遺留分減殺の意思表示と遺産分割協議調停の判例・・・
遺産分割協議の申入れ又は遺産分割調停の申立に遺留分減殺の意思表示が当然に含まれるかについては、次の事例があります。
全遺産が共同相続人の1人に包括遺贈された場合、遺産分割協議申入れ又は調停申立に遺留分減殺の意思表示を含むと解する余地があると解しています。
被相続人が共同相続人の1人に全財産を相続させる旨の遺言をした場合、他の共同相続人が受遺者が遺産を1人じめにすることに反対して自己の分け前を要求して遺産分割協議書に押印を拒否したときは遺留分減殺請求権の行使があったと解しました。
遺産分割と遺留分減殺とは、その要件、効果を異にするから、遺産分割協議の申入れに、当然、遺留分減殺の意思表示が含まれるということはできないが、被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合には、遺贈を受けなかった相続人が遺産の配分を求めるためには、法律上、遺留分減殺によるほかないのであるから、遺留分減殺請求権を有する相続人が遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限りその申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれると解するのが相当であるとしました。
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遺留分減殺の意思表示の効果・・・
遺留分減殺の意思表示が被減殺者に到達すると、減殺の目的物は遺留分の限度で遺留分権利者に復帰します。
減殺の効力は遺留分減殺の意思表示により確定的に生じ、その後6ヶ月以内に裁判上の請求をしなかったからといって、前記意思表示によって生じた減殺の効力に消長を来すいわれはないとされます。
遺言執行者が遺留分権利者に対し、相続財産管理権に基づく相続財産の引渡し等を請求した場合、有効な遺留分減殺請求権を行使されたときは、包括受遺者と相続人はすべての相続財産を共有することになるから、遺言執行者は遺言を執行する余地はないとしてその請求を棄却した事例があります。
被相続人がした贈与が遺留分減殺の対象としての要件を満たす場合には、遺留分権利者の減殺請求により、贈与は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者が取得した権利は右の限度で当然に右遺留分権利者に帰属するに至るのであり、受贈者が右贈与の基づいて目的物の占有を取得し、民法162条所定の期間、平穏かつ公然にこれを継続し、取得時効を援用したとしても、それによって遺留分権利者への権利の帰属が妨げられるものではないとされます。
(所有権の取得時効)
民法第162条 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
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遺留分減殺の意思表示の効果の判例 ・・・
不可分一体の不動産の遺贈を減殺した場合、遺留分権利者と受遺者の共有にすることは現物をもってする返還にほかならないとして、受遺者に対して遺留分減殺者との共有登記を命じ、遺贈の目的物が不可分であって、かつ、その一部を減殺すべき場合、受遺者はその全部を返還する義務があり、遺留分権利者は受遺者にその超過分の価額を返還すれば足りるという原告の主張を排斥した事例があります。
遺言者の財産全部についての包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないとされます。
被相続人の遺言で取得分はないとされた相続人を除く余りの相続人全員が、遺言の解釈及び遺産全部をその解釈に基づいて遺産分割手続中で分割することの合意している場合には、既に遺言中で取得者が定められている物件についても遺産分割の対象とすることができ、また、相続人の一部の者がした遺留分減殺請求によって取り戻された遺産を含めて分割することに合意している場合には、その合意に沿って審判することが許されるとした事例があります。
民法1036条は、受贈者において「減殺の請求があった日以後の果実」を返還すべきものとするが、同条は元来、悪意占有者の果実返還義務及び消費した果実等の代価の償還義務を規定した同法190条1項の特則であって、減殺請求の意思表示の日をもって受贈者が悪意の占有者となった時とみるところに同条の規定の趣旨があるものと解されるから、遺留分権利者は民法1036条、190条により減殺請求の日以後の果実の代価の償還を求めうるものというべきであるとされます。
(受贈者による果実の返還)
民法第1036条 受贈者は、その返還すべき財産のほか、減殺の請求があった日以後の果実を返還しなければならない。
(悪意の占有者による果実の返還等)
民法第190条 悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。
2 前項の規定は、暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者について準用する。
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遺留分減殺請求の再訴の禁止・・・
遺留分減殺による土地所有権確認及び所有権移転登記を訴求し、請求棄却の本案判決を受けたのち、控訴審でこれを取下げた場合、前訴の取下げにもかかわらず、再訴を必要とする特段の事情の変化がない限り、請求原因を同じくする同一のし得旧を提訴することは許されず民事訴訟法262条2項の明文に反するものとして却下を免れないとされます。
(訴えの取下げの効果)
民法第262条 訴訟は、訴えの取下げがあった部分については、初めから係属していなかったものとみなす。
2 本案について終局判決があった後に訴えを取り下げた者は、同一の訴えを提起することができない。
しかし、前訴の控訴審で一時追加されたが取下げられ、判断されていない前記不動産の果実の代価請求とその地上立木の不法伐採による損害賠償請求は別の請求であり前記再訴禁止に触れないとされています。
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