相続による所有権移転・・・
登記実務では、「相続させる」旨の遺言によって相続による所有権移転登記が認められています。
被相続人の「遺言者は、その所有するA不動産を長男甲に相続させる。遺言者は、乙を遺言執行者に指定する」旨の遺言に基づき、A不動産を甲名義にする場合、遺言執行者は所有権移転の登記をする義務を負いません。
この点について、この遺言は、その文言から当然に遺贈と解することはできず、相続分の指定又は遺産分割方法の指定とみることができるものであること、登記実務では、「遺産のA不動産を長男甲に相続させる」との遺言公正証書がある場合、相続人甲は、相続開始後、A不動産につき、相続を登記原因とする所有権移転登記をすることができるとされているから、甲は遺言公正証書を相続証明書として添付し、単独で相続による所有権移転登記を申請すれば足りること、遺言執行者が指定されている場合でも、遺言執行者と共同申請する必要はないこと、遺言執行者でなければ登記申請できないとすべき理由はないこと、甲が相続登記することが民法1013条により制限されるとは解されないこと、民法1012条1項は「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と定めるが、右規定は、遺言執行者に対して、当該遺言の具体的内容に従いその執行に必要な行為をする権利義務を認めたもので、遺言の執行とみる余地のない事柄についてまで何らかの行為をする権利義務まで認めたものでないことなどにより、右所有権移転登記手続を遺言の執行と認める余地はないこと、遺言執行者がその職務として、右遺言に基づき相続人甲に対して右所有権移転登記手続をすべき義務を負っていたと解することはできないとされました。
(遺言執行者の権利義務)
民法第1012条 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 第644条から第647条まで及び第650条の規定は、遺言執行者について準用する。
(遺言の執行の妨害行為の禁止)
民法第1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
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単独相続人の預金払戻請求・・・
相続人の1人が単独相続したとして一定の根拠資料を示して被相続人名義預金の払戻を請求した場合、金融機関が他の相続人の同意書を求めることは、債務不履行責任を免れないが、本件預金には自動継続の特約があり、請求時に弁済期がなかったとして債務不履行責任を構成しないと解した事例があります。
自動継続定期預金の預金者から満期日に解約申出があれば、ほぼ例外なくこれおに応じる実務慣行があることが認められ、このような解約申出を受けた金融機関が、相続人間の紛争に巻き込まれるのを避ける目的で必要な調査を完了するまで払戻を留保することは、権利の濫用となるものではなく、不法行為責任も債務不履行も問うことは困難であるとした事例があります。
(債務不履行による損害賠償)
民法第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
(不法行為による損害賠償)
民法第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
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単独相続登記前の共同相続登記・・・
合計7人の共同相続人中の1人の乙に対して特定不動産Aを「相続させる」との文言を使用した被相続人甲の公正証書遺言があるが、Aにつき乙が右公正証書遺言に基づく登記をする前に他の相続人丙の申請により相続人全員の保存行為としての相続登記がなされた場合、その後、右相続登記を抹消することなく、乙の単独申請による相続を登記原因とする登記申請は受理されず、この場合には、乙ほか6名名義の相続による所有権移転登記を乙名義に更正する更正登記によるとされています。
更正登記とは、不動産登記簿に記載されている登記事項が、その登記の時点において錯誤や遺漏により、事実関係と不一致があった場合に、登記事項を事実関係に一致させるための登記のことをいいます。
このようにしてなされた共同相続登記の抹消登記を請求する訴訟の訴状貼用印紙代及び弁護士費用は、遺言執行費用として相続財産から支弁されるので、その減少をもたらしますが、共同相続登記手続をした相続人に対する損害賠償請求訴訟の原告当事者適格は、遺言執行者がある場合でも相続人にあるとされています。
抹消登記(まっしょうとうき)とは、登記記録又は登記簿上に現存する権利や登記事項が何らかの事情により消滅したか根本的に不存在だった場合において、それを登記記録等から削除して実体に合致させることである。
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遺産分割の方法の指定を委託する遺言・・・
被相続人は遺言で遺産分割の方法を定めることを第三者に委託することができます。
被相続人の委託を受けることができるのは共同相続人以外の第三者であることを要し、共同相続人中の1人に遺産分割の方法の指定を委託する遺言は指定の公正が期待できないから無効とされます。
(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
民法第908条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
受託者は、単に分割方法を指定するだけで、その実現は共同相続人に任せればよいのですが、分割方法の指定だけでなく、分割の実現までも委託された者は遺言の執行を委託された者と解されています。
「ゆいごん わしのいさんそうぞくの指定としっこうを****べんごしにいたくする」旨の自筆証書遺言を相続分の指定と遺産分割方法の指定の両者を****弁護士に委託し、かつ、同人を遺言執行者に指定し、現実に遺産の分配手続をも委託したものとした事例があります。
受託者は、相続分及び分割基準に従って分割方法の指定をしなければなりません。
ただし、共同相続人全員の承諾を得ればこの限りではありません。
特定の財産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言書が作成された後に、これに追加して、その他一切の財産を右相続人に相続させ、また、右相続人を遺言執行者に指定する旨の遺言書が新たに作成された場合について、先に作成された遺言書の趣旨が遺産分割方法の指定から遺贈に変ったと解した事例があります。
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