悪魔ちゃん命名事件・・・

悪魔ちゃん命名事件・・・

東京家八王子支審平成6・1・31判時1486号56頁

<事実>

Xは子に「悪魔」と命名して出生届をし受理されたが、また市長印は押捺されていなかった。

Y市は後に法務局の指示により、名未定の出生届として戸籍上処理し、Xに子の名の追完を求めた。

Xは「悪魔」の名を子の戸籍に記載すること、「名未定」との記載を抹消することを申し立てた。

これに対して、Yは、Xは命名権を濫用しており、違法のため未受理状態にしているものであるとして争った。

<争点>Xの命名行為は命名権の濫用にあたり、違法な届出といえる。もしそうだとしても、Yの行政処分は適法になされたといえるか。

<判旨>認容

「「悪魔」の命名は、命名権の濫用に当たり、戸籍法に違反するところ、名の届出を受理する前であれば、Yにおいて、受理を拒否すべき場合といえるが、Yは、誤って、名を戸籍面に記載する等して、その届出を受理した。

従って、当該記載を訂正(抹消)するには、法定の手続(戸籍訂正)をとらねばならないところ、Yは、法定の手続を経ないで、名の戸籍の記載を抹消したものであって、これは、違法、無効のものをいわざるを得ない。

従って、抹消された名の記載を復活させ、受理に伴う手続を完成させる必要がある」。

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旧姓使用の可否・・・

東京地判平成5・11・19判時1486号21頁

<事実>

関口礼子(X)は婚氏を渡邊と称する結婚をしたが、研究者として自己同一性を確保したいこともあって、関口姓を通称名としてきた。

Y国立大学に採用されたので、Xは、旧姓名を通称名として使用したい旨を大学に申し入れた。

ところが、Y国立大学は、論文等の著者名以外は原則として通称名のみの使用を認めなかった(例外的に、戸籍名(通称名)という表示を認容)。

Xは、国およびY国立大学学長らに対して、戸籍名を使用することを差し止めるとともに、そのことによって生じた損害賠償を国に対して請求した。

<争点>旧姓名を通称使用することは権利として認められるか。公務員の場合には、その権利が制約されるか。国立大学教官の場合はどうか。

<判旨>差止請求却下、損害賠償請求棄却

「公務員の同一性を把握する方法としてその氏名を戸籍名で取り扱うことはきわめて合理的」である。

「本件取扱文書に定める基準は、・・・研究、教育活動においては、・・・「関口礼子」を表示することができ・・・、その目的及び手段として合理性が認められ、何等違法なものではない」。

「なるほど、通称名であっても、個人がそれを一定期間専用し続けることによって当該個人を他人から識別し特定する機能を有するようになれば、・・・その個人の人格の象徴ともなりうる可能性を有する」。

しかし、公務員の服務および勤務関係において、旧姓名が「通称名として戸籍名のように個人の名称として長期間にわたり国民生活における基本的なものとして根付いて」おらず、「また、通称名を専用することは未だ普遍的とはいえず、個人の人格的生存に不可欠なもの」とはいない。

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婚外子の父の氏への変更・・・

高松高決平成5・11・10判夕863号268頁

<事実>

X(3歳)はA男・B女の婚外子であり、Aに認知され、Aが親権を行使し、A・Bと共に暮らしている。

他方、Aには妻Cおよび嫡出子D・Eがいるが、6年にわたって別居しており、Aは月1回生活費を渡すため帰宅している。

Xは保育園入園を契機にAと氏が異なるのは不便であり、惨めな思いもしたくないことから、Xの氏をBの氏からAの氏へ変更することを申し立てた。

原審は、Xは当面通称使用でも不利益はなく、逆に、Cの反発とD・Eに影響を及ぼす危惧を付度してXの申立を却下した。

Xは抗告した。

<争点>Xの氏の父の氏への変更が認められる基準をどのように考えればよいか。Cら嫡出家族の反対があれば認められないか。

<判旨>抗告棄却

Xの氏をAと同姓にした場合、XはAと同一の戸籍に記載されることになり、Aの妻子らに認知事項が記載されたことになり、Aの妻子らに認知事項が記載されたとき以上により大きい精神的打撃を与え、また、子らの将来にわたり社会生活面において種々の事実上の不利益を与え、単なる感情の問題として済ませることはできないこと、他方、Xの主張については、通称を戸籍の氏に符合させたい点に関しては、Xはいまだ3歳なので、世間からAの姓によって人格の同一性を識別されているわけではないので、この点からは氏の変更利益はないこと、預金取引のXの名義としてAの姓を使っている都合上の理由や幼稚園の名簿に保護者としてAの氏名を記入したいとの理由は、氏の変更の理由としてはきわめて簿弱であり、Xの福祉とはあまり関係がない。

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婚氏続称と婚姻前の氏への変更・・・

福岡高決平成6・9・27判時1529号84頁

<事実>

乙山X女は甲野Y男と夫の氏を称する婚姻をし、Aが生まれたが、その2年後に協議離婚をした。

その際、Aの親権者を母とし、Xは婚氏を続称する手続をとり、AはXの戸籍に入籍した。

Xが甲野氏を選択したのは、Aが保育園の年次途中であり復氏は好ましくないと考えたからであるが、いつでも乙山に変更可能との誤信もあった。

Xは社会生活全般にわたり、乙山で通しており、Aも乙山を称するようになったので、甲野氏では不便であり、離婚後11ヶ月して氏の変更許可の申立をした。

家裁はXの申立を却下したので、Xは抗告した。

<争点>戸籍法107条1項にいう「やむを得ない事由」の解釈基準はどのようなものか。呼称秩序維持と氏の変更の自由との調整をどのようにすべきか。

<判旨>取消し・認容

婚姻中の氏の継続使用期間も本件氏の変更許可の申立時まで11ヶ月余と比較的短期間であって、その氏が離婚後の呼称としていまだ社会的に定着していないばかりか、むしろ抗告人は社会生活全般にわたり概ね「乙山」で通用してきて、抗告人が戸籍上「甲野」であることによる混乱も生じており、その氏の変更許可の申立が恣意的であるとは認められず、かつ、その変更を認めたからといって社会的弊害を生じるとも考え難いので、婚姻前の氏「乙山」への変更を許可するのが相当である。

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