利益相反取引 第三者を介しての関連会社への融資及びその後の債権放棄・・・

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利益相反取引 第三者を介しての関連会社への融資及びその後の債権放棄・・・

大阪地判平成14年1月30日(株主代表訴訟事件)
判夕1108号248頁、金判1144号21頁

<事実の概要>

A株式会社は、関連会社であるB株式会社を含めた5社とともに全国でホテルグループを展開している。

A社はB社の36、6%の株式を保有するとともに、A社の代表取締役Y1・Y2がB社の代表取締役を兼任していた。

A社からB社への融資は、A社が株式の50%を保有するC株式会社を経由して行われており(ただしC社は融資についての実質的な判断を行わず、A社が判断を行う)、A社の保証予約・保証が付されていた。

A社の取締役会規程では、1件3億円以上の融資については取締役会に付議するが、3億円未満の融資については稟議書で決済することとなっていた。

同グループが業績不振に陥って巨額の赤字を計上し続けたため、取引金融機関が再建策を講じなければ金融支援の継続は困難であるとの姿勢を示しだした。

そこで、同グループは経営再建のための3ヵ年計画を策定し、取締役会でこれを承認した。

この中で、債務超過に陥っていたB社については、C社を経由していた融資のうち40億円の債権放棄するとともに、C社を経由した融資を引き続き行うこととなった。

この債権放棄を含む契約は、代表取締役Y1が、A社・B社双方を代表してこれを締結した。

A社の株主であるX1・X2が、A社の取締役が取締役を兼務しているB社への融資はC社を介在させただけで自己取引として評価できるし、債権放棄は自己取引に該当するとして、Y1~Y18らA社の取締役に対し、A社に対して損害を賠償するよう求めて代表訴訟を提起した。

<判決理由>請求棄却。

1「会社が関連会社に直接融資すると当該融資が商法265条1項前段が規定する取引に該当する場合において、会社が第三者を介して関連会社に融資したときは、会社が同条同項の適用を回避する目的で第三者を介在させた等の特段の事情がない限り、同条同項前段の取引には該当しないものと解するのが相当である。

何故ならば、商法265条1項に違反する取引行為は原則として無効となるところ、同条同項前段は文言上取締役と会社の間の取引を要件としているにもかかわらず、前記のような第三者が介在する場合にもひろく同条同項の適用を認めるとするならば、適用範囲が不明確となり著しく取引の安全を害するおそれがあるからである。」

「1件3億円以上の融資については、取締役会規程により取締役会に付議することとされ、1件3億円未満の融資についても、財務部の内規により半期ごとに合計3億円を超える融資については取締役会に付議することとされ、」現にその通り処理されていること「などに照らせば、A社、Y1又はY2が商法265条1項の適用を回避する目的でC社を介在させたなど前記特段の事情があるとは認められない」から、本件各融資は商法265条1項所定の取引に該当しない。

2 本件債権放棄は商法265条1項前段の取引に該当するが、「商法265条1項は、取締役と会社の間の取引について、取締役が、会社の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図るおそれがあることから、会社の利益を保護するため、一般予防的な事前規整として、取締役会の承認決議を要求している。

これに対して、商法266条1項4号は、かかる取引の危険性に着目して、事後的に、利益相反取引によって生じた損害について無過失の連帯責任を負担させることで、各取締役の判断が慎重にされることを期待したものと解される(最高裁第二小法廷平成12年10月20日判決・民集54巻8号2619頁参照)。

そして、商法266条1項4号の前記趣旨に照らせば、形式的には同法265条1項に該当する取引であっても、実質的にみて、当該取引が会社の利益を図る目的でされたものであり、かつ、当該取引の内容、効果等その客観的な性質に照らし会社と取締役又は第三者との間に利益相反をもたらさないと評価される場合にまで、あえて損害賠償責任を負担させるようなことは予定されていないというべきである。

そこで、このような場合、当該取引は商法266条1項4号にいう「前条第1項の取引」には該当せず、同号に基づく損害賠償請求権は発生しないものと解するのが相当である。」

「本件債権放棄等は、もとよりY1個人又はB社の利益を図るためにされたものではなく、A社の利益を図るためにされたものであり、かつ、B社の債務超過を減少させて財務体質を改善しその倒産を防止することを通じて、出資金の無価値化等A社が被るおそれのある直接損失を回避するとともに、A社の信用を維持し金融機関からA社に対する融資残高を維持する等の効果を有していたなど、その客観的な性質に照らしA社とY1個人又はB社との間に利益相反をもたらさないと評価される。

したがって、本件債権放棄等は、商法266条1項4号にいう「前条第1項の取引」には該当せず、同号に基づく損害賠償請求権は発生しない」。

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取締役の違法行為の差止請求権・・・

東京高判平成11年3月25日(違法行為差止請求控訴事件)
判時1686号33頁

<事実の概要>

A社は電気事業を主要な事業とする株式会社である。

昭和64年1月、A社が設置する原子力発電所の原子力発電機(以下「本件原子力発電機」)はその再循環ポンプに破損を生じ、運転停止に至る事故を起した。(以下「本件事故」)。

その後A社は修理等の措置を施し、監督官庁等による調査・検査・許可等の法定の手続を経た上で、平成2年12月に本件原子力発電機の運転を再開した。

A社の株主であるXが、A社の代表取締役であるYに対し、Yが従業員に対して本件原子力発電機の運転の継続を命じるのは法令違反であり、これによってA社に回復すべからざる損害を生じるおそれがあると主張して、前商法272条による違法行為の差止を求めて提訴。

原審敗訴を受け、Xが控訴。

Xが主張する法令違反の内容は以下の2つである。

①本件原子力発電機は電気事業法39条1項に基づく通産省令(当時)の定める技術基準に適合しないため、本件原子力発電機の運転の継続を命じることは電気事業法39条1項に違反する。

②Yには本件原子力発電機の安全上の欠陥について対策を講ずる義務又はその調査をする義務があり、それらを怠って本件原子力発電機の運転の継続を命じることは代表取締役の善管注意義務又は忠実義務に違反する。

<判決理由>控訴棄却。

①について「電気事業の経営を執行するYは、法令遵守の一環として(電気事業法に基づき通産省令が定める)技術基準をも遵守する義務があり、その業務の執行に当り、本件原子炉施設が技術基準に適合するか否かについても留意し、技術基準に適合するようにこれを維持すべき義務を、代表取締役の善管注意義務ないし忠実義務の一態様としてA社に対して負う・・・。

他方、原子炉施設の安全性・健全性に関する評価・判断は、極めて高度の専門的・技術的事項にわたる点が多いから、原子炉施設を設置・運転する会社の代表取締役としては、特段の事情がない限り、会社内外の専門家ないし専門機関の評価・判断に依拠することができ、また、そうすることが相当というべきである。

すなわち、本件のように、発電の用に供する原子炉施設について(担当大臣)による設置、運転等に関する規制が行われており、法令等による所要の諸検査が実施され、全検査の終了、合格が確認された上で原子炉が運転される場合においては、検査の過程及ぶ合格の判断に過誤があることが明らかであるなど特段の事情がない限り、A社の代表取締役であるYが、右諸検査の終了、合格という結果を信頼して、本件原子炉施設に技術基準に適合しない状態はないと判断して原子炉の運転の継続を命ずることは、代表取締役としての会社に対する善管注意義務ないし忠実義務・・・に違反するものではないというべきである。」

(本件原子力発電機の技術基準違反の有無を検討した上で、)「以上によれば、本件原子力発電機・・・に技術基準違反があるとは認めることができない上、本件事故後、本件原子力発電機の運転を再開するについて、(監督官庁)による健全性の検査の過程及び合格の判断に過誤があることが明らかであるなどの特段の事情も認められないから、技術基準不適合による電気事業法違反を前提とするY・・・の善管注意義務ないし忠実義務違反があるということはできない。」

②について「本件のように事故が発生し一旦停止した原子炉の運転を再開しその継続を命じようとするに当っては、本件事故による本件原子炉施設の損傷状況、事故後に機器等に施された修理等に関する諸事実を基礎として、修理後の本件原子炉施設の健全性及び事故発生防止対策の有効性について慎重な検討を行い、これに基づいて業務執行をすることが、代表取締役として尽くすべき注意義務ないし忠実義務の具体的内容をなすというべきである。

もっとも、右のような原子炉施設の健全性についての判断は、特殊な専門領域における科学的、専門的、技術的な知識、経験を必要とするものであり、Y自身が必ずしも必要とされる専門的、技術的知識、経験の全般にわたって、これを具有することを期待し得ないから、Yとしても右善管注意義務ないし忠実義務を尽くしたというためには、社内の専門的知見を有する者らの報告、情報、意見や社外の信頼すべき公的専門機関やそこに所属する専門家の判断、見解、さらには監督官庁の指導などを踏まえつつ、それらの意見等を尊重し、これに依拠して業務を執行することが必要であり、かつ、それらの意見等を信頼して業務の執行あたる場合には、特段の事情のない限り、代表取締役としての会社に対する前記義務は尽くされていると解するのが相当である。」

「本件原子力発電機を継続運転した場合、Xの指摘するような事故を発生させる抽象的危険を内包しているとしても、・・・A社の最高経営責任者であるYは、・・・(様々な)利害得失についても総合考慮した上で経営的判断をせざるを得ない立場にあるところ、監督官庁である・・・原子炉等の安全確保のための規制に関する事項を所轄事務とする・・・公的機関が、専門家の調査・検討に基づいて下した本件原子力発電機の健全性についての評価・判断に、右検査の過程及び合格の判断に過誤があることが明らかであるなどの特段の事情が・・・は認められず、今後十分な監視を行うべきであるとの・・・(監督官庁等)の指摘ないし指示を順守する限り、右諸検査の終了、合格という結果を信頼し、それに依拠して、本件原子炉施設に安全上の欠陥状態はないものと判断して本件原子力発電機の運転の継続を命ずることができ、また、A社の組織内部の原子力発電等の専門家の判断についても、その判断の前提データに捏造や過誤があることや判断そのものに過誤があることが明らかに認められるなどの特段の事情もみとめられないので、これを信頼して原子力発電の運転業務の遂行を命ずることも許され、その限りでは、Yの代表取締役としての会社に対する善管注意義務ないし忠実義務・・・に違反するところはないものといわざるをえない・・・。」

(Xは、Yには第三者から安全上の欠陥について具体的根拠を挙げて指摘があったときはこれを調査する義務があり、調査によって安全性が確認されない限り、原子力発電機の運転を停止する義務があると主張するが、)「代表取締役は、判断過誤を疑うべき具体的根拠がない限り、公的な専門機関の判断を再調査すべき義務はなく、また、不正を疑うべき出来事が発生するまでは、A社内部の専門的、技術的管理部門ないしその従業員の誠実さを信頼してよいのであって、それらのデータの捏造、虚偽報告、判断の過誤等を疑って、自ら若しくは会社の探索機関を組織して独自に調査する義務まで、最高経営責任者の善管注意義務の一態様として負うものとはいえない。」

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取締役の報酬 定款又は総会決議なき場合・・・

最判平成15年2月21日(所有権移転登記末梢登記手続等請求事件)
金法1681号31頁

<事実の概要>

Yは、昭和61年3月2日から平成5年6月21日までX株式会社の代表取締役であった。

X社の発行済株式総数2万株のうち、Yは平成5年2月までに3000株を取得したが、残りの1万7000株は他の株主が保有している。

X社には取締役の報酬額を定めた定款の規定はなかったし、株主総会の決議もなされていない。

YがX社から取締役の報酬として支給を受けた額のうち、昭和61年9月分までは全株主の同意があったが、昭和61年10月分から平成3年7月分まで支給を受けた4275万円については、株主総会の決議に代わる全株主の同意がなかった。

そこで、X社が、Yが本件取締役の報酬の支給を受けたことが前商法269条に違反するなどと主張して、Yに対し全商法266条1項5ごうに基づく損害賠償の支払を求めて提訴した。

第1審判決は、Yは従前全株主の合意を得て取締役としての報酬の支給を受けており、その後の各営業年度において株主総会が開催されなかったことで報酬額が減額されたと解することはできず、従前全株主の合意のあった月額35万円の限度で報酬請求権を有するとして、請求を一部棄却した。

これに対して原審判決は、株式会社・取締役間には通常、有償である旨の黙示の特約があるから株主総会決議なくしても取締役は相当な額の報酬を請求でき、本件報酬相当額は少なくとも現実の支給額を下回らないとして、請求を全部棄却した。

X社は上告した。

<判決理由>破棄自判。

「株式会社の取締役については、定款又は株主総会の決議によって報酬の金額が定められなければ、具体的な報酬請求権は発生せず、取締役が会社に対して報酬を請求することはできないというべきである。

けだし、商法269条は、取締役の報酬額について、取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止するために、これを定款又は株主総会の決議で定めることとし、株主の自主的な判断にゆだねているからである。

そうすると、本件取締役の報酬については、報酬額を定めた定款の規定又は株主総会の決議がなく、株式会社の決議に代わる全株主の同意もなかったのであるから、その額が社会通念上相当な額であるか否かにかかわらず、YがX社に対し、報酬請求権を有するものということはできない。

ところで、Yは、報酬相当額の不当利得返還請求権等との相殺の抗弁を主張しているが、本件でX社から不服申立があったのは、原審において請求を棄却された2245万円の損害賠償請求に関する部分についてのみであり、第1審において取締役の報酬請求権があるとして損害賠償請求を2030万円の限度で棄却している(この部分は不服申立がない。)という経過等に照らしてみれば、この主張は、結論に影響を及ぼすものではないというべきである。」

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役員の報酬・退職慰労金・・・

最判昭和39年12月11日(株主総会決議無効確認請求事件)
民集18巻10号2143頁、判時401号61頁、判夕173号131頁

<事実の概要>

Y株式会社は、定時総会において、辞任常任監査役Aに対する慰労金贈呈につき、その金額・時期・方法等を取締役会に一任する旨の決議をなした。

これに対し、Y社の株主Xが、退職慰労金は報酬にあたり限度額の制限をせずに取締役会決議に一任することは監査役の報酬につき前商法269条を準用していた昭和56年改正前商法280条に違反すると主張し、本件決議の無効確認を求めて提訴した。

第1審判決・原審判決は、本件退職慰労金が報酬に該当するとして上で、取締役がY社の業績・退職役員の勤続年数・担当業務・功績の軽重等から割り出した一定基準に従って慰労金を決定することが慣例になっていたところ、本件決議はこの慣例によって慰労金を定むべきことを黙示してなされたものだから有効であるとし、請求を棄却した。

Xは上告した。

<判決理由>上告棄却。

「原判決は、従来Y社において退職した役員に対し慰労金を与えるには、その都度株主総会の議に付し、株主総会はその金額、時期、方法を取締役会に一任し、取締役会は自由な判断によることなく、会社の業績はもちろん、退職役員の勤続年数、担当業務、功績の軽重等から割り出した一定の基準により慰労金を決定し、右決定方法は慣例となっているのであるが、辞任した常任監査役Aに対する退職慰労金に関する本件決議に当っては、右慣例によってこれを定むべきことを黙示して右決議をなしたというのであり、右事実認定は、挙示の証拠により肯認できる。

株式会社の役員に対する退職慰労金は、その在職中における職務執行の対価として支給されるものである限り、商法280条、同269条にいう報酬に含まれるものと解すべく、これにつき定款にその額の定めがない限り株主総会の決議をもってこれを定むべきものであり、無条件に取締役会の決定に一任することは許されないこと所論のとおりであるが、Y社の前記退職慰労金支給決議は、その金額、支給期日、支給方法を無条件に取締役会の決定に一任した趣旨ではなく、前記の如き一定の基準に従うべき趣旨であること前示のとおりである以上、株主総会においてその金額等に関する一定の枠が決定されたものというべきであるから、これをもって同条の趣旨に反し無効の決議であるということはできな。」

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