遺言執行者選任審判の執行の要否・・・

遺言執行者選任審判の執行の要否・・・

遺言には、遺言の内容を実現するために、遺言執行者を要するものと要しないものとがあります。

遺言者の意思を適正に実現することが要求される反面、相続人の利益と相反することにもなるので、その執行に当たる人物は厳選されなければなりません。

相手方の遺言執行者に就任して訴えの取り下げをしたことなどによる弁護士法に基づく懲戒処分を維持した事例があります。

原告は、甲から協議を受けて賛助し、かつ、甲及び丙物産から依頼を受けてこれを承諾し訴訟代理人となったものとして、甲及び丙物産の相手方たる亡き乙の遺言執行者に就任することを回避すべき義務又は遺言執行者を辞任すべき義務があったというべきであるから、遺言執行者を辞任しないで、更に進んでA事件を取下げるなどの行為をすることは、これが前記遺言執行者会議の決議に拘束されてしたものであっても、弁護士の品位を失うべき非行をしたものと解し、原告に対する弁護士法に基づく懲戒処分を維持した判決を相当とした事例があります。

なお、弁護士が外国法に準拠して遺言執行者に就任した場合であっても、少なくとも日本国内において、先に協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した当事者を相手方として、遺言の執行行為として訴えの提起、応訴、和解、認諾、訴えの取下げ等をする場合は、弁護士の品位、信用について相手方や社会一般に多大の疑惑を生む点で日本法に準拠した遺言執行者が右行為をした場合と異ならないから、弁護士法25条1号の規定は前記の場合も当然に適用があるとされます。

(職務を行い得ない事件)
弁護士法第25条 弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第3号及び第9号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
1.相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
2.相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの
3.受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
4.公務員として職務上取り扱つた事件
5.仲裁手続により仲裁人として取り扱つた事件
6.第30条の2第1項に規定する法人の社員又は使用人である弁護士としてその業務に従事していた期間内に、その法人が相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件であつて、自らこれに関与したもの
7.第30条の2第1項に規定する法人の社員又は使用人である弁護士としてその業務に従事していた期間内に、その法人が相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるものであつて、自らこれに関与したもの
8.第30条の2第1項に規定する法人の社員又は使用人である場合に、その法人が相手方から受任している事件
9.第30条の2第1項に規定する法人の社員又は使用人である場合に、その法人が受任している事件(当該弁護士が自ら関与しているものに限る。)の相手方からの依頼による他の事件

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遺言執行者選任審判の却下の判断・・・

遺言執行者選任審判事件において、執行を求める遺言が遺言の方式に反した遺言であるとか、後の遺言によって取消されたものであるなど、その無効であることが一見明らかである場合には、結局執行すべき遺言が存在しない場合と同様であるから家庭裁判所が遺言が無効のことを理由として、遺言執行者選任申立を却下することは妨げないが、遺言の効力が実体的審理をもってはじめて決せられるような場合には、家庭裁判所の遺言執行者選任の審判手続において、遺言の効力について審判して遺言執行者選任の許否を決することは相当ではなく、遺言が取消されないで存在し、その形式上一応有効と認められる場合は、家庭裁判所は遺言執行者を選任し、遺言の効力に関しては通常訴訟手続にゆだね、利害関係人に十分攻撃的防御をつくさせた後、判決裁判所をしてこれを決せしめるのが相当であるとした上、本件甲作成名義、乙宛の遺言証書と題する書面は自筆証書方式による遺言としてその形式に欠けるところはないが、原審は右遺言書の内容によれば、甲の死亡当時遺言者の実子出生せず、かつ乙が生存し、遺言者の実印を保管していることを前提としてなされたものと解し、甲死亡の時においては右前提を欠くに至ったために遺言はその効力を生じないものと解し、甲死亡の時においては右前提を欠くに至ったために遺言はその効力を生じないものと判断しているが、少なくとも有効と解しえる部分があり、また、この遺言が後の遺言により取消されたと認め得る証拠はないから、たやすく遺言全部を無効として遺言執行者の選任を拒否した原審判を失当であるとしてこれを取消し差し戻した事例があります。

「遺産相続については、一切妻にまかせる」旨の遺言は委託の内容が包括的白紙的で具体的に欠けるなどの点において無効であるとして遺言執行者選任申立を却下した審判に対する抗告審において、本件遺言の趣旨は一切を妻の自由処分にまかせ同人に包括的に遺贈する趣旨と解することもできないわけではないから、本件遺言は一見明白に無効とはいい難く、別途訴訟手続でその効力を確定すべきであり、その無効を前提に遺言執行者選任申立を却下するのは相当ではないとして、現審判を取消して差し戻した事例があります。

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遺言執行者選任審判の候補者の意見聴取 ・・・

家庭裁判所は、候補者の意見を聴くとともに、就職の諾否及び適格能力の存否を確認します。

遺言の内容、遺言執行の難易など事情を考慮した上適当な遺言執行者を選任します。

相続人は、相続人の資格と全く相容れない内容の執行の場合を除いて、執行者となることができます。

未成年者、破産者は資格を有しません。

(遺言執行者の欠格事由)
民法第1009条 未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。

指定遺言執行者の場合と同様に家庭裁判所は必要があれば、数人の遺言執行者を選任することができます。

(遺言執行者の指定)
民法第1006条 遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
2 遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。
3 遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。

家庭裁判所が複数の遺言執行者を選任する場合は、遺言執行事務が複雑であったり、各相続人に対し公正な職務の執行を期待することができないおそれのある事実を肯定するに足る資料が必要とされ、相続人間に意見の相違がある遺言の解釈等については、遺言執行者は最終的に決定する権限を有するものではなく訴訟によって判断されるべきものであるから、このことは遺言執行者の増員を求める理由とするに足りないとされます。

選任審判に対して即時抗告は許されません。

申立却下審判に対して、利害関係人は即時抗告をすることができます。

即時抗告できる期間は、申立人が審判の告知を受けた日から2週間以内です。

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遺言執行者の職務権限・・・

遺言執行者は、不特定物の給付を目的とする場合において、遺贈の目的物の特定をすることができます。

遺言者甲は本件建物を所有していたが、公正証書遺言により、これを長女乙、次女丙に2分の1ずつ遺贈し、戊を遺言執行者に指定して死亡した場合、遺言執行者は相続による移転登記後、本件建物を占有している相続人三女丁に対してその明け渡しを請求することができます。

遺言執行者は、遺贈の目的につき、賃料の取立てをすることができます。

包括遺贈された土地について、受遺者が所有権移転登記を経由していない場合、遺言執行者は、被相続人からその生前に遺贈にかかる土地を賃借りした賃借人に対して賃料支払い請求することはできないとした事例があります。

遺言執行者は、使用貸借の解約告知をすることができます。

遺言執行者は、受遺者に対する遺贈による不動産所有権移転登記、相続人のない者から包括遺贈を受けた者に対する不動産所有権移転登記の申請義務者になります。

銀行が公正証書遺言により指定された遺言執行者の預金払戻請求を拒絶したことが違法であるとして、損害賠償(預金払戻請求の翌日から払戻日までの間の払戻額に対する民事法定利率年五分の割合による金員、預金払戻請求訴訟の弁護士費用)請求が認められた事例があります。

遺言執行者は、第三者が保管する遺贈の目的となった債権の債権証書の引渡し請求をすることができます。

遺言執行者は、株券未発行の株式が遺贈の目的とされた場合、会社から株券の発行を受けて受遺者に譲渡する手続、遺言による寄付行為に基づく寄付財産として管理する相続財産の株式を設立中の財団法人に帰属させ、その代表機関名義に名義を書き換える行為をすることができます。

遺言執行者は、遺言による寄付行為に基づく財団法人設立許可申請をすることができます。

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