遺言の撤回・・・
遺言者は、何時でも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができます。
(遺言の撤回)
民法第1022条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
遺言者は遺言を撤回する権利を放棄することができません。
(遺言の撤回権の放棄の禁止)
民法第1026条 遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。
遺言書にこの遺言を今後撤回しないと記載しても、受遺者その他の利害関係人に対して遺言を撤回しない旨を約束しても、これに拘束されることはありません。
民法は遺言の撤回を詐欺又は強迫によって妨げた者を相続欠格者、受遺欠格者としています。
(相続人の欠格事由)
民法第891条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
1.故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
2.被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
3.詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
4.詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
5.相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
(相続人に関する規定の準用)
民法第965条 第886条及び第891条の規定は、受遺者について準用する。
遺言の撤回は、必ず遺言の方式に従ってしなければなりません。
ただし、前の遺言と同一の方式によることまでは要求されておらず、公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回することができます。
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遺言の法定撤回・・・
遺言者に撤回の意思があると通常推認できるような一定の事実があった場合には、遺言者の真意をいかんを問わず法律上遺言を撤回したものとみなされます。
これを法定撤回といいます。
この制度は、遺言者に一定の事実があった場合に撤回をしたものとみなすものです。
撤回は遺言方式によるという原則からすると例外的なものであり、また、一定の事実ないし行為をすることによって、遺言の方式によらなくても撤回できるという便法を認めたものと解することもできます。
民法では法定撤回として次の4つを規定しています。
(前の遺言と後の遺言との抵触等)
民法第1023条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
(遺言書又は遺贈の目的物の破棄)
民法第1024条 遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。
①抵触する遺言による撤回
②抵触する生前行為による撤回
③遺言書の破棄による撤回
④遺贈目的物の破棄による撤回
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抵触する遺言による撤回 ・・・
前の遺言と後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます。
(前の遺言と後の遺言との抵触等)
民法第1023条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
甲に遺贈する旨の遺言は、その後にされた乙に遺贈する旨の本件遺言と抵触するから、その全部が撤回したものとみなされるとした事例があります。
民法1023条の規定の趣旨は、遺言者の生前の最終意思を尊重することです。
「抵触」とは、両遺言の内容を実現することが客観的に不可能な場合のみならず後の遺言を作成するに至った経緯等諸般の事情に照らして、前の遺言を両立させない趣旨で後の遺言がされた場合を含むものと解するのが相当であるとして、
①甲は新遺言第1条によりAの土地を取得し、第2条によりAの土地を除く遺言者の遺産につき4分の1を取得する点については、遺言者の遺産を乙に単独取得させるとした旧遺言第1条と明らかに矛盾している上、
②Aの土地を除く遺言者の遺産につき甲の相続分を除いた残りの4分の3についても、審遺言第2条の文言が「分割協議に参加し得る」とされており、右は、他の複数に相続人間の分割協議を前提にしてその協議に甲が参加することができる旨定めたと解するのが自然であること、
③旧遺言と新遺言とでは遺言執行者が変更されていること、
④旧遺言が作成されてから新遺言が作成されるまで13年余りが経過しており、その間、遺言者と乙との間にも様々な感情の推移があったであろうことは容易に推測できること、
⑤遺言者は旧遺言の存在を失念していたわけではないが、新遺言作成に関与した弁護士及び公証人には旧遺言の話をしなかったこと、
⑥したがって法律の専門家である右2名は甲乙以外にも遺言者の相続人が存在することを念頭において新遺言作成に関与していること、
⑦遺言者は旧遺言において自己の財産を単独相続させるとした乙に対し、新遺言作成を何ら告げずに死亡したこと、
などを総合考慮すれば、遺言者は旧遺言と両立させない趣旨で新遺言を作成したものというべきであるから、右両遺言は全面的に抵触していると解され、その結果、旧遺言は新遺言により全面的に撤回されたものとみなされるとした事例があります。
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抵触する生前行為による遺言撤回・・・
遺言と遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合も遺言を撤回したものとみなされます。
(前の遺言と後の遺言との抵触等)
民法第1023条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
遺言と遺言後の生前処分については、生前処分を実現させる前の遺言の執行が不能となる場合に限らず、例えば、諸般の事情を観察すると、1万円を与える旨の遺言後、この遺贈に代えて生前5千円を受遺者に贈与することとし、受遺者は事後金銭要求しない旨を約したときは、前の遺言は後の生前処分と抵触するとされた事例があります。
全財産を相続人に贈与する旨の遺言をした後、他の相続人に法定相続分があることを是認する趣旨の和解・合意をした場合、遺言者はこの合意の際、前記遺言と抵触する法律行為をしたものであり、前記遺言は右法律行為により撤回されたものとみなされるとした事例があります。
養子に対する包括遺贈の遺言が、その離縁により撤回されたと認めた事例があります。
後の生前処分と抵触して前の遺言が撤回されたとされるためには、後の生前処分がその効果を生じていることを要します。
遺言後に遺言と抵触する生前処分がされたとしても、それが通謀虚偽表示により無効であるときは、遺言は撤回されたものとみなすことはできないとされた事例があります。
遺言者が遺言後、その対象とした土地を合筆、分筆し、その一部を売却した場合、民法1023条2項により遺言が撤回された事例があります。
これについては、土地の合筆、分筆等の登記手続きは、土地そのものの処分とはいえないから、これによって土地の特定が極めて困難となり、遺言の内容を実現するのに特に支障となるような事情のあるときは別として、そうでないときは、売却の対象とならなかった部分についてまで遺言が無効となるものではないとされました。
遺言者が「別紙物件目録1,2,3記載の各不動産その他の債権の全てを甲(妻)に遺贈する」との遺言をした後、別紙物件目録2記載の不動産を第三者に売却し、その後、別紙物件目録3記載の各不動産を取り壊した場合、別紙物件目録2,3記載の各不動産については、もとより抵触する生前処分により右遺言を撤回したものとみるべきであるが、その余りの部分については、売却した不動産と遺言に記載された不動産の免責の比率、遺言者が生前処分に至った事情、遺言者と甲との間に子がなく、原告らとは叔父甥、叔父姪の関係であるとの家庭状況等の事実に照らせば、遺言者が右遺言の全部を取消したものとみなすことは困難であり、右遺言は、抵触する生前処分によりその全部を不可分的に取消したものとはいえず、その余りの部分についてはいまだ有効と認めるのが相当であるとした事例があります。
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