財産管理に関する指示・・・
遺産の分割の申立があった場合、財産の管理のため、必要があるときは、家庭裁判所は、申立により、又は職権で、担保を立てさせないで、本案の申立についての審判が効力を生ずるまでの間、財産の管理者を選任し、又は事件の関係人に対し、財産の管理に関する事項を指示することができます。
(遺産の分割の協議又は審判等)
民法第907条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
3 前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。
財産の管理者については、不在者の財産管理人に関する規定が準用されます。
(管理人の職務)
民法第27条 前2条の規定により家庭裁判所が選任した管理人は、その管理すべき財産の目録を作成しなければならない。この場合において、その費用は、不在者の財産の中から支弁する。
2 不在者の生死が明らかでない場合において、利害関係人又は検察官の請求があるときは、家庭裁判所は、不在者が置いた管理人にも、前項の目録の作成を命ずることができる。
3 前2項に定めるもののほか、家庭裁判所は、管理人に対し、不在者の財産の保存に必要と認める処分を命ずることができる。
(管理人の権限)
民法第28条 管理人は、第103条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。
(管理人の担保提供及び報酬)
民法第29条 家庭裁判所は、管理人に財産の管理及び返還について相当の担保を立てさせることができる。
2 家庭裁判所は、管理人と不在者との関係その他の事情により、不在者の財産の中から、相当な報酬を管理人に与えることができる。
財産管理者が選任された場合、相続人は遺産の管理・処分権を失うかにつき、遺言執行者の場合のように、相続人から相続財産の処分権を奪う趣旨の実体法上の規定は置かれていないこと、そもそも不在者の財産管理人が選任されたとしても不在者自身は自己の財産について管理・処分する権限を失わないと解されることに照らすと、遺産管理者が選任されても、相続人は、相続財産に対する管理・処分権を失わないと解されます。
相続人は、遺産管理者の管理権行使を受忍する法的義務を負うと解されるので、遺産管理者の管理権行使と抵触するような管理権行使は許されないと解する余地がありますが、本件は共有物の保存行為として不実の登記の更正登記手続を求めるものであり、遺産管理者の管理権と抵触するようなものとは到底解されないとして、相続人に不実の登記の更正登記手続を求める訴えの当事者適格を認めた事例があります。
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遺産分割審判の財産管理者の選任申立・・・
遺産分割審判の申立があった場合の家庭裁判所に対する財産の管理者の選任等の申立は、家事雑事件です。
①申立権者
事件の関係人です。
②管轄
本案審判事件が係属している家庭裁判所です。
③添付書類
保全処分を求める事由を疎明する資料
④審理手続
保全処分の審理は、原則として、本案審判の手続と同様に進められます。
申立が、手続的要件を充足し、本案認容の蓋然性及び保全処分の必要性につき疎明があったとき、申立は認容され、手続的要件を欠き、前記保全処分の実質的要件の疎明がないとき、申立は却下されます。
保全処分に関する疎明責任は、原則として、申立人にあります。
財産の管理者の選任及び財産の管理に関する指示の保全処分は、これを受ける者に告知されたときに効力を生じ、財産管理者の選任は形成力を有し、指示処分は勧告的効力を有するにとどまります。
申立認容、却下いずれの審判に対しても即時抗告はできません。
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遺産分割審判の保全処分・・・
遺産分割審判における特定物の給付命令の執行を保全するため必要があるときは、家庭裁判所は、当該審判の申立人又は相手方の申立により、仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができます。
自己の所有権を主張する相続人が他の相続人に対して、その権利を保全するための処分禁止は民事保全の手続になります。
民事保全は、将来なされるべき強制執行における請求権の満足を保全するために、さしあたり現状を維持・確保することを目的とする予防的・暫定的な処分であり、仮差押え、係争物に関する仮処分および仮の地位を定める仮処分をその内容とする。
このため、保全執行は、請求権を確証する債務名義の存在を要件とせず、口頭弁論を必要としない略式の手続(決定手続)で取得できる保全命令(仮差押命令または仮処分命令)に基づいて行う。
保全命令の実体的要件としては、被保全権利の存在および保全の必要性の存在であり、両者は疎明することを要する
未登記不動産に対する仮差押命令手続において、当該不動産が債務者の所有に属することは証明が必要であり、この証明をしない債権者の申立を却下した事例があります。
厚生年金、国家公務員共済年金は差押禁止債権ですが、それが受給者の銀行預金口座に振り込まれた場合は、その銀行預金に全額を差押えることができるとした事例があります。
債権執行の対象が外形上債務者の責任財産とは認められない場合であっても、債権者が迅速性が失われることを甘受した上で、前記債権が真実は債務者の責任財産に帰属することを証明した場合については、執行裁判所は、適法に執行手続を開始することができると解した事例があります。
債権に対する仮差押の執行後に本執行による差押の効力が生ずるまでの間に第三債務者が被差押債権を弁済した場合において、債権者が仮差押を取り下げたときは、仮差押によって第三債務者につき生じていた上記弁済禁止の効力は遡って消滅し、第三債務者は被差押債権の弁済をもって債権者に対抗することができます。
本案訴訟が確定した場合、保全処分の被保全権利と本案訴訟の請求権の関係は特定し、当該保全処分を他の権利の保全のために維持することは許されないとされます。
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遺産分割審判の仮処分の申立・・・
家庭裁判所に対する係争物に関する仮処分の申立は、家事雑事件です。
①申立権者
本案審判事件の申立人及び相手方です。
②管轄
本案審判事件が係属している家庭裁判所です。
③添付書類
本案申立認容の蓋然性
保全処分の必要性を疎明する資料
登記がされた不動産の仮差押命令の申立書には、登記簿の謄本及び登記用紙の表題部に債務者以外の者が所有者として記載されている場合にあっては、債務者の所有に属することを証する書面を添付しなければなりません。
不動産仮処分命令の申立書についても同様です。
未登記不動産については、債務者の所有に属することを書面によって証明することが必要です。
この場合の証明責任は、利害の対立する者の対席が保障されない手続の段階にあっては、当該不動産の所有者が債務者に属することについて通常予測されるような障害事由の存しないことも含めて債権者が負うとした事例があります。
民事保全規則20条、23条の規定は審判前の保全処分に準用されています。
(申立書の添付書面)
民事保全規則第二十条 次の各号に掲げる仮差押命令の申立書には、当該各号に定める書面を添付しなければならない。
一 民事執行法第四十三条第一項に規定する不動産(以下「不動産」という。)に対する仮差押命令 次に掲げる書面
イ 登記がされた不動産については、登記事項証明書及び登記記録の表題部に債務者以外の者が所有者として記録されている場合にあっては、債務者の所有に属することを証する書面
ロ 登記がされていない土地又は建物については,次に掲げる書面
(1) 債務者の所有に属することを証する書面
(2) 当該土地についての不動産登記令(平成十六年政令第三百七十九号)第二条第二号に規定する土地所在図及び同条第三号に規定する地積測量図
(3) 当該建物についての不動産登記令第二条第五号に規定する建物図面及び同条第六号に規定する各階平面図並びに同令別表の三十二の項添付情報欄ハ又はニに掲げる情報を記載した書面
ハ 不動産の価額を証する書面
二 民事執行法第百十二条に規定する船舶(以下「船舶」という。)に対する仮差押命令 次に掲げる書面
イ 登記がされた日本船舶については、登記事項証明書
ロ 登記がされていない日本船舶については、船舶登記令(平成十七年政令第十一号)第十三条第一項四号イからホまでに掲げる情報を記載した書面,同令別表一の七の項添付情報欄ロ及びハに掲げる情報を記載した書面及びその船舶が債務者の所有に属することを証する書面
ハ 日本船舶以外の船舶については、その船舶が民事執行法第百十二条に規定する船舶であることを証する書面及びその船舶が債務者の所有に属することを証する書面
ニ 船舶の価額を証する書面
三 民事執行規則第八十四条に規定する航空機(以下「航空機」という。)に対する仮差押命令 航空機登録原簿の謄本及び航空機の価額を証する書面
四 民事執行規則第八十六条に規定する自動車(以下「自動車」という。)に対する仮差押命令 自動車登録ファイルに記録されている事項を証明した書面及び自動車の価額を証する書面
五 民事執行規則第九十八条に規定する建設機械(以下「建設機械」という。)に対する仮差押命令 登記事項証明書及び建設機械の価額を証する書面
六 民事執行規則第九十八条の二に規定する小型船舶(以下「小型船舶」という。)に対する仮差押命令 小型船舶の登録等に関する法律(平成十三年法律第百二号)第十四条に規定する原簿の謄本又は原簿のうち磁気ディスクをもって調製された部分に記録されている事項を証明した書面及び小型船舶の価額を証する書面
七 電話加入権に対する仮差押命令 東日本電信電話株式会社又は西日本電信電話株式会社の電話加入権に関する帳簿に記載されている事項を証明した書面
八 民事執行法第百六十七条第一項に規定するその他の財産権(以下「その他の財産権」という。)で権利の移転について登記又は登録を要するものに対する仮差押命令 登記事項証明書又は登録原簿に記載されている事項を証明した書面
(仮差押命令の規定の準用)
民事保全規則第二十三条 前款(第十九条第一項を除く。)の規定は、仮処分命令の申立てについて準用する。
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