時効の判例 時効利益の放棄・・・

時効の判例 時効利益の放棄・・・

Aさんは高利の金融業を営んでいるB金融から、昭和53年3月24日に950万円を金利月1.5%、同年5月23日に150万円金利月2%を借り、その両方の連帯保証人にCさんがなりました。

その際に、特約として、それぞれの貸金の弁済期(前者は昭和53年4月24日、後者は昭和56年5月23日)までに返し終えるよう努力し、出来ない場合は残金の支払日を猶予し、5年後に支払を終えるよう努力し、なお支払えない場合は、さらにその後5年間に限り支払を猶予する旨の約定が交わされました。

ところがAさんは数回は支払ったのですが、以後滞納しました。

そこで昭和53年6月頃、B金融は暴力団の構成員を使って暴力的な取立てを始めました。

恐れをなしたAさんは、翌年の初めに行方をくらましました。

そこで、B金融は、連帯保証人であるCさんを相手に、貸金残金1035万円と利息、遅延損害金を求める訴訟を平成8年になって東京地裁に起こしました。

Cさんは「弁済期から10年を経過しており、消滅時効は完成している。弁済期を猶予する特約は、民法146条の時効利益の事前放棄にあたり無効だ」として争いました。

支払期限の猶予或いは延長の特約について、1審の東京地裁は、弁済の目標期限を定めたに過ぎないので、民法146条或いはその趣旨によって無効であると認めることはできないとして、Cさんの消滅時効の援用を排斥し、1035万円と利息、遅延損害金の支払を命じました。

2審の東京高裁では「債権の取立ての実態等を考慮すれば、150万円についての昭和56年5月23日、950万についての昭和53年4月24日は、いずれも支払努力の期限との文言ではあるが、その実質は各貸金の法律上の弁済期と解するのが相当である。

また、本件の特約は、貸金取立ての実態からしても、弁済期を延長するというよりも、債務者から残元金とともに膨れ上がらせた高利を取得するため、消滅時効の起算点を繰り上げ、消滅時効の完成を意図的に遅らせるという効果のみを目的とする特約であり、実質的にみると、Cさんに時効利益の放棄をさせ、或いは消滅時効の期間を延長するものにほかならないから、民法146条の規定の趣旨に反し、無効といわなければならない」として、Cさんの消滅時効の主張を認めました。

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時効の判例 時効完成後の承認・・・

Aさんの勤務していた会社の取引先が倒産をしました。

営業していたAさんが担当していた取引先が倒産したため、売掛金が回収できなくなりました。

上司は、自腹を切って穴埋めをしたほうが将来のためには良いと言い、B金融を始めとする5社から160万円を借り入れ、会社に入金しました。

B金融からは、平成2年2月に30万円、同年9月に10万円を借りました。

その後、Aさんはこの借入金の返済に追われるよになり、職場や自宅への激しいと取立てのために心身ともに疲れ果て、3ヶ月ほど入院しました。

退院後、Aさんは勤務先から退職を余儀なくされ、また妻とも離婚、子供とも別れざると得ませんでした。

Aさんは心機一転してやり直すために転居し、職場を変えましたが、そこにも金融業者が押しかけてきて、辞めざるを得なくなり、その後は運送会社のアルバイトをしていました。

平成10年1月14日、B金融はAさんの職場に電話をかけてきて、遅延損害金の請求は今日までの分でいい、他の業者へのAさんの住所は教えないから、毎月10万円程度を支払ってくれと要求してきました。

貸金業者の取立てに恐怖を感じていたAさんは、平成10年2月9日に7万円を支払いました。

Aさんは自分の借入金が時効にかかっているなど知る由もありませんでした。

Aさんが支払ったということは、債務の承認であり、時効の利益の援用放棄になるとして、B金融は貸金請求の訴訟を起こしました。

取引経験、法律知識において圧倒的に勝る債権者が、消滅時効の完成を知りながら、法的に無知な債務者にこれを告げないまま債務の一部を弁済させたり、債権者が債務者の時効援用の主張を封じるために時効完成後に甘言を弄して小額の弁済をさせた上で態度を一変させ、残元金及び多額に上る遅延損害金を請求するような場合には、債務者が一部弁済など債務承認行為をした後でも、消滅時効を援用することが信義則に反しないことがあり得る。

このような場合は、債務者の時効援用権を制限するよりも、本来の時効の効果をそのまま維持することが、時効制度の趣旨からも、公平の観点からも合理的と言える、と判決は言っています。

その上で、Aさんの消滅時効の主張を認め、貸金の支払義務がないことを認めました。

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時効の判例 消滅時効・・・

マンションでは共用部分を管理するための費用である管理費用、それに将来のマンションの修繕に備える費用である特別修繕費を、管理規約に基づいて徴収されます。

Aさんは、友人の知り合いであるマンション所有者から、特別に格安でマンションの1室を購入しました。

ところが、このマンションの前所有者は、6年余りにわたって管理費及び特別修繕費を滞納しており、その合計が174万円にもなっていました。

マンションに関する法律である区分所有法では、マンションの管理組合が区分所有者に対して有する債権は、特定承継人に対しても行うことが出来るとしていますので、マンション管理組合はAさんにその支払を求めてきました。

Aさんは、法律に詳しい友人に相談したところ、マンションの管理費等の債権は、民法169条に規定されている定期給付債権だから、5年で消滅時効にかかるはずであり、支払期限から5年を経過している分である104万円は支払わなくてもよいと聞き、裁判で争うことになりました。

1審のさいたま地裁越谷支部、2審の東京高裁でも、Aさんの消滅時効の主張は認められませんでした。

その理由は、本件マンションの管理費等は、原則的に毎月一定額を支払う形になってはいるものの、マンション管理組合員の総会の決議により額は決定され、毎年要する経費の変化に応じて年単位で増額、減額等がされることが予定されるものであって、その年額が毎年一定となるものではない、このような管理費等の債権は、基本権たる定期債権から発生する支分権としての性質を有するものではない、としてAさんの主張を認めませんでした。

これに対して、最高裁は、マンション管理組合がその区分所有者に対して有する管理費等に係わる債権は、管理規約の規定に基づいて、区分所有者に対して発生するものであり、その具体的な額は総会の決議によって確定し、月ごとに支払われるものである。

このような本件の管理費等の債権は、基本権である定期金債権から派生する支分権として、民法169条所定の債権に当たるものというべきである。

その具体的な額が共用部分等の管理に要する費用の増減に伴い、総会の決議により増減することがあるとしても、そのことは上記の結論を左右するものではないとの判断を下しました。

こうしてAさんの5年の短期消滅時効の主張が認められました。

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