遺留分の時効の進行の判例・・・
贈与の有効性を争っている場合には、これを争うことが明らかに不合理である場合を除き、消滅時効は進行しないとされます。
未成年者である遺留分権利者に法定代理人が存在しない間は、減殺請求権の行使が不能若しくは著しく困難であったというべきであるから、同人に後見人が選任された日までは消滅時効期間の進行はしていないと解すべきであるとした事例があります。
転得者に対する減殺請求権の消滅時効は、遺留分権利者が相続の開始と減殺すべき贈与を知った時から起算されます。
(受贈者が贈与の目的を譲渡した場合等)
民法第1040条 減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。ただし、譲受人が譲渡の時において遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、遺留分権利者は、これに対しても減殺を請求することができる。
2 前項の規定は、受贈者が贈与の目的につき権利を設定した場合について準用する。
遺留分権利者が減殺の意思表示をしたことによって確定的に減殺の効力を生じますから、もはや減殺請求権そのものについて民法1042条による消滅時効を考える余地はありません。
(減殺請求権の期間の制限)
民法第1042条 減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。
遺留分減殺の意思表示により確定的に減殺の効力を生じるから、その後6ヶ月以内に裁判上の請求をしなかったからといって、意思表示に基づき効力を生じた減殺の効力に消長を来すいわれはないとされます。
遺留分権利者が減殺請求により取得した不動産の所有権又は共有持分権に基づく登記手続請求権は時効によって消滅することはないとされています。
スポンサードリンク
遺留分減殺請求権の時効の援用・・・
時効は、その利益を受ける者(被遺留分減殺者)から不利益を受ける者(遺留分権利者)に対して援用の意思表示をすることによって、その効力が確定します。
遺留分減殺に関する訴訟が係属しているときは、その手続において時効を援用しますが、控訴審の口頭弁論終結時までにされなければなりません。
(時効の援用)
民法第145条 時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
遺留分減殺訴訟の口頭弁論期日においてした遺留分減殺請求権の時効を援用する意思表示が認められた事例があります。
また、裁判外でも時効を援用することができます。
時効の援用は、配達証明付の内容証明郵便で送付すると、送付した文書の内容とその受領年月日を公文書で証明できます。
内容証明郵便の取扱局は、所定の内容証明郵便物の差出方法により提出された内容たる文書とその謄本とを対照して符合することを認めたときは、内容たる文書及び謄本の各通に、差出年月日、その郵便物が内容証明郵便として差し出された旨及び郵便局長名を記載し、通信日付印を押印し、謄本のうち1通は郵便局が保存し、これと内容たる文書及び他の謄本とを通信日付印で契印します。
郵便局が保存するもの以外のものは、差出人に交付されます。
郵便局が証明した内容たる文書は、郵便局職員の立会いのもとで差出人において、これを郵便物の受取人及び差出人の氏名及び住所を記載した封筒に納めて封かんした上で送達されます。
スポンサードリンク
遺留分減殺と取得時効の判例 ・・・
贈与がされてから20年以上経過して相続が開始し、遺留分権利者がこの贈与を民法1030条、1031条に該当する贈与としてその減殺を請求した事案で、控訴人は贈与物件の土地を贈与の日から所有の意思をもって平穏かつ公然に占有し、しかも占有のはじめに善意無過失であるから10年経過の日に、仮に善意無過失がなかったとしても20年経過の日に、これを時効取得したから被控訴人から遺留分の減殺請求を受けることはないと主張しました。
民法第1030条 贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によってその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする。
(遺贈又は贈与の減殺請求)
民法第1031条 遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。
裁判所は、贈与の日から20年経過の日に贈与土地の時効による取得を援用するための要件を備えたことを認めた上で、目的物の時効取得を援用することができないとしました。
本件のような遺留分減殺請求権は、贈与が遺留分を侵害するという事実及び贈与契約当事者双方による右事実の認識を要件とする形成権であるところ、受贈者である控訴人が被控訴人に対して目的物の時効取得を援用したとしても、右援用によっては、右遺留分侵害の事実等を払拭することができず、また、遺留分減殺請求権の消滅時効を来すものでもないから被控訴人による贈与の減殺を拒むことができないというべきであり、受贈者である控訴人は、被控訴人に対する関係で目的物の時効取得を援用する利益を有しないこととなる。
最高裁も受贈者の取得時効の援用について、被相続人がした贈与が遺留分減殺の対象としての要件を満たす場合には、遺留分権利者の減殺請求により、贈与は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者が取得した権利は右の限度で当然に右遺留分権利者に帰属するに至るのであり、受贈者が右贈与に基づいて目的物の占有を取得し、民法162条所定の期間、平穏かつ公然にこれを継続し、取得時効を援用したとしても、それによって遺留分権利者への権利の帰属が妨げられるものではないとこれを否定しています。
(所有権の取得時効)
民法第162条 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
スポンサードリンク
遺留分減殺の現物返還・・・
遺留分権利者が減殺した贈与・遺贈は、その限度で失効しますから、受贈者・受遺者は、贈与・遺贈の目的物を遺留分権利者に返還しなければなりません。
受遺者が相続人との共有関係に甘んずるか、価額弁償をしてこれを阻止するかの選択権は受遺者にあり、当然には受遺者に遺贈の目的物の返還義務はないと解して、遺贈登記の抹消登記請求及び建物の引渡し請求を棄却した事例があります。
共有物分割請求の反訴としてされた遺留分減殺請求が認容され、共有物分割の方法として競売が命じられた事例があります。
遺留分減殺の結果、共有ないし準共有になった借地権とその土地上にある建物につき、全面的価格賠償の方法により共有物を分割することの許される特段の事情の存否について審理判断することなく、直ちに競売の方法により分割するべきものとした原審の判断を違法とした事例があります。
遺留分権利者は、財産を選択特定して減殺請求した後でも、総遺産の割合的な減殺請求に変更することができるとした事例があります。
スポンサードリンク