を許容することはできないとして、事実審理の結果、遺言者が事実上の夫婦として同居中の者に対して多額の債務を負担することを前提としてなした本件遺言はすべて遺言者の真意に出たものと認定することはできないとして、遺言確認申立を却下した原審判は結局相当であるとしました。
遺言の内容及び方式に違反があり、そのため遺言が無効となる場合にも、なお確認をしなければならないかの問題について、判例は、当初は遺言が方式に適した場合だけに確認の審判の対象となるとされました。
その後、表面上適式であれば、確認できるとし、さらに、方式違反の疑いのある遺言についても確認の対象となり得るとされました。
しかし、方式違反が一見して明瞭で、その無効が明白な遺言の場合は、確認の対象にすべきではないとしています。
(死亡の危急に迫った者の遺言)
民法第976条 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2 ロがきけない者が前項の規定によって遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3 第1項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4 前3項の規定によってした遺言は、遺言の日から20日以内に、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
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死亡危急者遺言の確認と却下・・・
家庭裁判所が一切の事情を審理した結果、遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得たならば、確認の審判がされます。
(死亡の危急に迫った者の遺言)
民法第976条 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2 ロがきけない者が前項の規定によって遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3 第1項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4 前3項の規定によってした遺言は、遺言の日から20日以内に、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
確認の申立について一切の事情を審理した結果、遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証が得られなければ、申立は却下されます。
一個の危急時遺言の中に、数個の各独立した遺言事項が含まれている場合には、各遺言事項ごとにその適否を判断し、その一部について確認し、その余りは却下できるとされています。
遺言確認の審判に対して利害関係人から、申立却下の審判に対しては遺言に立ち会った証人又は利害関係人から、それぞれ即時抗告をすることができます。
この即時抗告は、申立人に対し審判が告知された日から2週間以内にしなければなりません。
遺言の確認は、遺言が遺言者の真意に出たものあるかどうかを確定する1種の裁判です。
これに対して、遺言書の検認は、遺言書の方式その他の状態を確定し、その偽造、変造を防止するとともに保存を確実にすることを目的とするもので、一種の検証手続であり証拠保全です。
ですので、両者は性質を異にするものですから、確認を受けた遺言でも検認を経なければ執行することができません。
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船舶遭難者遺言の要件 ・・・
船舶が遭難した場合において、その船舶中にあって死亡の危急に迫った者は、証人2人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができます。
口がきけない者が、この方式の遺言をする場合には、遺言者は、通訳人の通訳により、これをしなければなりません。
「口がきけない者」の中には、言語機能障害のため発語不能である場合だけでなく、聴覚障害や老齢のために発語が不明瞭で、発語の相手方にとって聴取が困難な場合も含まれるとされています。
「通訳人の通訳」には、手話通訳以外に、読話、触読、指点字等の方法による通訳も含まれます。
この方式による遺言は、証人がその趣旨を筆記して、これに署名して、印を押し、かつ、証人の1人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければその効力を生じません。
家庭裁判所は、遺言が真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができません。
船舶遭難者遺言は、船舶が遭難した場合に、その船舶中に在って死亡の危急が迫った者について認められる方式です。
この方式による遺言は船舶の遭難の場合だけでなく、航空機遭難の場合にも類推適用できるとされています。
(船舶遭難者の遺言)
民法第979条 船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人2人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。
2 口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、通訳人の通訳によりこれをしなければならない。
3 前2項の規定に従ってした遺言は、証人が、その趣旨を筆記して、これに署名し、印を押し、かつ、証人の1人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
4 第976条第5項の規定は、前項の場合について準用する。
船舶遭難者遺言の作成要件は、次の4つです。
①船舶遭難の場合で、船舶中に在る者が死亡の危急に迫っていること。
②証人2人以上の立会いがあること。
③遺言者が口頭で遺言をすること。
④証人が遺言の趣旨を筆記して署名押印すること。
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船舶遭難者遺言の口頭遺言・・・
船舶遭難者遺言は、船舶の遭難と死亡の危急とが重なっている場合にすることができます。
船舶遭難とは、船舶自体が滅失、又は重大な毀損の危険があることをいいます。
遭難の場所については制限はないとされています。
船舶遭難の場合には、証人を得ることの困難が予想されるので証人2人以上でよいとされています。
船舶遭難者遺言では、証人は、口頭による遺言の内容を記憶しておいて、船舶遭難の状態が去ってからその趣旨を筆記します。
証人は、証書に署名押印することを要します。
証人の中に署名押印することができない者があるときは、他の証人がその事由を付記しなければなりません。
署名押印は遺言者の生存中でなくても、また、その場で行なわれなくてもよいとされます。
推定相続人及び受遺者並びにそれらの配偶者及び直系血族は、遺言の証人又は立会人となることができません。
日付の記載は、要件ではありません。
(船舶遭難者の遺言)
民法第979条 船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人2人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。
2 口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、通訳人の通訳によりこれをしなければならない。
3 前2項の規定に従ってした遺言は、証人が、その趣旨を筆記して、これに署名し、印を押し、かつ、証人の1人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
4 第976条第5項の規定は、前項の場合について準用する。
(署名又は押印が不能の場合)
民法第981条 第977条から第979条までの場合において、署名又は印を押すことのできない者があるときは、立会人又は証人は、その事由を付記しなければならない。
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